亀戸梅屋敷寄席22(中・三遊亭鳳志「小言幸兵衛」)

そして仲入りは三遊亭鳳志師。
目当ての人だが、冒頭、何を語っていたか忘れた。オリンピックに触れていた覚えがあるのだが、気が散ってしまって。
コロナ対策で、会場は上部の窓を開け放してある。そのため、外から音が聞こえる。
なんだか、生垣の剪定でもしているのか、機械音が始まった。
どういうわけか鳳志師は、変なものを引き寄せるパワーがあるみたい。こんなシーンにたびたび出くわしている。
鳳志師の高座の最中、以前後ろにあった楽屋がやたらうるさかったことがあった。
そして前回は、好楽師が袖でひげ当たってるらしい、シェーバーの音が客席に聞こえた。
まあ、こんなこともある。本編が始まってからは、高座に気を遣ったわけでもなかろうが剪定音は終わっていた。
あるいは、前座の楽太さんが走っていってお願いでもしたのか。

噺家の稽古について。師匠・鳳楽は、鳳志師が語る際に寝ている。
一席終わって、「全然だめ」。
いっぽう、大師匠先代圓楽(モノマネ入り)も、やはり寝ている。
一席終わって、「名人!」。

マクラから薄く小言でつながるらしい、小言幸兵衛へ。
結構好きな噺だが、寄席では意外と珍しめ。
寄席に限らず、パワハラ要素があるので、廃れていくかもしれない。
構成次第では、トリを取れる大ネタにもなる。昨年、国立演芸場で柳家さん遊師のものを聴いたが、これは絶品だった。
それはそうと鳳志師の、寄席のこの出番向けの編集はすばらしい。

大家の幸兵衛さん、長屋を巡回するくだりはなく、もっぱら婆さんに小言を言っている。
このため幸兵衛さん、客の目にはパワハラジジイとしては映らない。マイナス部分なくスタートする。
最初の客、豆腐屋には子がないのではなく、「8つを頭に13人」の子がいる。双子が何組もいるそうで。
そんなにいたら食い物商売には邪魔だから、かかあを取り換えろと幸兵衛さん。
こういう持っていきようもあるのだ。でも啖呵は一緒。
「土手っ腹ぶち破ってトンネル掘って汽車ぶち込むぞ」といういにしえのクスグリが入ってて、ちょっと嬉しい。
豆腐屋が帰ったあと、このくだりをこぼす幸兵衛さんに、婆さんが「まあ、便利ですね」。
元ネタは、難工事で知られる丹那トンネルのことだと思うのだ。1934年開通。

楽しい豆腐屋のくだりは、まだまだジャブ。
2人目の仕立て屋がやってきて、幸兵衛ワールド全開。ちなみに、3人目の鍛冶屋は出ない。

小言幸兵衛という噺、疑問など持たなきゃ持たないでいいのだが、気になる人もいると思う。
どうして品のいい仕立て屋の入居を、幸兵衛は因縁を吹っかけて拒むのか。
だが鳳志師の芝居仕立てで繰り広げられるこの噺だと、まるで気にはならない。幸兵衛さんが、終始遊んでいるのがよくわかる。

鳳志師、仕立て屋に対する大家の対応を、最初から徹底して、芝居として描く。
思わず身を乗り出す私。
特に画期的なクスグリが入っているわけではないのだが、芝居として進んでいくのでとても楽しい。
登場人物が遊んでいるので、噺にいやなムードは片時も流れ込んでこない。

そして日ごろから芝居が大好きらしい鳳志師、語りからちゃんと、芝居の舞台が浮かんでくる。
扇子で文を拾うあたり、とても丁寧。
「私まだ越してきてないんでございます」とか、「お前の息子は(女しかいない家に)上がりこむんだ」など、妄想と現実を区切るセリフ回しは控えめな鳳志師。
噺の狙いがよくわかる。

心中のお題目が、真言の「おんあぼぎゃ」になってしまうところでサゲ。こんなところでもサゲられるんだ。

鳳志師は、亀戸では仲入りやクイツキでしか聴いたことがない。
一度トリにも来てみたいし、独演会にも行ってみたい。
44歳とまだ若いのに洒脱。でも、枯れた魅力ではなく、固めではあるもののあくまでも瑞々しい。
もっと売れていい人だと思う。
顔は元横綱花田虎上氏に似ている。ということは立川生志師と同じ系統ということになるが、もう少し男前寄り。

仲入り休憩後は三遊亭好太郎師。
還暦を迎えた師、手首付近の動脈の大手術をした。
足の静脈を切り取ってきて移植する大手術。外科医は凄腕なのだが、包帯巻くのは下手だそうで。
現在、痛む右手をリハビリ中とのこと。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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