昔ながらのオチ分類 その7(とんとん落ち)

実に久々の落語のオチ(サゲ)分類を。
前回「間抜け落ち」はこちら。
間が空いたのは、小難しい内容のためアクセスがよくなかったから。
だが、このようなジャンル、好きな方は好きなようで、ジワジワ伸びてきました。検索にはよく掛かるもので。

既存の分類には欠けた概念があるようだ。その「シャレ落ち」を当てはめるとスッキリすると思ったのだが、その前に今回は「とんとん落ち」を。

なお、オチの話、じきに終わります。もう既存の分類も残っていないから。
後は、こんなの。

  • 回り落ち
  • 見立て落ち
  • 仕込み落ち

このあたり、触れるか触れないかわからない。

とんとん落ち

さて、とんとーんとオチる噺が、とんとん落ち。
ハマると、実に気持ちがいいものだ。
「とんとーん」と落ちるさまを形容したのがとんとん落ち。
具体的なオチのフレーズに基づく分類ではない。いっぽう、噺の展開に関する分類にはなっている。
桂枝雀は、既存の分類が不合理だと言い、人間心理に基づいたオチの4分類を作った。だが、既存の分類であるとんとん落ちも、他の分類との整合性の問題はあるにせよ、人間心理に基づいた分類ではあるのだ。

とんとん落ちで、まず思い浮かぶのが「星野屋」。
旦那が妾に心中を持ち掛けるが、妾は後を追わない。
旦那に騙されたことを知った妾は逆襲するが、さらに騙される。
だが最後にちょっとだけ、騙し返す。
これが終盤、まさしくとんとーんと進む。
キングオブとんとん落ちである。

いつも参照して、いつもツッコミを入れている芸協公式の演目一覧を見ると、こんな噺がとんとん落ちだそうで。

  • 掛取り
  • がまの油
  • 子ほめ
  • 雑俳
  • 山号寺号
  • 高砂や
  • たがや
  • 一目上がり
  • 無精床

山号寺号は、プリンスオブとんとん落ちだ。「一目散随徳寺」「南無三仕損じ」。
トントン運ぶ。
ただ、珍品。市馬師匠がやりますね。

一目上がりはそう、とんとん落ちですね。
ただし、「いい六だね」「七福神だよ」で落としてしまうと、とんとんと行かない。その先の「芭蕉の句だ」まで行かないと。
子ほめ、雑俳はわかるような、わからないような。
終盤に、畳みかけるようにボケを連発すると、「とんとん落ち」っぽいみたい。
ただし、星野屋のように見事なサゲではない。星野屋は、次から次への逆襲を、全部前から引いているからだ。
子ほめの「どう見ても、タダでございます」なんてのは、ここだけ見れば「間抜け落ち」だと思うが。

掛取りは、三河万歳までいけばまあ、かろうじてとんとん落ちっぽいかも。最後はボケを無限に拡大していく。
これ以外の演目は、まったくわからない。
「がまの油」はスラスラ進みはするが、トントンとは進まない。これは客に血止め薬をねだるという点で、逆さ落ちだと思う。
「高砂や」は? 先日入船亭小辰さんが、「婚礼にご容赦」という、よくわからない古いサゲを出しているのを聴いたが、それのことか。でもトントンとは進まないな。
「たがや」「無精床」はまるでわからない。
無精床の本来のサゲってなんだっけ。
「隣は葬儀屋だ」らしい。無精な親方に、頭のてっぺんを切られて抗議する客に、親方が言い返すのである。
なるほど、散々適当な行動をする親方が、畳みかけてとどめを刺すのだ。でも、こんなサゲ、今できないよなあ。

これ以外にないものか。
「愛宕山」は、トントンと落ちていないかな。
谷底からぴょんと戻ってきた幇間の一八、カネはどうしたと訊かれて「忘れてきた」。
テンポはいい。だが、「とたん落ち」でも取り上げた通り、そちらの分類のほうがいいか。
とたん落ちととんとん落ちの違いは、連続性があるかないかだ。スパっと切るのがとたん落ち。

Wikipediaの落語の演目一覧を見ていたら、新作落語でひとつ見つかった。
柳家喬太郎師の「寿司屋水滸伝」である。現在では春風亭百栄師がもらっていて、たまにやる。
CDに入っている本来のサゲではなくて、寄席で掛けるとき締めるサゲが、とんとん落ちっぽい。
寿司ネタ1種類のみのエキスパートが狭い寿司屋にどんどん集まってきて、客が笑っているうちにサゲてしまう。

湯屋番も、サゲが無数にあるので本来分類はしづらいのだが、現在寄席で掛かるものはとんとん落ちと言ってもいいかもしれない。
番台に座る若旦那の妄想がエスカレートしていき、ピークを迎えたところでサゲるという。

あとは蜘蛛駕籠もどうか。
二人で駕籠に乗る悪いシャレ。相撲になって底が抜けて、なおもシャレは続き、抜けた駕籠を担いだままみんなで歩き出す。
視点が変わって、「あれが本当の蜘蛛駕籠だ」。
サゲを言う登場人物が、まったくゼロから登場する珍しい展開。とたん落ちでもいいのだが、やはり連続性からとんとん落ちだと考えたい。

あと、寿限無。別に面白くはないけど。

続きは「しぐさ落ち」になりました。

 

作成者: でっち定吉

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