昔ながらのオチ分類 その6(間抜け落ち)

緊急事態宣言でまた混乱の落語界。7日夜現在、芸協は対応を発表しているが落語協会はまだ。いつものことだが。
とりあえず、今日は人気のない不定期連載に戻ります。その1はこちら。
アクセス数はともかく、「逆さ落ち」「ぶっつけ落ち」などで検索すると、私の記事が1ページ目にヒットする。
ちょっとやる気を出して続けます。「○○オチ」(カタカナ)のキーワードではまだ、引っ掛かったり掛からなかったり。

間抜け落ち

既存のオチ(サゲ)分類、第6弾は「間抜け落ち」。
間抜け落ちは、文字通りの間抜けなサゲ。しかし、不思議な名称。
そもそも、落語の登場人物なんて間抜けな人ばかり。八っつぁんに熊さん、人のいいのが甚兵衛さん、馬鹿で与太郎。
上方落語でも、ご存じ喜六だけでなく、多くのアホが出てくる。
だいたいオチも、間抜けに決まっているのだ。
では、わざわざ名乗る間抜け落ちとはなにか。客の目から見ても「そんな馬鹿な」と映るもののことだろう。
中途半端な、それまでの展開と掛かったギャグでなく、振り切ってしまうと間抜け落ちとなる。
既存のサゲ分類を否定した、桂枝雀の4分類のうち「へん」に該当するものが多いだろう。客にいささか「不安」な感情を起こさせるサゲ。
枝雀が「へん」の例に挙げていた「池田の猪買い」も、この古い分類では間抜け落ちだろう。

間抜け落ちに分類される噺を探す。例により、芸協の公式(あまり信用していない)から引いてくる。
間抜け落ちは非常に多い。あまりにも多いので、マイナーな噺や、複数のサゲがいずれも知られている噺を中心に多少削ったが、以下の膨大な数の噺が残る。
そして、私が間抜け落ちの例として適切と考えるものに◎を付けている。

  • 青菜
  • 愛宕山
  • あわてもの(※ 堀の内)
  • 大安売り
  • 笠碁
  • ◎釜泥
  • 紙入れ
  • 看板のピン
  • 十徳
  • ◎粗忽長屋
  • ◎粗忽の釘
  • ◎代脈
  • 千早ふる
  • 長短
  • ちりとてちん
  • 転失気
  • 時そば
  • 長屋の花見
  • 寝床
  • 初天神
  • ◎花見酒
  • 反対俥
  • 雛鍔
  • ◎干物箱
  • 船徳
  • ◎松山鏡
  • ◎目薬
  • ◎百川
  • 宿屋の仇討
  • ◎ろくろ首

要は、間抜け落ちとは落語の演目を代表するものということらしい。

上の一覧にない噺で、間抜け落ちに分類可能なものを先に除いておこう。
「金明竹」は、間抜け落ちにも含められるが地口落ちでいい。地口というか、「かわず」という言葉が完全に一致しているのは難点だが。
「子ほめ」も十分間抜けなのだが、畳みかける落とし方なのでトントン落ちのほうがいいかも。

上の一覧にも、すでに見てきた分類のほうが妥当なもの、少なくとも間抜けとは言えないものが散見される。
間抜け落ちのように、なんでも入れてしまえるオチの分類に、必要以上に詰め込まないほうがいいと思う。
たとえば「初天神」は逆さ落ちのほうがピンとくる。

看板のピンは間抜けな奴が主人公ではあるが、サゲは別に間抜けではない。
雛鍔、宿屋の仇討については、間抜けでなく賢いセリフ。寝床も、間抜けでもない。
Wikipediaには、時そばが間抜け落ちの代表とあるが、これにも違和感。
確かに主人公は間抜けだし、時間の認識も狂っている。
だが、サゲ自体は看板のピンと同様、現象に過ぎない。

やはり、聴き手の想像を超える「そんなバカな」「んなアホな」を間抜け落ちに認定したい。
知恵者が作為的に発したものは「間抜け落ち」とは言いづらい。間抜けな奴や酔っ払いが、思わず発したセリフを間抜け落ちにしたい。
与太郎が落とせばなんでも間抜け落ちだとはいえないように思う。
「ろくろ首」は与太郎の本心から出たセリフだが、「牛ほめ」には作為がある。

現実からの振り切り方が大きければ大きいほど、サゲの価値が高まる。
釜泥の爺さんは本格派の間抜けではないものの、ちょっと抜けた人であり、しかも一杯引っ掛けていい気持ち。
泥棒が運んだ釜の蓋を開け、「家ごと盗まれた」とつぶやくのは実に見事な間抜け落ち。
楽しい噺なのにあまり掛からないのは残念。泥棒が釜を盗む目的にリアリティがなさすぎるのか。

花見酒も酒がらみ。べろべろになって、「なら勘定はあってらあ」。実にスムーズである。

上記以外にも、間抜け落ちの典型例を探してみよう。
泥棒ものは間抜け落ちと親和性が高いようだ。
「穴どろ」「鈴ヶ森」「めがね泥」「もぐら泥」など、すべて間抜け落ちにしたい。
もぐら泥なんて、泥棒さん本人が「ドロボー!」だもの。実に間抜けだなあ。
この点、転宅は主人公は間抜けなのだが、間抜け落ちとは言いづらい。「どうりでうまくかたりやがった」は地口落ち。

それから「強情灸」はいかにも。
「五右衛門は熱かったろう」というセリフに、作為がないところが大事だと、これは私のバイブル「五代目小さん芸語録」から。

ところで間抜け落ちについて考えていたら、間抜けの対立概念についてもイメージが具体化してきたのだ。
既存の古いサゲ分類には、足りない要素があると思っていたのだが、この概念が固まってきた。
「合わせ落ち」からスタートし、「拾い落ち」という概念を確立しつつあった。これは、サゲの発話者が、噺に出てきた要素を拾い上げ、事象に重ね合わせて発するもの。
「蜘蛛駕籠」がいい例。
だが、拾い落ちとイコールの概念ではなくて、「シャレ落ち」という分類が成り立つのではないか。
発話者が、なにかとなにかを作為的に結びつけると「シャレ落ち」になるのでは。
だから「間抜け落ち」に入れられかねない、「かぼちゃ屋」「牛ほめ」という与太郎ものは、「シャレ落ち」に分類できるのだ。

ここまで我慢してついてきた読者が離脱しているのを実感しつつ、次の掲載時は「シャレ落ち」について考えます。

次はシャレ落ちではなく、「とんとん落ち」になりました。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 年末年始バタついてご挨拶が遅れて申し訳ありません、うゑ村です。

    オチの分類興味深く読ませてもらっています。私は丁稚定吉さんほど落語に詳しいわけでもないのでオチの分類が正しい正しくないという域までは至りませんでしたがかわりに「なるほどこういう分け方も確かにできるな」といった感覚になっています。

    これはあくまでも私個人の感覚ですが時そば、青菜、看板のピンは真似して失敗するから「真似オチ」かなとか狸の札、からぬけ、転失気はギャフンと言わせるから「一杯食わせオチ」かななどと自分だけのオチ分類を考えると頭の体操になって面白いなということに気づきました。

    最後にオチの分類に関しては「落語家100人に聞いてみたオチの分類」みたいな本があってもいいかもなと思いました(野暮なタイトルですが)実際に落語を演る落語家さんの多角的な解釈で「あぁこの噺は○○オチが何%なんだ」みたいな発見もあるのかな、と。

    文筆業をされている丁稚定吉さんがそういった本を出していただけたらというのはわがままなのかも知れませんが(苦笑)

    長くなってしまいましたが2021年もよろしくお願いいたします

    1. うゑ村さん、いらっしゃいませ。9日の更新をサボっておりますが、うゑ村さんのコメントのおかげでこの記事のアクセスがちょっと増えました。
      興味を持ってくださる方がいらして幸いです。
      まあ、「オチの分類」なんて学術的に意味があるのかわかりませんけども。
      分類をしているとどこかで破綻しがちなのは、サゲをセリフで捉えるか、流れで捉えるかにもよるでしょう。
      青菜や看板のピン、流れで捉えるとオウム返しですが、セリフで捉えるとまた変わってきてしまいます。
      ちなみに、プロは手を出さないほうがいいように思います。サゲを考え続けても、落語は上手くなりませんし。
      枝雀が新たなサゲの分類を始めた際、これは危険だと予言した人(噺家ではない)がいたように思います。

      さて、今日もこれからなにかしらアップいたします。

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