鈴本の冒頭に戻ります。
今日の鈴本は、「落語の基礎」に充ちていたように思う。
基礎とは、初心者の要素ということではない。何度でも帰ってくるべきもの。
私の愛する池袋演芸場(落語協会の席)には、ちょっと基礎が足りないかもしれない。いっぽう、新宿末広亭にはふんだんに詰まっている。
鈴本はどちらにでも転ぶ気がするのだが、今日は末広亭に近い感じ。
ちなみに今日のお客は、落語についてはよく知っている感じの人たち。スレてはいないが、楽屋ネタもまあまあ知っているという。
混雑はしていたが、札止めにはならなかった。
いつものように私は東京かわら版で200円引き。現金投入機に3,000円入れてお釣りをもらう。
私は現金ほぼ持ち歩かないので、落語のためにファミマでおろす。
そして現金投入機の処理はちっとも速くない。QRコード決済のほうが絶対いいと思う。
寿限無 | 左ん坊 |
牛ほめ | やなぎ |
翁家社中 | |
締め込み | 喬之助 |
転失気 | 馬遊 |
ロケット団 | |
アジアそば | 白鳥 |
碁どろ | 小里ん |
アサダ二世 | |
長短 | さん喬 |
(仲入り) | |
小菊 | |
浮世床(太閤記) | さん花 |
道灌 | 扇辰 |
二楽 | |
文七元結 | 喬太郎 |
「寿限無」と「道灌」、「締め込み」と「碁どろ」とが、それぞれツいてる気がしてならない。
まあ、寿限無で隠居のところに上がるタイプは少数派。ネタ帳見てる扇辰師としては仕方ないところ。
もっとも、寺に行く通常のパターンだったら、今度は転失気とツく気がする。
そして締め込みと碁どろって、どちらも泥棒ものじゃないか。いいのか。
それから碁どろと長短も、煙草のみの噺で、結構ツいてる。
別に文句じゃない。ちょっと気になったという程度です。
ちょっと期待している前座の柳亭左ん坊さんは寿限無。
最近実によく聴く噺。そして、流行ると面白くなってくる。
左ん坊さんは、まったく力をこめず語るのが実にいい。八っつぁんと隠居のくだりがとてもいい。
ちなみに、言い立てはこう。
寿限無寿限無五劫のすりきれず、海砂利水魚の水行末雲行末風来末、食う寝るところに住むところ、ヤブラコウジのヤブコウジ、パイポパイポパイポのシューリンガン、グーリンダイポンポコナーのポンポコピーの長久命の長助
今回のポイントは「すりきれ」でなく「すりきれず」。
あと、シューリンガンとグーリンダイがそれぞれひとつ。ポンポコナーが先。
演者により毎回微妙に違う言い立てを、どこがどうだったか覚えて帰ってくるってすごくないですか。
感心する方だけしてくださったらそれで結構です。
子供の名を相談に訪ねていくのは、横丁のデコボコ隠居。
「あたしが命名親か」「いえ、山羊の子じゃねえんすよ」なんて気負わないやり取りが入っている。
さらっとクスグリ入れてくるのがいい。
そして名前が長い騒動は、コブのくだりだけに絞り込む。
父ちゃんも母ちゃんも名前をフルスピードで言っているのに、途中で割り込む婆さんだけゆっくり。そして最後は「なんまいだ」。
これ、オリジナルは円丈師の「新・寿限無」じゃないだろうか。
手短な一席で、終わった時間がまだ開演前だった。12時23分ぐらい。
でも普通に番組は続く。
番組トップバッターの柳家やなぎさんは久々。
さん喬一門には珍しく、神田連雀亭には出ていない。
調べたら私は2年振り。そういえば転失気で、「ラグビー強いわね」なんて入れてたっけ。
軽い自己紹介マクラから、いきなりひとり語りに入るやなぎさん。
新作もやる人だし、こういう落語なんだろうかと。彦いち師などに触発されたドキュメンタリー落語かもしれない。
ハンバーガー屋で出会った、ネジの緩んだ店員の話。だが、これもマクラだった。
店員の爆笑エピソードを語り、私は彼を与太郎と呼びたい。そう言って「おい与太郎」と本編に入る。
落語の構造を自由自在に伸び縮みさせる、見事なウデ。
本編は牛ほめ。
家の褒めかたは、「うちは総体檜造りでございます」だけ。
その後、牛の褒め方が入っている。「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」とおなじみのフレーズを語ってからおとっつぁん、われに返る。ああ、すまないすまないそうじゃないと。
おじさん、オーストラリアからホルスタイン買ったんだよと言って、ホルスタインの褒めかたを教えてくれる。
そういえばやなぎさん、実家が酪農家だったっけ。
それはそうと、いきなりホルスタインを古典落語に放り込んで、変な感じにならないのはすごい。
かといって、おふざけが振り切っているわけでもない。とにかく世界を緩く構築しているので、なんでもできるのである。
途中で「師匠にはもうあきらめられてる」なんて自虐ツッコミが入る。
その割には、ちゃんと秋葉さまのお札も入るし、「屁の用心」のサゲも同じ。
一席終えてなぜか逃げるように去っていくやなぎさん。
たまに古典落語をいじり、ほどを誤り、ただ空気をヘンな感じにして去っていく二ツ目がいる。
やなぎさんはそんなのとまるで違う。まあ、この人も多少やらかしてきてると思うのだが。
細部までしっかり楽しい一席でした。