鈴本演芸場7 その4(柳家喬之助「締め込み」)

今日の高座返しは見たことのない人。さん喬師の末弟、小きちさんらしい。
開演前、仲入り時のアナウンスもしていたが、実に声がいい。期待大。

翁家社中の太神楽。
先日浅草で、テンプレートを一新した楽しい高座に出くわした。
今日も同じだが、隙がなく、繰り返し観ても実に見事。
演者の入れ替わりと仲入り時間を長めに取らねばならないこの日は、スピーディ。調整も上手い。
そして、古典落語の甚兵衛さんとおかみさんみたいな夫婦のやり取り。
他の太神楽も、笑いをもっとパワーアップして欲しいなと思う。別に爆笑でなくて、クスッとする程度でいいですから。

続いて最近、お見かけするたび面白くなっている柳家喬之助師。
最近では左龍師と交互で入るなど、寄席を足掛かりに出世街道を歩んでいる。今回は単独の顔付け。
「大勢お集まりでありがとうございます。おあと馬遊をお楽しみに」。
喬之助師は、師匠譲りの「締め込み」。
先日、さん喬師の締め込みで寝てしまったので、弟子で取り返そう。
師匠のフレーズは「そこです」だが、弟子は「そこなんです」とちょっと違う。

面白系なのに、人情味も背景に漂う見事な一席である。
亭主が、泥棒の作った包みを(古着屋だと思って)見ていき、「俺の好みだな」と言いつつ、羽織でもって気づくのが面白い。亭主のおっちょこちょい振りが飲み込める。
泥棒の作った風呂敷包みを原因にして、夫婦が誤解でもって離縁しようとする噺だが、喬之助師、噺にふわっと迫る。
本気の喧嘩ではあるけど、どこかに余裕があるのがいいな。落語だからな。
なんだか、夫婦愛を語るために喧嘩してるみたいだ。八百長喧嘩だ。そこがいい。
本気で別れる噺になっちゃったら、泥棒が出たってもう取り返せない。

泥棒を引き留める亭主が、「二三軒仕事のしやすい家みつくろってやる」。
それに対し泥棒が「冗談言っちゃいけねえ」の冗談オチ。意外と最近、冗談オチ聴かない。
「締め込み」の意味がわかる最後までやれないこともないが、どこで落としても効果はさほど変わらぬ。

続いて金原亭馬遊師。
なんで顔付けされるのかわからないが、キョン師と仲良しだからなのか。
6月の池袋でもそうだった。その際と同じ着物。
この芝居もいよいよ千秋楽、明日から私21連休ですよと。幸い、暮れの池袋に交互で入れてもらってます。後で出てくる白鳥という、ヘンな男の芝居です。
寄席に入って裏でネタを考えるんですけど、結構難しいんですよ。
前座さんが「子ほめ」やっただけで、その日はオウム返しがやりづらいとか、あるわけです。たとえば時そばですね。
今日も、やりたかった噺が全部前で出てしまいました。
私だって柳家格之進とか、鰍沢とか一応持ってるんですけど、こんな出番じゃできませんし、聴きたくないでしょ。

適当なことを喋って、本編へ。「おい、珍念」「へーい」。
珍念が出てくるのは転失気だが、ここで馬遊師、噺をいったん止めて。
「あ、この前に医者の先生が出てきて、『転失気はありますかな』ってくだりがないと」。
と断ってダイジェストであらすじを説明。

全部演出なんだろうけど、一瞬マジかと思った。客は大喜び。
見どころは出たし、もういいやと思って、長い先に備えて私はここで寝ることにしました。
らくごカフェとかで馬遊師、喬太郎師と二人会をやったりしているが、行きたいとはそれほど思わない。興味ぐらいはあるが。

ロケット団は落語協会の寄席に来るたびに遭遇する。まあ、実際にいつも出てるわけで。
いつもの漫才が常に楽しい。予定調和がまったくないのは寄席芸人として実に見事。
暮れなので流行語大賞から、2年前のタピオカブームへ。
「泥水に漬かったウサギのうんこ」であるタピオカの話題を、客に新鮮なものとして届ける、その持ってきようはつくづくスゴい。
「タピオカ飲んでる女性ってだいたいブスじゃないですか」と言い切って、変な空気にしないところもまたすごい。
今回は「緑ババア」とかも言ってた。
でも、決して毒舌漫才というわけでもないのだ。茂木健一郎あたりが勝手に喜びそうな、政治風刺漫才でもない。
タピオカ好きも都知事好きも、一瞬でも嫌な気持ちにさせないのがロケット団のいいところ。
あとは師匠、おぼんこぼんいじり。二人の師匠の区別の仕方。
小さいほうがこぼん。「器の小さいほうが」と振ってツッコミ倉本に地雷を踏ませる。
寄席の緩さは無敵だ。
落語の寄席には選りすぐられた漫才師が出るが、現在のロケット団こそ真の無双。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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