亀戸梅屋敷寄席24 その3(すごい前座がいたもんだ・三遊亭けろよん)

好楽師の熱演を味わった亀戸梅屋敷寄席、冒頭に戻ります。
前半もすばらしかったのです。

受付に、知らない顔の前座さんがいる。
しゅりけん(兼好門下)、楽太(円楽門下)と前座が二人だけになってしまった円楽党に、ようやく新たな前座さんが増えたのだなと。よかったよかった。
ここしばらく、二ツ目さんが手伝いに来ていたのだ。
前座さん、落語協会の古今亭志ん松さんに雰囲気が似ている。
そして妙にテキパキしていて愛想もいい。優秀な前座の予感。

会場はコロナ前と同様に仕切っていて、客席背後の楽屋が復活している。
満員にはならない。かつて円楽師の主任の時に札止めで入れなかったのだが、好楽師なら入れるのだ。
それもどんなものかと思うが。

八九升 けろよん
真田小僧 楽花山
蛇含草 楽大
(仲入り)
同窓会 鯛好
抜け雀 好楽

 

もともとの番組ではしゅりけんさんが顔付けされていたが、最初に出てきたのは受付にいた初顔の前座さん。
メクリはまだなく、開口一番とある。
「開口一番を務めます。兼好の4番弟子で『けろよん』です」とここで初めて誰だか知る。
また好楽一門が大きくなったのだ。
弟子に「けん玉」「じゃんけん」「しゅりけん」と付けていた兼好師、4番弟子でちょっと捻ってきた。
このけろよんさん、実に堂々としている。
たぶんオチケン上がりなのだと思うが、オチケン臭さはない。妙にプロっぽい。
オチケン出身者は、変な癖がついているとされることもあるが、当人に明確な目的意識さえあればキャリアにもなるのだろう。

「我々のほうでは三ぼうと申しまして」。すなわち、けちん坊、泥棒、つんぼう。
ケチの噺かと思ったら、珍しくつんぼの小噺に進む。
これは絶滅危惧種の八九升(はっくしょう)に入るらしい。
円楽党ではスウェーデン人の好青年さん(じゅうべえ)から聴いたことがある。最初に教わる噺として健在の様子。
圓生系の川柳、円丈門下でも最初に教えるらしいが、落語協会の前座からは聴いたことがない。

つんぼの小噺は、「父と息子」「川の深さ」。
八九升自体は珍しくても、マクラ小噺のほうはごく普通のもの。
だが、けろよんさんが話すと、こんな普通のマクラが実に面白い。
初高座から間もないのだろうに、完全に小噺をコントロールできている。
絶妙のタイミングで交わされる会話が進む。
これは只者ではないぞと、思わず構える私。

そして本編、八九升。
覚える側にとっては、今後の噺家生活に重要な要素で溢れている噺なのだろう。だが、客からしたら別になんてことのない小品。
耳の遠いご隠居に、番頭が顔でニコニコしながら、口ではひどいことをつぶやくという。
そのなんてことのない噺に魂を吹き込むけろよんさん。
引き込まれます。演目でなく、演者に引き込まれる。
冷静に考えると八九升、ダメな人が演じたら、どうしようもないぐらい嫌な一席になるだろうな。「このくたばりぞこない」とか、隠居が耳が遠いのをいいことに言い放つ噺だ。
けろよんさん、一切トラップは踏まない。

あんまり、デビュー間もない前座を褒めちぎるもんじゃないかも。
天狗になったらいけないし。
でも、「デビュー直後の時点での、高い完成度を褒める」と割り切っての賛辞であれば、別にいいんじゃないかと思う。
円楽党の前座だと、かつて三遊亭西村さんを激賞した。西村改め好志朗さんは、先日のNHK新人落語大賞にも出て、ちゃんと見込んだ通りに出世している。
現在の到達地点は、いずれ追い抜かれるもの。そのときに、さらにどれだけ先に行けているか、また別の勝負が待っている。

ちなみに、次の楽花山さんも、その次の楽大師(楽花山さんのマクラを聴いてなかったみたい)も、マクラで同じことを話していた。
「けろよん」はああいうアクセントだったんですねと。「ろ」が高くなるもの。
二人とも字面だけ見て「け」にアクセントが来ると思い込んでいたらしい。
大阪出身の楽花山さんは、「けろよん」は関西アクセントっぽいですねと。

ああ、若い人は、藤城清治主宰の劇団木馬座「ケロヨン」を知らないのだな。
いや私だってリアルタイムには知らない。兼好師もそのはず。でもケロヨンのアクセント自体は最初から知っている。
ケロヨンを全く知らない世代の人が読むと、自然に冒頭高になるのだということがわかって面白かった。

けろよんさんはこの日が初めて、ひとりで受付をする日だったそうな。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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