拝鈍亭の柳家さん喬(上・目白の修業時代)

今年2回出向いた雑司が谷、拝鈍亭。
お寺の立派なホールで、落語や講談が1,000円で聴ける。独演会が多い。
結構長く続いているらしいこの席を認識したのはそんなに古いことではない。以前は東京かわら版には出ていなかったと思う。
すっかり気に入って、また出かけます。暮れも押し迫った26日は柳家さん喬師の登場だ。
ちなみに先週は柳家三三師。どちらか行きたいなと思っていたが、先週はM-1の裏だったのでなんとなく行かず。

定員40人とのことで、早めに。先週ももうちょっと入れたそうだが。
40分前に行くとすでに開場していた。
ゆっくり寝せてもらい、準備万端。

40人よりは入れていた。

金明竹小きち
笠碁さん喬
(仲入り)
文七元結さん喬

前座は、先月の鈴本で高座返しと場内アナウンスを担当していた、末弟の小きちさん。
おなじみの落語の登場人物を紹介し、「馬鹿で与太郎」と振っておいてから、金明竹へ。柳家だから与太郎でなく松公なんだけども。
長くやるよう指示があったのか、23分。
かかとの皮から始めると、これぐらいは掛かる噺。かかとの皮でなくて「靴のかかと」だったけど。

想像通り、なかなか発声のいい人。期待大。
ただ、私の大嫌いな小三治金明竹がちょっと流れ込んできている。柳家なんで仕方ないが。
小三治金明竹とは、落語界のスーパーヒーロー松公(与太郎と同じ)をおじさんがののしる、許せないタイプ。
幸い、三三師だってこれは引き継いでない。
松公が店にいること自体嫌で仕方なさそうな小三治版ほどではないが、ちょっと松公をないがしろに扱いすぎ。
つい1週間前、芸協の桂小右治さんから、与太郎がまったく叱られない、叱られる余地すらない金明竹を聴いて、とてもいい気持になったところ。
最近は与太郎に優しい金明竹が流行っている。小きちさんもぜひ研究してください。

ところで関係ないのだが、私、金明竹の言い立てついに覚えた気がする。
おじさんになっても、脳はしっかり使っていきたいものだ。
いずれガマの油の口上、黄金餅の道中付けも覚えてやる。

さん喬師登場。よく考えれば、寄席の外でこの師匠を聴くのは初めてだ。
当ブログでも好評だった「鴻池の犬」をはじめテレビにもよく出る人だから、たびたび聴いている錯覚を起こすのだが、改めて振り返ると、近年それほど触れているわけでもない。
自分でも驚く。
先月、弟子のさん花師の披露目の席では、おなじみの「締め込み」だったが、熟睡してしまった。もったいないことをした。
ただ同じ月に鈴本の仲入りで聴いた長短は、これもおなじみの軽い噺だが、改めて感服した。
73歳のさん喬師、これから10年落語界を背負って、圧倒的な高みに登り詰める予感がする。

師匠、小さん宅は雑司が谷からすぐの目白。修業時代の思い出を語るさん喬師。
目の前の川村学園の女子高生に見せつけるように、裸踊りをする兄弟子。学校から苦情が来たが、師匠のおかみさんは「そんなほう見るほうが悪い」と電話を切ってしまう。
やがて学校の屋上には、小さん宅が覗けないようフェンスが設けられてしまった。

それから、お使いに出かける際も遊ぶ弟子たち。
駅前の富士銀行に、初めて自動ドアが導入された頃の話。
当時小たけだった弟弟子、小里んに、おかみさんの使い古しのアッパッパを着せ、ペキニーズを背負わせ、番傘を差させる。
先に銀行に入り、小たけが見得を切って自動ドアを踏みつけると、さん喬師たちは床を叩いてバタバタを入れる。
そのまま小たけは窓口に悠然と進み、通帳を出して「入金」。
守衛さんが飛んできて、あ、小さん師匠のお弟子さんですか、困りますねと言いながら喜んでいる。
あるとき普通に銀行の用事を済ませたら、守衛さんに「今日はなにもないんですか」とガッカリされた。

それから駅前交番の裏手で、兄弟子と二人、ぼんやり空を眺める遊び。
通行人たちが目を止め足を止め、ついに大勢で一緒に空を見上げていたらパトカーがやってきた。

楽しいマクラは、どういう流れからだったか、囲碁将棋へ。
いつも考えないで高座に出てくるというさん喬師、なにやるか本当に決めてなかったみたい。
志ん生が将棋が好きだったので、寄席の楽屋には将棋盤があった。裏面には志ん生所有と書いてある。
ところがいつの日か、どの寄席からも将棋盤がなくなった。きっと談志さんが持っていったのだ。
そのうち談春さんあたりから、お宝探偵団に将棋盤が持ち込まれるのではないか。

そして笠碁へ。老若男女みんなが好きな噺。
暮れに聴くとは思わなかったけども、噺の中に暮れの金策が出てくるので実はこの季節に向いている。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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