金明竹の言い立てを覚えた

落語のフレーズは、なんでもないときにでもしばしば頭をよぎるものである。覚えておくと実に楽しい。
子供の頃覚えたのは「寿限無」だけ。
大人になってから「たらちね」「ん廻し」「鈴ヶ森」「孝行糖」など覚えた。頭は使って損はない。
素人落語家じゃないので、噺そのものは改めて覚えたりはしませんけどね。

言い立ての大作は「金明竹」。これをずっと覚えたいなと思い、寄席で出るたびに一緒に唱えていた(もちろん、声に出したりしない)。
ただ、言い立てにかなりバリエーションがあるため、ひとつ覚える基準を定める必要があるなとも思っていた。
どうせなら、好きな師匠のを覚えよう。
隅田川馬石、柳家小せん両師のものが基本同じなので、これを基準にすることにする。
好きな師匠だという以外に、道具七品が詰まっているという理由もある。抜けたものもあるのだが、どうせならフルバージョンを覚えたいではないか。

ちなみに両師匠とも、松公(与太郎)のことをほとんど叱らない点が好き。芸協の三遊亭遊馬師もそう。
ののしるように松公を叱る小三治金明竹は大嫌い。きっと円楽師も、やるとしたらそんな金明竹しかできまいな。
私は、主人より与太郎のほうが地に近い男です。

松公でやるのは柳家だが、古今亭に連なる馬石師も松公でやる。兄弟子の白酒師は与太郎でやってるが。
ちなみに馬石師、このたび芸術祭大賞を受賞した。おめでとうございます。「奮闘馬石の会」での「中村仲蔵通し」が受賞対象。
西の大賞は笑福亭松喬師。この師匠も取り上げたばかりだが、受賞を知らなくてすみません。

さて、出どころが同じとおぼしき馬石、小せん両師匠の金明竹言い立てはこのとおり。

わて、中橋の加賀屋佐吉方から使いに参じました
先度、仲買の弥市が取り次ぎました、道具七品のことで参じております
祐乗・光乗・宗乗三作の三所物
備前長船住則光
横谷宗珉四分一ごしらえ小柄付きの脇差
あの脇差な、柄前はタガヤサン言うておましたが、ほんまは埋もれ木やそうで
木ィが違うとりましたさかい、ちゃんとお断り申し上げます
自在は黄檗山金明竹、寸胴の花活けには遠州宗甫の銘がおましてな
織部の香合
のんこの茶碗
古池や蛙飛びこむ水の音申します風羅坊正筆の掛物
沢庵・木庵・隠元禅師貼り混ぜの小屏風
この屏風な
わての旦那の檀那寺が兵庫におまして
兵庫の坊さんのえろう好みまする屏風じゃによって
表具にやって兵庫の坊主の屏風にいたしますと
かようお言づけ願います

細かい接続詞や語尾は、毎回違っていたりもするのであまり気にしない。とりあえず、私は上記をよしとすることにした。
最後の節は「かよう」でも「こない」でも「あんじょう」でも何だって可。
助詞なども、自分で変えて構わないはず。
これはフレーズと言っても、あくまでもことづてなのであり、毎回完全に一致している必要はないのだ。
そうは言っても、二ツ目さんだと毎回違うようには喋れないだろう。だからどうしても単調になるのだが。
この点馬石、小せんの両師は毎回結構変えてきている。「遠州宗甫の銘が」を二度目は「遠州宗甫っちゅう銘が」としても構わない。
上方男も、ふたりの場合意外と親切で、ちゃんと用件を伝えて帰る意思を持っているのだ。
ただ、「タガヤ」「タガヤサン」「古タガヤ」あたりはこれと決めたらもちろん変えてはいけない。

「備前長船住則光」(びぜんおさふねじゅうのりみつ)は「備前長船の則光」でもいい。でも、語呂のいいほうを採用。

「祐乗・光乗・宗乗」はもともと、「ゆうじょこうじょそうじょ」と発声するのがかつてのスタイルだった記憶がある。それこそ、「松鶴」みたいな詰める関西アクセントに忠実。
今よく聴く「ゆうじょうこうじょうそうじょう」だと、「遊女が孝女で掃除が好き」と聴けない気はするな。ケチを付ける気はない。
「のんこの茶碗」もそうで、これは「のんこう」が本来。

道具七品とは、以下のものらしい。道具のことなどわからない素人がいろいろ人さまの書いたものを参照した結果なので、確定版としてよそで使わないようにしてください。

  • 備州長船(刀)
  • 小柄付きの脇差(横谷宗珉作)
  • 自在(鉤)
  • 花活け
  • 香合
  • のんこの茶碗
  • 掛物
  • 小屏風

道具八品になってしまう。
「七つ道具」みたいな、単に数が多いことを示す言い方はあるので、別にいいんじゃないかなと思う。
別に、「金明竹の道具は8つある」と書かれたものをみつけたわけじゃない。7という数にこだわらなくていいんじゃないかなと思った次第。
無理に数を合わせようとすると、「刀と脇差」あるいは「自在と花活け」を統合して一品に勘定する必要が出てくるのだが、それもまた不自然かなと。

そして言い立てに出てくる登場人物、実にこれだけいる。

  • 後藤祐乗
  • 後藤光乗
  • 後藤宗乗
  • 横谷宗珉
  • 小堀遠州
  • のんこう(楽道入)
  • 風羅坊(松尾芭蕉)
  • 沢庵宗彭
  • 木庵性瑫
  • 隠元隆琦

則光は人名ではないみたい。
織部は地名であり、焼き物の名前。

よく考えたら、おかみさんが理解した、「屏風があって坊主がいて屏風があって」も一種の言い立てみたいなものだ。
これも覚えたほうが楽しいですね。
これはまた今度。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. はははのは…あたくしもどこぞの、落語会で求めた、「金明竹」の手ぬぐいをトイレの壁に貼り日夜、勉強しております。

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