遊かりさんのちりとてちんは、女中のお清以外の登場人物を女性に替えている。
- 主人 ⇒ 姑
- 調子のいい男 ⇒ 次男の嫁
- 傲慢な男 ⇒ 長男の嫁
つまり、世界中のお酒や料理を楽しんでいて(自称)自慢げな、憎らしい長男の嫁をやっつける噺にしている。
女主人であるお姑さんは、誕生日の祝いで料理を用意していたが、結局誰も来なかったので困っている。
そうだ、なんでもおいしいおいしいと食べてくれる、次男の嫁を呼ぼうと。
あなたはお世辞が上手いから、世辞とわかっているがいい気持ち。いっぽう、あの長男の嫁ときたら。
というわけで、腐った豆腐を長男の嫁に食わす。
ネタ帳にはなんて書かれるのでしょう。やっぱりちりとてちんかな。
昨日書いたとおり、嫌味な姑をやっつけるほうが世間の共感を得られるんじゃないかなんて思った。一般的には。
それはそうとして、遊かりさんの上手さが目立つ一席。所作も上手い。
かつて私は、落語協会の女流から改作(新作)ちりとてちんを聴き、1週間以上落ち込んだことがある。
それと比べることはないけども、全然いい。すばらしいといっていい。
長男の嫁も確かに嫌な女なのだが、でも憎めない人物造形になっている。
だからといって、強烈ないたずらをする姑がイヤな人間に映るということもない。
女流の改作については、林家つる子さんの密着取材がNHKで流れていたこともあり、また追って取り上げます。
鏡味正二郎師匠の太神楽は、かつて観た中でいちばん面白かった。やはり太神楽には笑いが欲しい。
イカサマの鍬の曲芸もさらっとしていてよし。
再び見台と膝隠しが出て、トリは笑福亭羽光師。
2020年のNHK新人落語大賞を獲って以来、注目しつつ生の高座に出向いたのは、披露目の際が初めてだった。
今日がわずかに2回目。
これからもっと聴いていきますので。
師匠の鶴光はエロい仕事があるとのことでもう帰っていきました。私の高座は観てくれません。
私は私小説落語というものをやっています。主人公は私の本名、中村好夫です。
自分の内面を吐露するこのシリーズ、結構やってて恥ずかしいことがあるんですね。なのでといってここで、客席の証明を暗くする。
タイトルをあらかじめ紹介。RCサクセションの曲を聴いていたときに思いついた噺です。
ノンフィクションですと語ってスタート。
女子高生と添い寝するシーンはあるが、別段エロ落語ではない。
就職氷河期に大学を出て、漫才師になってしまった中村好夫。
素人の頃はウケていたのに、ライブをやっても客は少ない。悩む毎日に、女子高生の客がよくやってくる。
女子高生と話をするようになるが、彼女は暴力を振るう父親から逃げたくて、学校を辞めたい。人生煮詰まっている。
追っかけの女子高生と漫才師の関係を描く私小説落語である。
阪神大震災の後、慰問で現地にコンビで出向く好夫。
お笑いで被災者を元気づけようと思うのだが、極めて身勝手で傲慢な考えではあった。
30分の持ち時間の中、ウケなくてネタをやりつくす。困って岡本真夜のTomorrowを口ずさんでみたところ、びっくりするぐらい盛り上がる。
噺のハイライトは、家に帰りたくない女子高生と、深夜の天王寺彷徨。
落語とはいえないような不思議な落語。
ただただ、演者の語りが進んでいく。部分部分に迫っていっても、特に笑える箇所もなく。
にもかかわらず、異様な迫力で客をつかむ。
いや、これは正確ではない。他の客の感性なんてわからないから。少なくとも、私は強く激しくつかまれたのだ。
新作落語の人情噺に、たまに似たような空気を感じることがある。だが、多くの新作落語はもっと、感情の起伏がくっきりはっきりしているように思う。
羽光師のこの噺は、わずかなストーリーと、語り手の感情を盛り込むだけ。それで実に不思議な味わいに仕上がっているではないか。
これはまさに純文学である。
とはいえ文学だとしても、具体的な失恋を描くわけでもない。
失くしたものに対する喪失感は漂うものの、でもその後悔が激しいわけでもなく。
その後ボキャブラ天国ブームを追っかけて東京に出ていく中村好夫。今は噺家になり、当時のことを思い出すというだけだ。
そんなシンプルな噺のなにに対し、こんなにゆすぶられるのだろうか、自分でもよくわからない。
とにかく、青年のある時代のスケッチ。ある人のひとつの時代、そこに共感する人も多いはず。
最後を締めてくれた羽光師でした。
羽光師、もうなにを聴いてもハズレはないという確信がある。これから、機会を見つけてもっと聴いていく。
昇進後のこの時期は、追いかけようにも機会がないことがよくあるのだが、この人は大丈夫のはず。
東村山、PayPayキャンペーンをやってるというのを行ってから知ったのだが、アプリを見ても対象のお店が少ない。
買い物は諦め、駅前の志村けん像だけ見てまた電車に乗って帰りました。
立体化の大きく遅れたこの路線、東村山駅も含め、ようやく工事が進んでいた。
また来ることあるんじゃないかな。