国立演芸場17 その1(柳家小もん「狸の鯉」)

現場の記事を出すとアクセスが落ちる「でっち定吉らくご日常&非日常」です。
ようやっと出かけます。今日は桃の節句。
三遊亭遊雀師が念願のトリを取る、芸協池袋に行くつもりだったのだが、蓋を開けたら行先は国立である。
この日の番組をじっくり見直したら、柳家の楽しいメンバーが揃うこちらが、だんだん魅力的に見えてしまい。
池袋のほうは、遊馬師が休演なのが決定打。
仲入り前の小遊三師は気になるけど、また4月の国立にトリがあるはず。

落協・芸協定数是正問題というものがある。といって、公の問題ではなく極めてパーソナル。
両協会の定席の数はおおむね2対1なので、3回に1回芸協に行くなら釣り合いが取れている。
これが4回に1回芸協でも、定数是正には及ばないかなという、そんなどうでもいい問題です。
まあ、私個人はそんなにバランス悪くないと思うのだ。

しかしいまや、落語協会内の問題が生まれたかもしれない。
最近柳家ばかり聴いてないかな?
協会内から多数派強硬政治だと言われがち(現在はそんなことないと思うけど)な柳家ばかり聴きにいくとするなら、それはどうなんでしょう。
まあ、仕方ないですね。そのうち金原亭あたりにも行きますし。

新橋から歩いていく。首相官邸前でまたちょっとした職質でもされるかなと思ったが、警官に「こんにちは」と声かけられる。

主任は柳亭左龍師。仲入りが師匠・さん喬師。
ヒザ前が一門外の橘家文蔵師。
さらに私の期待の新真打、柳家さん花師も。
二ツ目は、これも大好きな小もんさん。
これでロケット団まで入っているとなると、国立定席で考えられうる最強メンバーではないかと。
今日は、仲入りから出撃といった無粋な真似はせず、冒頭から入ります。

子ほめ小きち
狸の鯉小もん
あくび指南さん花
ロケット団
棒鱈さん喬
(仲入り)
道灌文蔵
仙志郎・仙成
らくだ左龍

開演から入れば、東京かわら版で200円引きで1,800円。

お客は30人程度。
前座はさん喬師の末弟、小きちさん。笑顔満開。
八っつぁんが、子供の褒め方を訊きにやってくるタイプ。柳家でこうやる人、いるのかね?
赤ん坊の隣で寝てるのは、こめかみに梅干し貼っつけた婆さん。これなんかは自分で変えてそう。隠居は爺さんで教えているんだけど。
実に上手いのに、面白くはない発展途上の高座。
まあ、しっかりと伸びていっているのは間違いなかろう。

二ツ目が柳家小もんさん。
どこの寄席でも、番組の最初は二ツ目です。私も羽織の着られる身分です。まあ、こうやってすぐ脱いでしまいますが。
前座のときは小たけ。二ツ目になった際の、名前の由来について。
師匠が小里んだから、小○んにすることは決まっていた。
○を、師匠と一緒に「あ」から考えてみる。
小あん、小いん、小うん、小えん。あ、小ゑんはいいけど、もうおいでだな。
小おん、小かん・・・これはいけない。
「も」まで行ってようやく決まりました。

これ、噺家らしく「いろは」順に検討したことにしたほうが面白くないですか。
小ろん、小にん、小ほん、小へん、小とん、小ちん、小ぬん、小るんなんて間抜けな名前がずらっと並ぶじゃないか。
しかもいろは順だと、「も」はなんと最後から3番目だ。

噺家が急に伸びることを「化ける」なんていいますがと振って、御殿対宮殿の小噺。
それからもうひとつ小噺が入る。足を洗えと迫る狸のお化け。これは珍しい。
戸をどんどん叩いて「タヌキです」からたぬきへ。

小もんさんの話術はどんどん進歩していて、しばしば聴くたぬきの冒頭で少しも退屈させない。
ギャグなんて「狸寝入り」ぐらいしか入れてない。またぐらはくぐるけど、ふんどしは別に汚れてないし、狸の八畳敷き(子供だから四畳半)もない。
ひと版寝たら、狸の化けた小僧はまだ仕事をしていない。
これから出産祝いの兄貴のために、鯉に化ける仕事に入る。

狸札だとばっかり思っていたら、狸の鯉でした。
最近、落語協会で地味に流行っているみたい。たまに聴くようになったが、実に楽しい噺である。
金原亭馬太郎さんは札を終えてから鯉に進んでいたが、いきなり進んでも別に構わない。

鯉を見たことのない狸の子に、五月の節句、こいのぼりを真似させ、化けさせる。
そうか。これからの季節が、この噺の稼ぎどきなんだなと。

兄貴に持っていった鯉は、料理人が来ていたのでさっそく鯉こくになる運命。
まな板の上でじたばたするし、あったかいし、ひげは無数に生えているしで珍妙な鯉だが、ツッコミが全部さりげないところが柳家らしくていいな。

残念なことに、いよいよクライマックスのシーンで料理人が「この狸、ニュッと手が生えた」と間違ってしまう。
兄貴も「変な狸だな」だって返している。

知らんぷりしてサゲまで堂々言い切る小もんさん。
まあ、そんなことがあっても実にいい高座でした。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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