池袋演芸場27 その3(三遊亭天どん「老後が心配」)

林家正雀「きゃいのう」

大ベテランの林家正雀師が真打のトップ。新作台本まつりならではのユニークな顔付け。
正雀師は昔の鹿芝居の話から。
忠臣蔵の五段目その他を、噺家の芝居で出した。
勘平が先代正蔵、定九郎が先代今輔。
勘平が死んだ定九郎の懐に手を突っ込み、財布を奪うが、なぜか財布がない。首から下げた財布が、倒れた拍子に背中に回ってしまったのだ。
埒が明かなくなって、死んでいる定九郎が背中に手をまわし、財布を勘平に差しだした。
正蔵の勘平、例の声で「ありがとう」と礼を言ったという。

そして芝居噺へ。
下っ端役者の団子兵衛、風邪を引いて初日二日休んでしまったのでカツラがない。
床山の親方に、なんとかお願いします、松山から両親が来るんですと。
これは珍しいがたまには聴く「きゃいのう」である。古典落語という認識。

初代柳家三語楼が「武助馬」(これもそれほど出ないが、たまに聴く)を改作して作った噺とのことで、広い意味では新作落語ということか。
知っているきゃいのうと、若干スタイルが違う。
親方は別に、お前が挨拶に来ないからカツラがないんだと、団子兵衛を責めるところはひとつもない。作ってやって構わないのだが、事実として倉庫にしまい込んだから作れない。
団子兵衛から、今までの役を聞き出す。山崎街道の猪をはじめ、馬など動物ばかりやってきた。ようやく人間、腰元の役でしかもセリフがついた。
割セリフで、「(行)きゃいのう」だけだが。
しかし両親は電報を打つと、毎回松山から上京してきてくれる。
床山の親方、松山は行ってみたいもんだな。「みちあと温泉」があってな、あと有名な小説「吾輩は坊ちゃんである」の舞台だしなと小ボケをかます。

図抜け大一番の特大カツラが出てきた。これは鹿芝居で三遊亭歌武蔵が使ったものなんだって。
こういう地味な人情噺、しかもその人情を表面にことさらに出さない軽い噺、私はたまらなく好きです。
新作まつりのなかでこの小品、聴けて実によかった。
そしてこの噺も、私の仮説である「サゲは噺の『いただき』を綺麗に着地させるためにある」を裏付けるもの。

三遊亭天どん「老後が心配」

続いて三遊亭天どん師。
コロナをきっかけに、池袋や国立ではその日のプログラムをもらわないことにした。
別に、手から感染すると思ってるわけじゃない。演者をぼんやり覚えておくぐらいにとどめておくと、メクリが変わった瞬間が楽しいのです。
天どん師、満員のお客を見て「そんなに喬太郎が聴きたいですか」と早速先制パンチ。

この時季は毎年、花粉症がひどいという話を振る。おかげで喉が不調です。
昨年は師匠円丈が死ぬという、嬉しいニュースがありました。
天どんという、哀しい名前で噺家やっています。付けられる者の身にもなれ。
適当なことを喋って本編へ。主人公は杖をついたお爺さん。

百貨店のおもちゃ売り場で小学生が泣いている。迷子かなと近寄ってみると、意外なぐらいしっかりした子供。
日本の将来を憂いて泣いていたらしい。
ストーリーはほぼなくて、クスグリだけでできた軽い軽い落語。
軽い噺を本当に軽く演ずる天どん師はカッコイイ。古典も軽くやる人だけどね。

そして子供になって、高座全体でひっくり返って駄々をこねる天どん師。
ぐんまの後に出ると嫌だと言いつつ、サービスでブリッジまで。
どさくさに紛れて、海老名家の悪口をつぶやいていた。
さちこという名前は幸せになれない。字は違うけど、もともとこの噺に入っているくだりのようだ。
かよことかやすはとかみどりとか。

中身(クスグリだけ)をほぼ忘れてしまったので、You Tubeで聴きなおした。
といってもストーリーがないことに変わりはないし、これ以上付け加えることもない。
天どん師は、古典も新作も語り口に真剣味がないのが持ち味。つねにふざけているので、お客の気が楽なのだ。

のだゆき

のだゆきさんはおしゃれな衣装で登場。頭はタマネギ帽子で覆っている。
いつになくチャーミング。いえ、いつも素敵ですけどね。
2年前の席で聴いたときもそうだったが、座り高座だ。
この芝居では、色物のだゆきを客は知りつくしている、そんな体で進めるのが面白い。いつものネタをやらないことで、裏切りの笑いを呼ぶ。
これは紙切りの二楽師と同じ手法ですね。
普段の芸が古典で、今日は新作なんだそうだ。

そして、のだゆきさん、自由である。
リコーダーは出すが、いきなりこれをねぶる所作でもって「初天神」。大ウケ。
「天どん師匠、ちょっと早くなかった? 時間が残っちゃってる」だって。

先日末広亭で、あろうことか鍵盤ハーモニカのノズル部分を忘れてしまったらしい。
前座さんが慌てて、ホースを持ってきてくれたとか。
その際は、ノズルなしで吹いてみたと言ってその再演。

足がしびれたのでと言って足を投げ出し、鍵盤ハーモニカでモンティのチャールダーシュを軽快に演奏。

2年前にも見たカエルのオカリナ「鈴々舎」も登場。
新作まつりにふさわしい色物です。

続きます。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 芝居噺が好きな小生ですが、正雀師って、いいですよね。最近聞けてないのですが、いい意味での昭和を感じさせてくれる気がします。
    マスコミには売れてなくとも、しっかりした構成で聞かせてくれる噺家さんって、聞いててホッとする小生です。

    1. いらっしゃいませ。
      バカ新作揃いで楽しい席ですが、連続で聴くと疲れます。
      正雀師のいい仕事、客からしても非常に助かるものでした。

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