黒門亭14 その2(三遊亭わん丈「紙入れ」)

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三遊亭わん丈さんのメクリは、「わ」だけ上から貼ってある。いかなる事情があるのか知らないが、「たん丈」の「た」の上に貼ったのであろうと想像。
わん丈さん出てきて、説明を求める客のニヤニヤした視線を受け、メクリの話から。
メクリって、地方の仕事などがあったときは協会から貸し出すので、それが戻ってきていないことがあるんですと。
故古今亭志ん朝のような売れっ子なら当然何枚もあるのだが、私のメクリ、まだ1枚しかないんでこうなるんでしょうと。事務局に聴こえるよう、「もっとメクリ作ってくれ」と絶叫。
あの「わ」の下、なんでしょうか? 一般には円丈の一番弟子と思われている白鳥の上なので「ゼロ番弟子」と揶揄される町田市議会議員の「らん丈」か、42歳で入門した「たん丈」かどちらでしょうと。
そうか、らん丈師のメクリかもしれない。
わん丈さん、第二子が生まれたそうで、出産立会いの話。そして、区画整理で引っ越すにあたり、手拭いなど処分しようとするが、売れてる人のは取っておいて欲しい師匠、円丈の話。
それから、可愛がってくれている菊之丞師と、ご自宅で飲んだ話。前座の終わりの頃、「わん丈くんはどんな噺を覚えたいの」という菊之丞師の問いかけに、散々酔ったはずみでうっかり「紙入れがやりたいです」と答えるわん丈。
「噺を教えてくれ」と言っているのに等しく、本来は、前座にあるまじき振る舞い。だが菊之丞師、いいよいいよと。今度教えてあげるよと応じてくれる。
その後、菊之丞師はお風呂に行ってしまい、夫人の藤井彩子さんとともに居間に取り残されるわん丈さん。え、これもしかして、間男の稽古?

そんな前振りから入った紙入れは、爆笑ものでした。
いきなり、おかみさんと新さんの、ベッドシーン。羽織を脱いで前に出して客に見せ、片袖ずつ畳みながら、布団の下の二人を交互に描写。そして演者の顔の前を羽織で覆ってしまう。
ここで自己解説が入る。皆さん、今歴史的な瞬間を見ているんですよ。
三三師に提案されたと言ってたっけか。黒門亭ならいいだろうと実行したんだそうだ。
師匠・円丈のタイタニックも連想させる。
ストーリー展開もやりたい放題。旦那のところに朝挨拶に行き、旦那に叱られたので新さん、旦那を刺してしまう。
芝居たっぷりの見栄で、鳴り物と、バタバタまで入る。
まさかと思ったら妄想オチ。
簡単な打ち合わせで、下座の「こう」さんも、前座さん(聴いた新しい名前が思い出せないので、旧だいなもさん)もよく対応してくれたと。開演前、袖でなにやら声が聞こえたのはこれだったらしい。
旦那が朝からダンベル持って筋トレしていたり、間男がバレたか不安な新さんがわん丈さんの故郷、滋賀県に逃げようとしていたり、ギャグも盛りだくさんでした。サゲも改造。
そのくせ、女の色気と怖さがちゃんと見えるという、実になんとも贅沢な芸。
昨年のNHK新人落語大賞でいいところを見せたこの人、もっと聴きたいのだけどなかなか機会がない。

続きます。

作成者: でっち定吉

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