黒門亭14 その3

桂才賀師匠は、高座でお見かけするのは初めてかもしれない。子供の頃笑点で、二ツ目の古今亭朝次時代から視ていたけど。
マクラはほぼ振らず、江戸の名物を挙げていく。武士鰹大名小路広小路茶店紫火消し錦絵火事に喧嘩に中っ腹、伊勢屋稲荷に犬の糞。あれ、鹿政談?
鹿政談、個人的にはそんなに好きじゃない。私は人情噺大好き。鹿政談自体も決して悪い内容じゃないのだけど、創意工夫の余地が乏しいわりに結構掛かるので、ちょっと飽き気味。
二ツ目さんがやたらやりたがるのがよくわからない。覚えておくのは結構だが、年取ってからやればいいじゃないかと思う。
だが、さすが才賀師の鹿政談はひと味もふた味も違って面白い。
二ツ目さんみたいに、「固い噺をきちんと固くやろう」という意思がないところが面白いのだろう。落語なんだから、楽しく語ればいいのだということか。
超ベテランの味だ。ギャグたっぷりのわん丈さんの後には、固くて緩い、こういうムードの噺が最適。
鹿の守役は普通は塚原出雲だが、名前が違っていた。
鹿の恵料をポッポナイナイしている守役ふたりは、追って沙汰を下される運命。時代劇張りに見栄を切って笑わせる、洒落っ気たっぷりのお奉行。

仲入り後、柳家小傳次師は袴を付けている。
黒門亭の顔付け委員会から電話がある際、出演の日付だけは聴くが、当日の顔付けは後に初めて知ることになる。この日は才賀師と小燕枝師、ベテランに挟まれるので緊張したが、でもわん丈くんの後でなくてよかったと。
あれ? 紙入れだよなと思いながら、三階の楽屋で聴いてたんだと。
軽くやりますと断って、兄弟子、喬太郎作の「母恋くらげ」。
うーむ。
当ブログでも1週間にわたって取り上げた、私の大好きな新作落語。
喬太郎師の語りから、宮沢賢治を彷彿とさせる、濡れた情感が漂う名作。
だが小傳次師のものを聴き、この噺の穴だけが気になってしまった。遠足バスでみかんを食う中村くん、窓から皮を放り投げて、先生が拾いにいく。
だけど、先生が気づいて運転手に止めてくれと言っても、バスは相当先に進んでるよね?
そうした穴を気づかせずに進める喬太郎師はやはり偉大だなあと思った。
ちなみに、「ヒラメ」「カレイ」の所作を考え付いて喬太郎師に具申したのは、これもまた三三師だそうな。劇中で語っていた。
喬太郎師の新作落語、白鳥師と違うのは、「誰がやってもウケる」新作落語の形を作っていないこと。そのことに今日気づいた。
いろんな人が「ハワイの雪」をはじめとする喬太郎落語を掛ける。百栄師など、「寿司屋水滸伝」をもらっている。
だが喬太郎落語の多くは、本人しかできないものだと思う。
小傳次師、クスグリの取捨選択はしてるけども、「黙れクソガキ」「殺すわよ」なんてバスガイドのセリフ、喬太郎師だからウケているのだと実感。
「古典落語できないと思われたら癪なのでみかんを丁寧に食う」など、そのままやっても中途半端でいけない。
バスガイドの歌は、いにしえのアニソンに替えていたけど。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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