ぎゅぎゅっと笑福亭づくしの会@横浜にぎわい座 その5(笑福亭鶴光「善悪双葉の松」)

トリは笑福亭鶴光師で、再び見台が登場。
この日の出演者はみな「つるこ師匠」と律義に呼んでいた。
鶴光師は、(あれば)必ず見台を使う印象だ。今度NHKで取り上げられますねん。クローズアップ見台。
芸協の寄席に出ている鶴光師だが、それほど巡り合ってはいない。ただ、今年に入って久々に東村山で聴いた。
その際、師の発声に衰えを感じとても気になったのだが、この日は元に戻っていてひと安心。なんだったんでしょう。

関係ないけど鶴光師、落語協会の林家彦いち門下だった女流のひこうきさんを新たな弟子に獲った(ちづ光)というので、こんな話の好きな界隈はちょっと賑わっているようだ。当ブログの読者のみなさんもそうでしょうが。
してみると、聴いたことのないちづ光さんは関西出身なのだろうか? ちづ光さんが真打になる頃には、師匠は90近い。

その東村山では、「次の松鶴」は仁智がライバルやとネタにしていたが、本当に楽屋にいるこの日は使わない。
鶴光師は釈ネタの大ネタ、「善悪双葉の松」。
鶴光師が講釈から持ってきたネタで、かつて喬太郎師の番組で聴いたことがある。

舞台は上州であり、上方ではない。
奉公人武助の主人が上方出身だが、そのぐらい。ただ、信州出身の武助がときとして上方ことばになったりする。
上方落語なんだからこれでいいのです。
元が講釈だけあって、ストーリーの重要な物語。
10年かかって10両貯めた武助が、故郷信州松本の田地田畑を買い戻しに暇を願う。
主人に快く送り出してもらうが、途中分かれ道で道を尋ねたところ相手は大泥棒で、騙されて山の中の小屋に流れ着く。
100両を奪われたが、泥棒のおかみさんの尽力もあり命だけは助かる。この際に狼除けとしてもらってきたのが実は名刀捨丸で、300両で売れる。
儲かってしまった武助だが、こんな300両は欲しくない。自分で懸命に稼いだ100両を取り返しに再度山小屋へ向かう。

因縁の絡んだ、圓朝モノみたいな噺である。
だが語るのがなにしろ鶴光師だ。元が講釈とはいえ地噺というわけでもないけど、同じ方法論でもってギャグをたっぷり入れて進めていくので、場内爆笑の連続。
この日の客は関西出身者も多いらしく(噺家さんが地名を出すときわかるのだ)、上方落語もよく知っているらしい。
なのに鶴光師の、特に目新しいわけでないギャグに大爆笑という、このギャップが不思議。
とはいえ数々のギャグ、それほど笑わない私にとって不快でもなんでもなく、そよ風のようにやさしく頬を撫でていくのだった。
つまり、大笑いしている客と、噺の展開に呑み込まれドキドキしている客がいる。双方はグラデーションを作っている。

これはすごい。名人芸だと思います。
笑いたい人は腹の底から爆笑し、それほど笑うつもりのない人も、実にリラックスさせて楽しませてくれる。
「ああ、笑ったなあ」という客と、「いい噺だなあ」と思った客、そしてその両方という客がいたであろう。
客が欲しいものを手に入れられる、贅沢な芸。

幕がまだ下りず、鶴光師が口を開く。
今日の出演者呼びたいんですけどよろしおまっかと。
すでに着替えた4人が勢ぞろい。嬉しいオマケ。

現会長・仁智師を持ち上げ前会長をやたらdisる鶴光師。仁智師は前会長の影響で新作派になったはずであり、しかも同じ吉本だ、悪く言えるわけはないが。
仁智師が、前の会長嫌いなんでっかと声を掛けると、鶴光師は、あいつの豪邸が気に入らんのじゃだって。

仁智師が笑利さんを、紙切りもできるんですよと褒める。鶴光師が、パペットはやらんのかいなと。
最後に大阪締めで三本締め。鶴光師が仁智師に音頭を取ってくれというが、仁智師土下座で辞退し、鶴光師が音頭。
初めての大阪締め、リズムが合わなかったが一緒に手を叩いてきました。

実に満足度の高い会でした。横浜にぎわい座というハコもよかったのだと思う。
ラジオで聴いてるからいいやなんて思ったりもしていたが、上方落語の会は想像以上に楽しい。
この楽しさをもっと当ブログでも伝えていきたいものである。

幕を締めるスタッフはいないので、上手に座っていた生寿師が腰を上げていた。残りの4人で幕が閉まるまで、大きな拍手。
帰りは初日の記事を書いてアップしてからまた横浜駅まで歩き、途中のスーパーFUJIで、かながわPayで貯めたポイント使い切りました。

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作成者: でっち定吉

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