亀戸梅屋敷寄席25 その1(三遊亭けろよんはやっぱりすごい前座)

亀戸梅屋敷は昨年末以来で、すっかりご無沙汰だ。常に気には掛けているのだけど。
前回と同様、三遊亭好楽師を聴きにいく。
笑点のほうでは長年やってるポンコツキャラがようやく実を結んだ師匠だが、本業の落語の評価ももっと上がって欲しいものである。
実に気持ちのいい世界にいざなってくれる、得難い師匠です。

好楽師は都内での出番が多く、実に気軽に会いにいける笑点メンバー。
私は好楽師を、実際に聴きにいく数の倍は検討している。たまたま亀戸が続いているのだが、広小路亭のしのばず寄席や日本橋亭など常に意識している。
日本橋亭の独演会はなかなか復活しないようだが。

四番弟子、好吉改め好一郎の昇進の話が聴けるかと期待したのだが、これは好楽師の口からは出なかった。
いろいろと話せないことがあるのだろうと勝手に思う私。

今日はほぼ満員だった。天気が悪くなかったら札止めになってたろう。
さて、今日の前座は期待のけろよんさん。
この人も、デビューして間もなかった年末以来だ。
前回この人について書いた記事は、それはそれはブレイクしました。
とはいえ2日間にわたって熱く書きまくった好楽師の記事の5倍のアクセスを叩き出したのは、さすがにどうなのよ。まあ、そんなのも好楽一門らしいかな。

この日の香盤にはけろよんさんの名があったが、亀戸はしばしば前座が代演になる。前座が替わったとて、なんら説明はない。
愛楽師のところに息子、愛二郎さんが入り、そして竜楽師のところには、円楽党初の女の弟子「たつみ」さんが入ったそうだ。
替わっていたら仕方ないと思っていたが、テケツにこの人がいて安心。

転失気 けろよん
道具屋 ぽん太
家見舞 神楽
(仲入り)
茄子娘 朝橘
伽羅の下駄 好楽

 

前座になって5か月経つのに、メクリはまだない。開口一番とある。
けろよんさん、挨拶から。
「三遊亭兼好の弟子でけろよんと申します。(間)本当です」。

ツカミよしだが、「け」にアクセントを置いていたのでオヤと思った。
前回、楽大師と楽花山さんがそれぞれ、けろよんのアクセントについて感想を語っていたのだが、この人たちが誤認していた、冒頭高のほうに揃えたらしい。
師匠けんこうのアクセントが冒頭高だから、そちらに合わせないと座りが悪いのではないかなと。

知ったかぶりを振って、転失気。
個人的に飽きた噺の筆頭だが、それだけ数多く聴いているのでいい高座はすぐわかる。
今回のけろよんさんもまた、すばらしいデキでした。

私の注目する前座は何人かいる。柳家り助、三遊亭ごはんつぶ、桂南太郎。そしてやり直し前座だから別格だが、春風亭かけ橋。
二ツ目が決まっている人ばかりだが。
ただ、これら両協会にいるユニーク前座と違い、けろよんさんは名前に似合わず本寸法一直線なのである。
ブレイクしている二ツ目の、春風亭朝枝さんみたいな道。もっとも、朝枝さんですら、前座時代に聴いたときは私はスルーしてしまっているけど。
けろよんさん、「前座(キャリア)のわりに」とか頭につける必要はない。すでに立派なプロの噺家である。
すでに現状でもって完成しているので、「今後伸びないかもしれない」ということはあり得ない。
もちろん、現状に付け加える、新たな爆発要素があれば言うことはない。
でも、ギャグ路線には進まない気がする。まだキャリア半年だからわからないですが。

どんなところがよかったか。

  • お店(おたな)と花屋の反応に、絶妙の間がある
  • 真相を知った珍念や、転失気を拝見する医者が、しっかり驚いている
  • スケールがでかい

「本寸法」と同様、マジックワードである「間」はあまり好きじゃないのだが。
間を言い換えるなら、「セリフの後、次のセリフに移るまでのタイムラグの長さ」としか言いようがない。
高座の上から俯瞰して眺めていないと、適切なタイムラグは取れないのである。
そして珍念や先生のリアルな驚きは、先日まさにかけ橋さんの転失気からも感じた要素。
演者が、ただのセリフとして喋っているうちは絶対にこれができない。

最後の、スケールのでかさとはなにか。
転失気という噺を聴くたび、私は聴き手をひとり用意してしまう。「学校寄席に参加して、喜んでいる子供」である。
お子様ランチを味わう大人の感覚になってしまうのだ。
そういえばこの感覚、「元犬」にもある。「牛ほめ」「子ほめ」「道灌」には感じない。
便宜上用意した私の中の子供が、「大人は知ったかぶりだけど、バカだよね」と喜ぶことで、飽きた噺をようやく楽しめる。
でも、けろよんさんは最初から噺が大きい。ちゃんと大人の感性に訴えかけている。
子供から見た大人の狡さという、ある種陳腐な視線に頼らず、どこかトチ狂ったおかしい大人たちをしっかり描き込む。

最初に珍念が出向くお店(雑貨屋)でもって、主人と番頭とおかみさんが、転失気のゆくえを押し付けあうというのは、柳家やなぎさんから聴いたことがあった。
オリジナルだと思っていたのだが、古い型なんだろう。

完璧な高座だった。
どんなに上手くても前座だから、一体どんな人なのかはわからない。でも、別に焦って知る必要もないだろう。

完璧すぎて、普段気にならない点が気になってしまった。
どうして和尚は、「ネズミが落っことして壊した」「おつけの身にして食べちゃった」事実と、「呑酒器」とに矛盾を感じないのだろう。
子供向けの噺なら、こんなのはいいのだ。だが、けろよんさんが大人の語りをしてみせているゆえに、気になった。
ただ、ご本人にも問題意識があるのだろう。珍念の口からこの矛盾を再度つぶやかせたうえで、「みんな知らないんだ」と結論付け、客に呑み込ませるのである。
仕事が丁寧。

二ツ目のぽん太さんに続きます

 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 兼好師ファンということを前振りしつつ、兼好師のお弟子さんって、いずれもしっかりした基礎があるように感じてます。
    けろよんはまだ聞いてませんが、これまで聞いた中で、残念な思いをしたことがないような。
    いささか大袈裟な話になりますが、好楽師って、考えてみると先代正蔵と圓生の両方の流れを汲む貴重な経歴で、兼好師の七段目などからそんな香りを感じたこともありました。
    土台がしっかりした前座って、追っかけたくなりますよね。

    1. いらっしゃいませ。
      兼好師はご自身でインタビューに「私は別に面白いこと言ってない」と語っていたのが面白いなと思いました。
      そんなことないだろうと思いつつ、なるほどと。そういうメソッドは弟子に引き継がれているかもしれません。
      3番弟子のしゅりけん改め兼矢さんにも期待しています。

      好楽師の「正蔵と圓生の両方の流れを汲む貴重な経歴」は、本当にそうですね。
      ハイブリッドスーパー噺家なのに、円楽師にバカにされて「よせよ」と返してる不思議な方です。

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