柳家小せん独演会@棕櫚亭(下・「ガーコン」)

「盃の殿様」から満島ひかりを連想した。UQモバイルの女王様。
振り回される松田龍平が弥十郎。

仲入りではなく、メクリには「中入り」と書いてある。どちらでもいいのだが、中入りはなんとなく上方っぽい表記だ。
コーヒーが提供されるので嬉しい。また絶対来ますよ。

仲入り後は白紙のメクリ。地元の星、柳亭市若さん登場。
バカには見えません。私にも見えないんですけどだって。

会の宣伝。
6月11日には新百合ヶ丘で「三題噺」の会をやりますのでぜひと。
三題噺のお題をもらうためには3人必要ですが、まだ予約が2名です。
なぜ少ないのかというと、同じ日の同じ時間帯に、すぐ近所で「文珍・南光二人会」があるんですね。しくじりました。
なにかあちらの会に勝てる部分はないかなと。文珍・南光二人会は4,000円ですが、私の会は1,000円です。
もっとも、あちらのほうが4倍面白いかもしれないですねと自虐。
三題噺はうまく作れればいいですけど、できないかもしれません。そんなスリルをぜひ。

ご時世的にちょっと不謹慎かもしれないですが、と断って本編。
若い者たちが相談している。町内で風邪が流行っているので、昔の儀式を復活させよう。風邪の神を川に送り出すのだ。
町内を回って資金を集め、余った金で一杯やろうと。
「風邪の神送り」である。上方では聴いたことがあるが、東京落語では初めて。東京では「風の神送り」の表記のほうがそれらしいかもしれない。
彦六の正蔵が持っていたらしい。誰に教わったのだろう。正雀師とか、先日「伽羅の下駄」を聴かせていただいた好楽師ならお持ちかも。

珍品中の珍品なのだが、中身はわりとよく聴く古典落語の要素に溢れている。
すなわち。

  • 無筆
  • 一杯やりたい
  • 若い者たちのワイガヤ(東京っぽい)
  • ケチ
  • 知ったかぶり
  • ごく気軽な超常現象(上方っぽい)

盛りだくさんだ。その分ツきやすいから寄席向けではないと思う。
最初に奉加帳を持って出向く尾張屋さんは親切で、二分出してくれる。
よしなにと言うので、若い者たちは三両二分と書き込む。
三番目に出向く伊勢屋は金持ちだが、ひどいドケチのブラック企業。
わかってはいたことだが、ひどい目にあって帰ってくる。
金はなんとか集まったが、風邪の神をこしらえないとならないが、どんな形状だろう。
隠居に訊きにいくと、丸くて四角くて三角で、なんのこっちゃ。
とにかく無事風邪の神を送り出すのに成功。サゲが二つ付いている。

明るい市若さんにぴったりの楽しい一席でした。
上方落語が向いているみたい。東京ではマイナーな上方落語、まだまだあるからチャレンジして欲しいですね。

市若さんが自ら高座を返し、再び小せん師登場。
珍しい一席でしたねと市若さんについて。
珍しい噺がなぜ珍しいかというと、誰もやらないからです。二ツ目さんはもう少しウケる噺をやりたがるものですが、でも工夫しだいでできるということですね。
ご自身もこの日は珍品、盃の殿様をやってるのにね。やってるからこそか。

昔の歌の話に入る。マクラっぽいのだが、これはもう、「ガーコン(上)」である。
川柳師の追悼か。
小せん師のガーコンは、池袋新作まつりで聴いたことがある。喬太郎師の番組でも、川柳師とリレーで出していた。
ガーコンの上は、第二次大戦より前、昭和初期から始まる。
この時代の歌は、戦後封印されなかったから意外と有名だ。「うちの女房はひげがある」とか、なぜかこの歌と一緒に「三大愚歌」とされる「二人は若い」とか。
高田浩吉「大江戸出世小唄」の歌い出しは、「土手の柳は風任せ 好きなあの子は口任せ ええしょんがいな ああしょんがいな」。
満州では戦闘が始まっているのに世間は呑気。楽しそうに歌い上げる小せん師。

棕櫚亭のファンは落語をよく知っていて、ガーコンをやっていることはすでにわかっているようだ。「いつ噺に入るんだろう」と思っている人ももちろんいるだろうけど。
中手は好きでない小せん師、拍手をもらう前に先に進むのだが、さすがに盛り上がってきて拍手が入るように。
ただ、やりすぎない拍手なのが粋だね。

三遊亭圓生のモノマネで演ずる大英帝国は爆笑。
それを陰からぼうっと見ている我々同様のぼんやりした日本。俺もやってみよう。あいにくその日は武器の持ち合わせがなかった。

そしていよいよ軍歌の時代。
ここからは川柳師からしか聴いたことがない部分。小せんが継がずに誰が継ぐ。
基本、小せん師も川柳師を踏襲している。開戦当初明るかったメロディーが、敗色濃厚に連れて徐々にマイナーコードに代わっていくという川柳師の分析もそのまま。

そして、小せん師も口ラッパのジャズをやる。
さすが音楽やってた人だけあって、トランペットもサックスも、ベースもドラムもみなむちゃくちゃ上手い。
さらに立ち上がった! 待ってました。
息子を東京に送り出し、おとっつぁんはコンバインが買えないから古い脱穀機を出してきてガーコンガーコンガーコン。

一席終えて鳴り物が入るが、小せん師それを止めさせて挨拶。
川柳川柳師の作ったガーコンをやらせていただきました。古典落語はどうしたんだと思われたかもしれませんが。
戦争を賛美するとかそういうことではありません。若輩者ではありますが、往時に思いを馳せてみるのもいいと思うのです。
今回初めて棕櫚亭に呼んでいただきましたが、これでもう呼ばれないかもしれませんが。

とてもいい会でした。
小せん師の会も積極的に見つけてどんどん聴いていきたいものです。

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作成者: でっち定吉

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