林家扇廃業

二ツ目が廃業するたびアクセスが増える、死神落語ブログへようこそ。
といっても今回は、弟弟子であった扇兵衛さんが廃業したときほど強いインパクトは、私自身にはない。
強く語りたいわけではなく、なにか読みたい期待に応えて書いているのです。と一発逃げを打ちつつ。

林家扇(せん)さんは木久扇門下の女流。
もうじき真打だったのだが、先月末で廃業した。すでに落語協会の香盤からも消滅。

順当に行くと、来春には真打でもおかしくなかった。
だが、スケジュールに五代目江戸家猫八襲名が入っている。
猫八襲名はいつになるのか、ここ数年ずっと気に掛けていたビッグイベント。それに比べれば、順送り真打の昇進が半年延びたところで、さしてどうということはない。
当ブログでも真打披露について「次はまめ平、扇と小粒だから、かゑる以下と秋にまとめてやるのでしょう」と書いている。これは別にイヤミではない。

真打を前にして廃業。大ごとかと思うと、必ずしもそうでもない。
実のところ各協会、団体に「実質廃業に近い真打」が無数にいる。
辞めた二ツ目のことは気になるが、昇進したあと仕事していない真打のことは誰も気にしない。

二度と高座に上がらないような人まで、トランクルーム真打として業界で存在を認識されている。
誰も辞めろと言わないが、寄席の席亭のほうも呼びはしない。
今回のニュースが話題になっているとして、それは二ツ目の廃業だからだ。
林家扇がもう1年か1年半辛抱して真打になったとしても、将来が明るいわけではなかった。彼女の参加しているユニット「落語ガールズ」にもそんな人がたくさんいる。
そんなことを考えると、私はこのニュースに対し、なんら感傷的な思いを持てないのである。

リンクまでは張らないが、ネットニュースの見出しはこう。
【最年少女性二ツ目・林家扇が落語家廃業 将来嘱望も精神的な病気で「活動していくのは困難」】

「将来嘱望」は社交辞令が過ぎる。
もっとも「嘱望」を辞書で引くと、「期待すること」とある。
期待する(期待していたことにする)のは自由ではあるが。

辞めた状況は、扇兵衛さんほどじゃないが、少々不自然。説明したってやはり。
廃業後の今月、特別に認められた高座がひとつあるというのもわからない。
辞める予定だったらそもそも、冒頭に張った木久扇師のお弟子本、執筆を辞退してると思う。
真打云々の前に、体調不良ならまず休業ありきだろう。昇進は延ばしたっていいんだから。
だから、次のいずれかであることまではおおむね間違いないのだ。

  • 真に辞めざるを得ない理由がある
  • 「寄席に出られない真打」の肩書を積極的に放棄したい

体調云々がウソだとは言わないが、辞める理由付け以外のものではない。
ごく普通には、「とりあえず真打になっておこう」が選択肢と思うのです。その先はともかくとして。
やはり不自然に過ぎるので、なにか一門絡みで事件でもあったのではと想像せざるを得ない。
扇兵衛このかた、愉快な一門になにかが起こりつつあるならイヤだな。

私の扇さんについての思い出は、実に少ない。

  • 前座の頃、喬太郎師主任の席で「お膝送りをお願いします」を言い間違ってウケていた
  • 神田連雀亭を抜いて、先輩の志ん八さん(現・志ん五)に迷惑を掛けていた
  • 早朝寄席で、聴き取れないフレーズを発しておきながら「わからない人は置いてきますよ」と上目線高座
  • 謝楽祭・文蔵ブースで見かけた金髪ネエちゃん

扇さんが抜いた連雀亭で志ん八さんが掛けていたのと、本人が早朝寄席で掛けていたのが奇しくも「唖の釣り」という珍品であった。
連雀亭を兄弟子の披露目関連で抜いた、その裏事情まではもちろん知らないが、リニューアル後の現連雀亭ではあり得ないな。代演を自分で用意するのが義務なので。

噺家であり続けるのはそんなに困難なことではないが、職業としてやり遂げるのは実に難しいものだ。

「扇」という名前、検索しづらくて困っていた人が多いんじゃないですか。
当ブログ内でも検索、ありますよ。ほぼ扇兵衛がヒットしてたと思う。もともと扇さんの情報が少ないのもあるが。
デジタル時代には付けてはいけない種類の名前だ。「林家扇ちゃん」だったらまだよかった。
名前を考える師匠も、検索で掛かるかどうかまで考えて付けてやって欲しい。

作成者: でっち定吉

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