スクエア荏原あじさい寄席(上・瀧川鯉昇「茶の湯」)

どこかへ行こうかやめようか、迷って当日券で落語会へ。
「花のニッパチ組登場!」というサブタイトルの付いた、入船亭扇遊、瀧川鯉昇二人会である。
会の開催は早くから把握していて、私のカレンダーにも入ってはいた。
行く決断には、先月梶原いろは亭で聴いた、扇遊師の弟子(遊京)、鯉昇師の孫弟子(昇輔)のトークが大いに影響したと思われる。
特にトリの扇遊師「不動坊」は圧巻で、行ってよかった。いささかコーフンしております。

話それるのだが、物の影響という話。
木曜日の夜はおそばを茹でた。私は「かえし」を自作してるので、そばつゆは旨いですよ。
さて息子が、前日視た「水曜日のダウンタウン」の「Kカズミの大食い伝説」が影響したんだろと言う。そば清みたいなおそばの大食いの話である。
そんなつもりは一切なかったが、影響ないと断言できないのが弱いところだ。
かつて古今亭菊丸師の「ちりとてちん」を聴いた夜に寿司を食いにいったことはあったが、これは自分でも認める影響。
認めないサブリミナルな影響もないとはいえない。

スクエア荏原は品川区。中原街道と、環状6.5号という異名を持つ補助第26号線とが交わる交通の要所、平塚橋交差点の西の角にある。
武蔵小山と戸越銀座という、東京の誇る巨大商店街2つが至近距離にある場所だ。
大井町駅前のきゅりあんと並ぶ、品川区の2大ホール。なんていいつつ、観覧するのは初めてなんだけど。

当日券を得てから、武蔵小山で食事をする。武蔵小山と言えばアーケード商店街のパルムであるが、パルムと補助26号の間にやきとり屋を見つけてラッキーだ。
パルムは土曜日で人が溢れかえっているが、間に挟まれた場所にオアシス発見。

今日はむだ話が多いな。これもコーフンしてるせいなのだ。

出来心 扇ぱい
茶の湯 鯉昇
(仲入り)
おせつときょうた
不動坊 扇遊

前座は扇遊師の四番弟子、扇ぱいさんで出来心。
寄席では前座はやらない噺。落語協会の寄席では前座が泥棒噺をすると師匠方に迷惑だからなのか、「鈴ヶ森」すら出ない。
初めて出くわしたが、入船亭らしく端正で、上手い人だ。
「真心に立ち返って泥棒に励む」というセリフを、子分でなくて親分のほうが発していた。これは初めて聴くスタイルで、非常に気に入った。
一般的には、子分のボケを親分がツッコむわけだが、つまりツッコミを省略したのだ。
最近、前座の中には明らかに「ツッコミ省略」のトレンドがある。お笑いの影響だと思うが、スムーズなセリフ運びという点で、私はこれに非常に好意的です。
ツッコミが欲しい客は、自分の内心でツッコミましょう。
ちなみに柔軟な師匠は、前座の工夫も取り入れると思う。すなわち、これから流行る。

扇ぱいさんが上手いのを確認して、ちょっと寝ました。
序盤がたっぷり目で、下駄まで。

鯉昇師登場。
いつものように無言で客席を見つめ、最速で客をつかむ。
落語界屈指の仲良しである扇遊師と一緒なので、静岡の話題を多めに。
手のひらを広げて浜名湖を表現するのは私は初めて見た。だが柳家花いち師がインドを左手で表現しているのはここにルーツがあるのかもしれないなと。
花いち師も、鯉昇師と同じ浜松だ。

浜名湖が手のひらに似ているのは、だいだらぼっちが富士山で蹴躓いて転び、地面に手をついた跡に水が入ったからなんです。嘘に決まってますがと鯉昇師。
ちなみに鯉昇師、客目線でなくて、自分目線で左手(浜名湖)の下手を東京、上手を京都に設定していた。
私は(手のひらの)このあたりに住んでいたんです。

扇遊師の熱海は、箱根山の手前なので東京の情報がリアルに入ります。
いっぽう浜松は、情報が箱根の山を越えてから来るので、どうしても遅れます。
子供の頃好きだったシャボン玉ホリデーは、電波が遅れてようやく金曜日に放送してました。中学校の英語でholidayの和訳を書けという問いに、自信満々に「金曜日」と書きました。

そして五穀米(鳥の餌)をいつも食べているので、空を飛べる話。
故郷の同窓会の話。同窓会の出世頭である警察署長の話。
親類に毎年去年の新茶を送ってもらう話。ウケないのは演者ではなく客に問題があるなどなど。
聴いたことのあるマクラばかりだが、実に楽しく、幸せ。

マクラからどうつながったのだったか、茶の湯へ。
鯉昇師の茶の湯には、青ぎなこは出てくるが、椋の皮は出ない。
緑色が足りないので加えるのは絵の具であり、泡立ちを補うのは洗剤である。
そして利休饅頭にはニンニクと玉ねぎが入っており、その型抜きに使うのはミシン油。

続きます。

 

 

作成者: でっち定吉

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