鯉昇師、使うアイテムを見てわかる通り、客の脳内にしまわれている茶の湯を、軽く裏切ってくるところがたまらない。
鯉昇師にとっては、「古典落語を語りなおす」ことが、どうやら最重要の仕事みたいだ。
しかし、裏切りは表面的にはごくひそやか。茶の湯を初めて聴く人にとっては、「そういう噺」である。
それでも、「語りなおし」のふざけた雰囲気は、初めて聴く人でもわかるかもしれない。原典のないパロディ。
既存の古典落語と違うアイテムに最初は気を取られるが、実はそもそも、語り口すべてが既存のルールと違う。
軽いギャグに気を取られて、本寸法好きの落語マニアが油断した心の隙間を、鯉昇落語は迅速に埋めてくる。
気が付いたときはもうやられている。
こういう「語りなおし落語」というのは、実は「古典」「新作」という区分とまた別の領域を占めているのではないかな。
「古典の改作」とも近いが、それは新作寄りなので、また領域が異なる。
お店の人(賃借人)たちを茶に呼ぶシーンはない。これはもう、時間の関係ではなく、この語りなおし落語に入れようとしても、入れる場所があるまい。
そのかわり、お腹を壊した主従ふたりがおしめを当てているシーン入り。
よく考えたら、「どうしてこの二人は、お腹を壊してまで茶の湯に打ち込むのか」という疑問が客の頭に浮かばない点はすごい。噺を語りなおすにあたって鯉昇師、あらかじめこの穴をふさいでおくわけだ。
語りなおしによって、既存の茶の湯の疑問点も埋めてしまう。
実に奥が深い鯉昇ワールド。
仲入り休憩を挟んで、色物ゲストは漫才のおせつときょうた。若手だが、ベテラン漫才師みたいな真っ赤なお揃いのスーツ。
私は久々であって、楽しみにしてきた。
この人たち、当ブログでは名前はたびたび出てくるのだが、聴いたのは1回だけ。
まだ芸協の会員になっていなかった時代に、代演で一度聴いただけ。なかなか衝撃を受けた。
代演の際は最も得意な回転寿司ネタを持ってきたが、今でもとっておきのネタらしく、今回もこれ。別に被ってイヤではなく、むしろ嬉しい。
ボケとツッコミが明確に分かれていないのも、昔の漫才っぽい。
そして最も大事なことだが、さらにウデを上げていました。
おせつときょうたの名前だけよく登場するのは、大きいほうのおせつが、NHK新人落語大賞も取った桂華紋さんのお兄さんだから。
浅草漫才の兄と上方落語の弟、いいですね。本当の兄弟会とかやってるみたい。
おせつは 上方落語台本大賞の佳作を獲ったそうで。ネタ作りも見事ということ。
まだ若手なので、先輩の断った仕事をおさがりでやらせていただいてますと挨拶。ナイツさんとか。
この会がナイツのおさがりかどうか、もちろんそれはわからない。土曜のラジオ終わってから入れないことはないし。
おせつは上京してきたとき、この平塚橋の近所に住んでいたという。
地元の客は大喜び。星薬科大の裏に住んでいたが、東日本大震災で天井が落ちて強制退去になったそうで。
その後戸越銀座に移ったそうで、やはり地元。
その頃は、Wikipediaにも書いてあるが小松政夫の付き人をしていたという。
小さいきょうたはマッシュルームカットで可愛い。最近結婚したそうで。
奥さんは女優で、元フィギュアスケーター。羽生結弦とペアを組んだこともあるという。
奥さんも旦那もスベるのが仕事です。
きょうたはなにかいいことがあると、すぐにお寿司を食べたがる。今日もこんな会に出してもらったので間違いなくお寿司。
お寿司ええやんか。握ったりちらしたり、巻いたりできて。
うちの寿司はいなってたで。おいなりさんかいな。なんやいなってたって。
そしてアガリ、ナミダなど寿司屋の符丁(うそ符丁入り)で客席を賑やかにしておいて、回転寿司の漫才コントへ。
工場でおいしく作ってもらったイチゴのショートケーキちゃんがきょうた。どこで売られるのかな、おしゃれなカフェもいいなと思っていたら、なにここ? 回転寿司のレーンで回らされるの?
そこにすでに何周も回っており、もうじき廃棄されそうなおせつのマグロが登場。ショートケーキちゃんにセクハラしたりする。
おせつだけ、赤いジャケットを脱ぎ捨ててチンピラマグロを演ずる。
原典はコロッケそばであり、ぐるんぐるん(柳家小ゑん)である。
新作落語の世界にとても近しい漫才は実に楽しい。
芸協の寄席でまだ聴きたいふたり。