「御法度落語おなじはなし寄席!」スペシャル その7(親子酒)

7月29日の池袋夜席「小ゑん落語ハンダ付け」の案内メールが来た。
ゲストは橘家文蔵師匠。
ネタ出しは、「鉄寝床」柳家小ゑん、「寝床」橘家文蔵だって。
なんと、「おなじはなし」だ。行こうかな。
文蔵師と小ゑん師はしばしば寄席で、「千早ふる」⇒「鉄千早」というおなじはなしリレー遊びを行っている人たち。
小ゑん師の鉄寝床は、かつて黒門亭で聴いたものがCD化されている。

さて、おなじはなし寄席の後半。親子酒対決。
私が2週間出さなかった理由の一つ、桂雀々師も登場。別に師のせいではないが。
雀々師の落語は決して得意にはしていない。東京在住でありながらアッサリすることなく、いまだにこってり最右翼の上方落語に挑み続ける珍しい人。
だからこそ仕事がある。独自の体系を作り上げている人であり、好き嫌いでは収まらない敬意を払いやすいのだ。
三四郎師も、東京新作と異なる独自のワールドを作り上げることに成功すれば、私も悪く言うことはないと思う。

スピード離婚で話題の雨宮萌果アナはオチケン出身というのがウリで、NHK時代は落語ディーパーなどにもかつて出ていたが、落語に関する独自の見解を口にすることはなかった気がするな。今回も。
アナウンサー時代はそれでもよかったと思うが、民放ではどうだろう。
そもそも、落語に関する独自の見解など持っていないのではないか。そんな気がしてならないのだが。
この点、昨年司会をしていた南沢奈央は立派だと思う。

西の親子酒というものは、うどん屋のくだりがついているものという、番組ではそういう扱いだがそれで合ってるのだろうか?
昨年のNHK新人大賞で桂小鯛さんがこの型出した際に、スタンダードだと認識せずに論評したのだが、恥かいてるかもしれない。
言い訳すると、東京ほど出る噺ではないから。毎週聴いてるラジオでも出ない。
ただ、親子酒の前に「風うどん」がついてるという当時の私の認識は、よく考えたら明白な間違いだ。この噺の酔っぱらいはちゃんとうどん食ってるものな。

ネタおろしだったとはとても思えない見事な一席。
枝雀の弟子だからといって、親子酒を持っていなかった雀々師に頼む制作サイドもすごいが。
うがった見方をすると、企画の段階でまだコロナの影響が強く、関西在住の噺家さんを呼びづらかったのだろうけども。三四郎師も東京在住だし。
それでも師匠の噺をシャワーとして浴びていた以上、ちゃんと頭には残っているからすぐできるのだ。
現在の雀々師のフィルターをちゃんと通って独自の落語として出てくる。面白いものである。

雀々師は大阪アホ落語の第一人者だが、ただ、酒によって新たな生き物を生み出すがごとき文化は、むしろ脈々と東京に息づくものかもしれないという気もする。
猫の災難とか、棒鱈ね。

それから柳家小里ん師。
まったく後ろに引かない風格の小里ん師だが、後の出番でやりづらくないなんてことはなかったと思う。
番組でも言う通り、噺の展開は違うのはいいとしても、酒の落語である点は同じである。
前の人が試し酒や替り目を出していたら、親子酒もあり得ないわけで。
サゲが同じなのはもう、気にしても仕方ない。堂々と言葉を発して終わる。

千原ジュニアが小里ん師の高座につき誉め言葉に迷って「美しい酔っぱらい」と評するのは面白かった。
手持ちのボキャブラリーにない中で、がんばってひねり出したなという。
でもまあ、わかる。爆笑路線の後では、実に形容しづらい芸だ。すばらしい内容であることは落語ファンならわかるけど。

美しい酔っぱらいも悪くないけども、小里ん師の落語について私は、ちゃんと褒め言葉が事前に用意してありますよ。
「胆力がすごい」という。
小里ん師の前で客はその肝の前に身動き取れなくなり、胆力シャワーをずっと味わい続けるのである。
師匠小さんも剣道の達人であり、大変な胆力の持ち主ではあったが、そのままは出してこず独自の愛嬌を加えていた。
小里ん師は、愛嬌はことさらに加えない。むしろ見た目が怖い。
愛嬌を感じたとしたら、師の胆力にうなったファンが、錯覚して勝手に見出してくるもの。
ちなみに最近はあまりない気がするが、胆力の強い落語というのは、上方にも風土として着実に残っているはず。先代文枝や、先代春團治。

東京の親子酒というのは、見栄の噺だ。
親父は飲みたくて仕方ないくせに、息子の前でだけちゃんとした人間であろうとする、そのうさん臭く共感を呼ぶさま。
そのふるまいが、ハタから眺めると面白いという。

アフタートークの枝雀の話は貴重なもの。
新作落語が溢れて仕方ない枝雀、飲み屋でもって雀々師に聴かせていたという。
ただ、その場に居合わせた客は楽しんでいたようだが、内容はシュールすぎてたぶん残らない運命にあったものみたい。

私も昨夜酔っぱらって、更新が7時を回ってしまいました。
遅くなりましてすみません。

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作成者: でっち定吉

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