「御法度落語おなじはなし寄席!」スペシャル その6(桃太郎)

前回と同じ国立能楽堂が舞台の「おなじはなし寄席」。
国立劇場・演芸場の建て替えにより、ここでも国立劇場の既存公演が行われることが発表されているが、はたして落語はあるかどうか。
落語は北千住というのが私の予想。
同じ舞台だが、前回と異なりお囃子さんは映さない。

雀々のアクセントと同様、この特番を取り上げるのが遅れた大きな理由が、桂三四郎師。
嫌いな理由は過去に何度も書いている。もうよかろう。
しかも、今回出した新作の桃太郎は、Zabu-1グランプリでも出していて、そちらでも批判しているのである。
Zabu-1グランプリは二ツ目の大会なのに、芸歴17年目で出場していて、どうかと思った。その際、「柳亭小痴楽師(真打になっていた)より先輩だ」と書いた。
その小痴楽師との共演だ。

ちなみにZabu-1グランプリ、金原亭乃ゝ香さんも出ていたのでこの記事だけアクセス割と多い。

いろいろあったが、今回の特番、積極的に取り上げたい理由もあったのだ。
柳亭小痴楽師の桃太郎、本当に素晴らしいものだった。感動した。

桃太郎はシンプルな噺だと、番組ではそう言う。だがシンプルというより、単につまらない噺の筆頭だと思っている。
寄席では稽古代わりに前座が掛けるだけ。
前座噺でも、前座がやらなかったら後の二ツ目、真打が出したがる噺は無数にある。子ほめ、牛ほめ、金明竹、転失気など。
桃太郎をしめしめと出す真打はめったにいない。
過去に聴き面白かったのは、スーパー前座だった柳家り助(現・小ふね)さんぐらいのものだ。

しかし番組出演が決まってから、10年封印していたこの噺を急遽寄席の代演(志願して)で三度繰り返し出し、蘇らせたという小痴楽師。本当にもう絶品。
本人も、生意気な金坊が自分のキャラに合っていることをトークで述べていたとおり、すばらしい金坊。
ちなみに、金坊だけじゃなくて、親父のほうもそのチンピラっぽいキャラが小痴楽師に合っているのだ。
この噺は、父になった小痴楽師と、噺家の二世である子供の小痴楽が、時代を超えて交流するものといえる。

父子双方はひとりの人格の分身なのだから、ハナからそこに対立のありようがない。
対立がないので、金坊が度を超えて生意気だということもない。
金坊むしろ、無知な親父の発言を、ツッコミ力によりボケに変えてしまうのだ。金坊のおかげで、本当のボケも発揮する親父。
トークでは、アドリブも入ったと語っていたが、どこだろうか。よく探せば見つかるだろうが、このスムーズな一席には野暮な捜索だ。

小痴楽師の作り出す言葉のリズムが圧倒的であることは、今さら語るまでもなかろう。
ストーリーに関係なく客を高揚させることばの数々。
前座は、桃太郎を覚えるために小痴楽師のところに稽古に行くべきではないだろうか。

高座の前に千原ジュニアが、「桃太郎は卵かけご飯みたいなもの」と例える。
すかさずそれを引いて小痴楽師、「私はお米に卵を掛けるだけなんで」と挨拶。醤油やネギを掛けるのは、お客さんの仕事だと手短に語る。

小痴楽師、紋付でない羽織を着ている。私の小痴楽テレビ録画コレクション、順調に増えつつあるのだが、羽織に紋が入っていたためしはない。
昇進直前だと思うが落語研究会に「干物箱」で出た際、そのいわれを語っていた。
師匠からも、なるべく紋は付けないようにと言われているそうで。

7月下席の末広亭は、小痴楽師が主任。
夜席だが行けそうなのでぜひにと思っている。

続いてようやく克服したと、昨日は思った桂三四郎師。
ちなみに紹介VTRでもって、「六代目桂文枝」という表現をしていてオヤと思った。
間違いとか、そういうことではない。文枝師は、「六代目」といえば松鶴なので恐れ多く、自分では「六代桂文枝」と名乗っている。
そういう忖度はしないんだ。しなくていいと思うけど。

この記事のため、最後もう一度聴いた。
やはり「外国人が疑問に思う昔ばなし」という構造に共感できない点は致命的だなと。
そして、昔の紋切り型外国人描写。
そんなことを言ったら、古典落語の桃太郎だってそもそもそうなんだけど。だからこそ、ごく普通にはつまらない。
トークで話していたカナダ人落語家桂三輝が「どんぶらこ」がわからなかったという話は、フレーズに対する疑問でしかない。
我々がグリム童話に疑問を持ったところで、ドイツ人を問い詰めたりはしないわけで。

やはり新作落語たるもの、その世界は古典の上を行ってて欲しいのである。
三四郎師は東京の寄席で育ったわけではないし、寄席の新作派とは雰囲気がだいぶ違う。違っていてもいいのだけど、圧倒的であって欲しい。
新作落語家が多い現在、そこに位置を占めるのは大変なのだ。
悪いが、私はやっぱりダメ。

続きます。

 
 

桃太郎後日譚

作成者: でっち定吉

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