花王名人劇場「トーク&TALK」談志・小朝・八方

BSよしもと「よしもとプレミアムアワー」で、昔の花王名人劇場を再放送してくれている。
最近も「リクエスト劇場」という企画を取り上げたところである。
昔の映像はそれ自体に価値があるなと。圓生の動画ならたくさん持ってるのだが、こういう番組は珍しい。
「面白い噺家」という評価が残っている月の家圓鏡(のちの橘家圓蔵)を見返して、技術に圧倒された次第。

その後も次々と古い番組が流れ、楽しんでいる。
次に順番で「仁鶴・圓歌・圓菊」個性派3人衆というのを取り上げようと思っていた。私の子供時代の記憶が絶妙に蘇ってきて、なんだかたまらなくなる。
だがそちらよりも先に、ひとつ取り上げることにする。噺家6人がスタンダップスタイルで漫談だけ披露するという企画「トーク&TALK」である。
これにいろいろ考えさせられた次第。漫談とはなにかという。
メンバーは次の通り。

  • 立川談志
  • 春風亭小朝
  • 月亭八方
  • 林家しん平
  • 金原亭駒平
  • 笑福亭福笑

小朝、八方はすでに売れていた。
駒平とは? 二ツ目時代の金原亭世之介師である。
しん平師がムチャクチャやっていた記憶はなんとなくあるけども、世之介師について同じ記憶は持っていない。
ただまあ、現在弟子をやたらメディアに送り込もうとするのは、この頃が原点なのでしょうか。

福笑師は現在パペット落語をやっている人。
人には歴史があるものですな。

(※匿名のコメントをいただいたので気づきましたが、パペットは鶴笑師です。匿名は承認しませんが、間違いは認めます)

冒頭で談志がひとりで出てきて、そして続けての小朝・八方とのトークでもって、なぜこの企画をやるのかを語っている。
噺家はもともとマクラで漫談をやっている。その部分が面白いので、拡大しようということ。
本当はそんな単純な話でもないが、現代人が求めているものを出そうという談志の意志の現われである。
若い八方師、談志にマクラを褒められつつも、古典落語に入ると客の反応が芳しくないのだと語る。

雄弁な談志は、落語が今後勝負していくためには「内容」だと語る。
落語には内容以外にも、「形がいい」などといった形式上の評価もあるが、それに関する価値観が減ってきてしまった。こんな世の中だから今日は内容で勝負したいと語る。

だが6人のうち、2022年現在から振り返ってなお面白かったのは、談志ただひとりだった。
当時の聴衆にとってつまらなかったなんて言わない。楽しんでいる姿は画面からもうかがえる。
だが40年ほど経た現在の感覚からすると、全滅だ。
談志は「内容で勝負する」と言ったものの、普遍的な価値などどこにもなかったのだ。
再放送する価値は、逆説的な部分にしかなかった。

談志がすごいなと思うのは、実に普遍性に満ちていること。時代が変わってもなんら古びない。
だがこの凄さだって、同時代から眺めたときは、他の漫談とまるで同じなわけで。
あたしゃ別に談志好きじゃないですよ。でも突き抜けた実力が時代を経て容易に見てとれる。

落語のマクラを独立させた漫談は、時代とともにあっという間に古びる。
だが独立しないマクラ自体は古びない。
古びないのがマクラで、古びるのが漫談ということか。考えたことなかったけども、面白い事実。

談志、冒頭のトークでもって、かつて「漫談など芸ではない」と発したことで物議をかもしたと自ら語っている。
ネット上にはあまり資料はないが、牧伸二を指して発言し、それが牧の師匠、牧野周一を怒らせたらしい。
しかしまあ、噺家が漫談をやってみることで、漫談自体確立された芸といえないことを、間接的に立証してしまっているのかもしれない。
私はぴろき先生は好きですけど。

小朝・八方両師はこの時代バカ売れしていて、私もよく覚えている。
その漫談芸を今振り返ると、びっくりするほどつまらない。改めて驚いた。
二人とも、普通に高座でやっていた芸を当時楽しんだ記憶があるので、何らかの偏見によりそう言うのではない。
なにが面白いのかその対象が、現代においては共通していないようだ。
私のようなおじさんも、昔と今とで笑いに対する感性が実は大きく違うのである。なのに落語は当時も今も楽しいという、この不思議。

しん平師は、そのスタイルについては面白かった。
サングラスにリーゼント。あさひのぼるかと思った(ご存じ?)。
テロップに「元暴走族」と書いてある。え、しん平師って元祖暴走族なの? 鯉斗の前に?
現在の経歴に載っていないところを見ると、ウソなのかね。

駒平こと世之介師は、長髪。宮崎美子が前年売れたので、そのモノマネで出してもらっているらしい。
ということは、オンエアは1981年。

福笑師はなんと毒舌漫談。現代視点からはちょっと引く感じ。
笑福亭だが吉本なので出られているのだろう。この路線が続かなくてパペットに進んだのか。

(※鶴笑師でなく福笑師なので、そもそも吉本じゃないですね)

談志の圧倒的な漫談についてどこがすばらしいか、具体的に取り上げたいのだけども、どうするかな。
選挙前なのに、現代政治の話にまで発展してしまいそうで。
これは、いずれじっくり掘り下げて取り上げることにして、今日はこれまで。

作成者: でっち定吉

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