国立演芸場19 その6(春風亭柳雀「御神酒徳利」)

また眠くなってしまい、太神楽を爆睡して過ごす。
最近、ヒザの太神楽で爆睡してばかりな気がする。この披露目に欠かせない芸に対し、含むところは一切ありません。

とにかく寝て復活したので、新真打の一席を心して聴くことにする。
なんなんですかねうちの師匠は、やたら私を豆腐屋にしたがってましたけどと柳雀師。
私の実家、別に豆腐屋じゃないですよ。まあ、千早ふるなんですけども。

文治師匠もキャンプの話ばっかりでしたが。
確かにキャンプは好きですね。芸協内にキャンプ部がありまして。みんなで集まってそれぞれソロキャンプする感じですね。

小痴楽師匠は年がだいぶ下ですけども、楽屋に入ってると年齢はあんまり意識しませんね。
先輩は太鼓も上手いし、着物畳むのも速いです。だから尊敬してるんですよ。
まあ、楽屋出たらアレですけど。

それから柳雀師の住む、新井薬師の地元マクラ。
上高田5丁目の町内の落語会から始まり、どんどん横のつながりで上高田の他の町会でも会をやらせてもらう柳雀師。
こう見えても北海道から地元鹿児島までくまなく活動中なのに、町内会のポスターには、「上高田5丁目から1丁目まで広く活躍中」と記載される。

マクラからどうつながったか、「日本橋馬喰町に刈豆屋という旅籠屋がありまして」と本編に。
ああ、一番被って欲しくなかった御神酒徳利だ。
しかし、自信のネタほどよく被るのはもう仕方ない。
デキは今回もまた、よかったと思うけども。
「粗忽の釘」と粗忽被りはしないのかな。主人公の番頭・善六さんは粗忽キャラというわけではないのだが。
後半、旅が大坂に着いてからの重要なアイテムが、文治師のお血脈に出てくる「守屋のおとど」(物部守屋)。
このもろ被りはもう、わざとだ。もちろんお血脈について触れていた。というか、お血脈にツく噺があるとは思わなんだ。
守屋が遺棄した仏像を救い上げることで、鴻池の娘のぶらぶら病を治すのである。

この噺、じっくり迫ると次の通り盛りだくさんの要素に満ちていて、実に楽しい。
この点、二度目でもむしろよかったかもという気もしている。

  • 日常、誰にでもありそうなうっかりが発端
  • 自らのチョンボなのに恩を売る、算段の平兵衛みたいないい加減さ
  • かみさんの知恵を使って取り繕う、鮑のし系統の噺みたいな楽しみ
  • 日ごろの心がけなどでなく、運だけで困難を突破する御慶のような適当さ
  • 神さまにまで助けてもらう(超常現象)
  • なんの成長もせず帰ってくる極めて落語らしい主人公
  • 東下りの言い立て入り

柳家でやる御神酒徳利とは、同じタイトルにしておくのはよろしくないぐらい中身の違う噺。あちらには「占い八百屋」という別題があるのだけど、使わない。
神奈川宿で、女中の自白によって失せものを見つける展開だけが一緒。
こちらの圓生系の御神酒徳利では、主人公が逐電したりはせず、ひたすら運だけで成功して帰ってくる。
実にまた、落語らしい。

せっかくなので柳雀師の二度目の御神酒徳利を聴いたあと、師匠・鯉昇のものと聴き比べてみた。
基本的には師匠から習ったとおりである。サゲを替えているものの、ほぼ同一。
ただ、雰囲気が違っている。演者の個性の違いによる、噺へのアプローチが真逆になるのが面白い。
師匠のお神酒徳利は、鯉昇師にしてはふざけムードの薄い噺。圓生由来らしい噺をしっかり語り込む。
といっても語り手がユニークだからやはり楽しい。
弟子のほうは、最初からわりときっちりしている。スタートがそれで、そこを確立したうえでユーモアを注ぎ込んでいく。
この噺自体が、きっちりしていてしかし柔らかい、そんな感じなのでどちらからでも入れるのである。
柳雀師の、噺をどう味付けするかというテーマに、兄弟子の鯉橋師に似ているものを感じる。大所帯瀧川一門には、こんな系譜もしっかり存在するのであった。

鯉昇師にない部分。
善六さんは自分では二番番頭だという誇りをいだいているが、実はお店にいてもいなくてもいい人間だということ。
もっともそれに気づいても、そこに漂うのはちょっとしたトホホ感だけであり、深刻な悩みなどなくてやはり落語らしい。
善六さん、かみさんの勝手な設定である「人生に三度なんでも当てる」を使い果たして江戸に帰ってくるので、この後の人生ではまったくもってただの人。
でもハッピーエンド。

柳雀師の今後の売り物になるのでしょう。
成金メンバーと同様、いずれ寄席の主任もある人と思いますが、どうでしょうか。

それにしても、中身の詰まった1日でした。

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作成者: でっち定吉

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