東京かわら版7月号はロケット団特集

それにしても、落語や漫才なんて平和でないと弱いものだ。痛感する。
演芸の意義が権力批判のためにあると思い込んでいる茂木健一郎あたりには一生わかるまい。批判より先に必要なのは共感だが、平時でなくなると笑いがすぐに機能しなくなる。
土曜日あたり、寄席ではどうだったろう。演者もやりづらかったろうが、客もだったと思う。

その昨日、ナイツのちゃきちゃき大放送を聴いていたが、本当に気の抜けた内容だった。
その前に聴いていた文化放送の「いとうあさこのラジオのあさこ」はニュース以外実に平常運転で、そんなことできるんだと感服したのだが、時事ネタがウリのナイツはなあ。
最大の時事ネタが封印されたらどうにもならない。
別に圧力があるわけでもなくて、最もインパクトのあるニュースが冒頭漫才から使えないとなると、聴いていて白けてしまう。
いつも鋭い常連さん、能町みね子も今回は、手も足も出なかった。ただ、この人は最大のネタが封印された異様な状況そのものについて「これに触れないわけにもいかないが今は何とも言えない」と語っていたのが偉い。

当ブログも事件発生の金曜日はアクセスの伸びが鈍化していた。
まあ、仕方ない。
しばらくは憂鬱に襲われる人も多いかもしれないが、面白いことをしっかり笑っていきたいものだ。
襲撃犯の人生には、笑いがなかったのだろう。

時事ネタといえばロケット団。
漫才師としては珍しく、東京かわら版7月号の巻頭を飾っていた。
どこかでこの人たちに触れようと思っていた。今日がふさわしいかどうかは何とも言えないのだが。
ただ、きっと暗殺事件についても、不謹慎にならない爆笑ネタを作ってくれると思う。
「不謹慎な笑い」というものも存在するが、もはや世間で受け入れられなくなっているのは、オリンピックの演出このかたご承知のとおり。

そのかわら版の記事。
インタビュアーのまとめが上手い。ボケの三浦、ツッコミの倉本のふたり、別にいつものスタイルを用いた紙上漫才ではないのに、どことなく漫才っぽい。

非常に寄席の漫才師らしい彼ら、その秘訣がインタビューからわかりやすくにじみ出てきた。

  • コンビは対等ではないが、倉本が先輩の三浦に教えを乞うている了見でいるので、関係性が安定している
  • 他の漫才師と同様、相方と一緒に行動したりはしないが、もともと笑いのツボも近く、関係良好
  • 三浦はしばしば、舞台の上で最新時事ネタを予告なく放り込んでくる
  • 突然のネタフリでも、三浦が最終的に処理してくれるので、倉本は困惑することはない

漫才コンビというもの、多少上下関係が明確なほうがいいみたい。ロケット団は、後輩であり、年も下の倉本が「師匠」とまではいかないが、相方の三浦を「漫才の先生」として立てているので安定しているようだ。
この点はナイツや宮田陽・昇もそうだと思う。現ホンキートンクは最初から当然そう。
こういった、上下関係に基づく安定性からスタートするコンビも世には多いけども、地位が上のほう(ネタ作り担当者でもある)が下の相方に過剰なダメ出しをするようになると、だいたいダメになる。
ダメ出しするほうは、相方がよければもっと売れるのにと思うし、ダメ出しされたほうも、半分は俺の力じゃないかと思っているから、徐々にコンビ仲が悪化していく。
相方に日ごろから感謝し続けることは、簡単そうで実に難しい。
ロケット団の場合、三浦の骨折で半年休業したことがあり、この点がいいほうに活きているのかもしれない。インタビューでも触れられているが、相方がいなくなったら漫才はもうできないのだ。

舞台の上で突然予告なくネタを振る効能は、ナイツ塙もしばしば語るところ。
漫才を予定調和にしないことで、常に新鮮さを届けられるということだ。そしてツッコミにとってもいいトレーニングになる。
ロケット団の場合は時事ネタを振る。倉本もなにが来るかわからないからニュースにはすべて目を通してはいるが、たまにわからないものもあるのだそうだ。
だが、最終的にはネタを振ったボケの相方がなんとかしてくれるという無限の信頼がある。

これ先日、実際に倉本が間違ってボケを先取りした舞台を観たのでよくわかる。
といっても、客のほとんどは気づかなかったに違いない。私が浅草お茶の間寄席でたびたびロケット団に触れているからわかったのだ。
その後も、なにもなかったかのように実にスムーズであった。
「お前そこ、違うじゃねえか。お前が《掛かり付けの医者》って言うのをオレが《行きつけの医者》ってボケるんじゃねえか。先に《行きつけの医者》って言ったら成りたたねえだろ」
なんて言って失敗をギャグにする手法もあるところだが、そういうのは好きじゃないみたい。
それに、短期的にはよくても、コンビ仲について客が疑問に思うようになると、後で響いてくる。

他にも、エピソード満載で読みごたえある記事だった。

  • 「揃いの衣装」だった時期もあったが客席から「安っぽい」と言われてやめた
  • 劇団時代はふたり揃って借金まみれ、その後過払い金請求した
  • ヨボヨボの年寄りになっても漫才がしたい
  • 「三浦さんの『おしまい』は『冗談言っちゃいけねえ』」というインタビュアーの発言を、倉本が「正解です」

ロケット団に、私からたったひとつ注文がある。
ネタの区切りがはっきりし過ぎていることだ。「山形弁ネタ」「四字熟語」とか「欽ちゃんに憧れた」とか、いきなり入る。
あれだけちょっと。
次のネタへの入り方については、陽・昇がすごく上手いなと思っている。

作成者: でっち定吉

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