落語における協会・団体の機能(続・立川幸弥)

昨日の立川幸弥の記事には、非常に大きな反響がありました。
まあ、当ブログの読者の方々が好きそうな方面ではあります。
一昨日の喬太郎師の個別アクセスまですでに抜いてしまった。

立川幸弥という人は、世間に足跡(いいほうの)を全く残していない状態でフリーで活動するという人。この点で極めて珍しい。
そして恐らく現状、何の期待も受けていない人。
むしろ、楽屋でいじめられた後輩たちにとっては、不快でしかないであろう。

私が気にしているのは、事実として芸術協会を追放されていることのほうである。
師匠との関係で辞めたのではないのである。この点まず、前代未聞。
当事者の言い分はあるだろう。
だがものの順序からいうと、追放処分を解いてもらうのが先という気がするのだけど?

8月の東京かわら版に幸弥の名前がないのは、つまり芸協で活動がさっそく問題になっているからかもしれない。
ナメたやつがいますぜ。

真逆の可能性も一応考えられる。
師匠を通してもう一度やり直したいと言う幸弥に対し、芸協のほうから内々で、「しばらくフリーで活動しなさい。様子を見て復会(前座復活)を認めます」と言われているのかも。
この場合なら、別に師匠・談幸がせっかく入れてもらった芸協に反旗を翻しているわけではないことになる。
いじめた人間を今度は「アニさん、ネエさん」と立てなければならなくなり、こんな話好きそうな人もいるでしょう。
ただ、現在の活動状態を合理的に説明できない以上、やはりないと思う。
職能団体である協会たるものが、「フリーでやれ」なんておかしいから。

ちなみに落語界、少々人格破綻の気がある芸人だとしても、才気あふれる人材であれば、必ずどこからか助けがあるものでもある。
場合によっては、ルールを変えることすらする。
今回は、そこまでじゃないと思うんだよな。

7月30日の道楽亭の告知。

スケは桂伸衛門師。
伸衛門師も、春雨や雷蔵師のところを追い出された過去があるから、同情的なのだろう、きっと。
ちなみに伸衛門師も、入門前に別の師匠についていたらしい(5ちゃんねる情報に過ぎません)。この点も、三遊亭歌橘師のところにいたらしい幸弥とパラレル。
ただ、こんな会への出演で、まずいことになっているかも。

梶原いろは亭の24、31については、トリがそれぞれ花いち、志ん雀と落語協会だから、芸協はどうこう言えまい。
ただ、31日は兄弟子幸之進が顔付けされている。まあ、一門だからどうということはないだろうが。

一度の過ちをおかした若者の復帰をなんとかバックアップしようという発想、理解できなくはない。
だが、上の評判だけよく下をいじめていたという人間性の持ち主に、落語界に帰ってきてほしいかというとな。
ただ、いじめがご法度なのは当然だとして、過去の事象をまるで把握していない私自身、怒りのパワーを決して強くは注げないのだが。
いじめ加害者としての認識より、イヤな了見の人みたいだね、という感想。

いろいろ考える。
幸弥の活動が私の気に入らないのは、これが落語界の時流に逆らった動きだからではないかと。
現在の落語界は、「寄席」への大きな揺り戻しが見られる。特に芸協で。
寄席に揺り戻しがあるなら、クラファンなんかやる必要ないだろと言われそうだ。
全然違う角度でものを見ている人もいると思うのだが、でも私には寄席が力を増しているように見える。
談志の始めた「寄席の否定」は、いっとき大きなうねりを呼んだ後、最終的に失敗として決着した。最近の立川流の若手を見ればわかる。
結局落語は寄席に帰ってくるのだ。
今は芸協が、立川流と円楽党とを絶妙のパワーバランスで支配している。これらを二次団体として、末広亭に送り込む機能が始まっているのである。
新宿末広亭の当下席(夜席)の小痴楽主任番組がまさにこの象徴。
上方については、文治師はじめ個々の動きで出てもらっているのが大きいようだが、これも結果的に一つのシステムとして機能しかかっている。上方落語界は支配はできないので協力関係だが。
なお、一連のこの流れにつき、私自身はなんら悪い感情は持っておりません。将来的な、協会統合への道でもあるからだ。

ともかくも、寄席の強化に逆らう流れはあまり好ましくないなと思っている。
ただ、流れがあれば逆流も生じるもの。
ひょっとして、「誰でもフリーで活動していい」時代の先駆けなのだろうか。
破門された人が、逆襲しやすくなる時代が来ているのだろうか。
師匠と闘い、そして滅びかけている三遊亭天歌さんにとっては、あるいは福音となるかもしれない。
談春師のところをクビになったナツノカモとかにも。
そして、木久扇師を破門になった林家扇兵衛も復活していいことになる。
それはどうかと思うが。

作成者: でっち定吉

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