用賀・眞福寺落語会2(上・柳家権之助「幽霊の辻」)

9月に予定していた落語会、第3弾。本日行ってきたばかりです。
用賀の名刹、眞福寺の会である。私の大好きな無料の会(要ご浄財)。
たっぷり4席だ。
この会は、昨年11月に初めて出向いた。その後正月(ゲスト駒治)、5月(ゲストこみち)も検討したのだが。
11月の際には柳家権之助師のマクラで、桂文治師の話を聴いた。
文治師は落語協会にも顔が広い人。権太楼師とのパイプが強いから、そのよしみで弟子の会に出ているものと思われる。
文治師は都内のさまざまな場所で会を開いている。いつも注視しているが、なかなか縁がないのでありがたい。
権之助師は売れてくる人だと思っている。ただ最近、一門ごとあまりパッとしないのだよな。
さん喬一門と随分差がついてしまった。

台風接近中。家を出たら急に雨が強くなり、駅に着くまでにびしょびしょだ。
落語に出かけるにあたり、気候はあまり気にしないことにしている。ともかく、客は少なそうだ。

記憶に基づき用賀の駅から歩く。山門の位置を間違い、お寺を一周してしまう。
お客は思いのほかいて、つ離れしている。

やかん 空治
幽霊の辻 権之助
水屋の富 文治
(仲入り)
三年目 文治
百川 権之助

 

時間になると前座登場。
2年振りにお見かけする、男前の桂空治さん。
久々のこの人、やはり前座離れしている。
「間」というマジックワードは好きじゃないが、こういう人にはつい使ってしまう。
セリフを発するまでの時間の取りようが絶妙。
そして、ムダに押さない。
でもやがて、師匠・文治や兄弟子・鷹治のように、確立した自分の領域ではグイグイ行くようになるのだろうか。

師匠の知ったかぶりを振る。
浅草演芸ホールの看板猫ジロリが大好きな師匠、弟子に、ジロリは特別な品種なんだよと。
なんだったかな、そう、シベリアンハスキーだ。

演目はやかん。
小遊三師の型だ。縮れっ毛の高島田。
八っつぁんにまったく後ろを見せない先生の勢いがたまらない。

ちょっと眠くなって、どこでサゲたのか記憶が確かでない。
15分やってたからやかんのくだりまで行ったのだと思うが。

続いて権之助師。
今日は私がトリを取らせていただきます。
文治師匠はこの後国立演芸場で、襲名十周年記念の独演会なので。
空治さんの師匠いじりを、あれは御法度ですといじる。
権之助師は、怖いものは好きなのだが、強くない。ホラー映画も昼間観終わる。
池袋演芸場のそばにかつて東急ハンズがあり、幽霊センサーを買った話。これを師匠宅で試してみる。
センサーが鳴ったと思ったら、おかみさんが立っていた。
以前このマクラ聴いた際は、たぶんお菊の皿に入ったのだと思う。
台風接近時のこの日は季節違いかなと。

なにかなと思うと、田舎道を手紙を届けにいく男が登場。
ああ、小佐田定雄作・幽霊の辻である。
かつて師匠・権太楼、そしてこの後登場の文治師からも聴いた噺。
設定は古典落語なのだが、古典には出てこない材料が詰まっている、楽しい噺。
この噺は今ぐらいがぴったりでは。

婆さんに目的地への道を尋ねただけなのに、道中のホラースポットの説明を詳しくされてしまう。
水子池、獄門地蔵、てて追い橋等々。
子捨て、浪人殺し、人柱等、それぞれのスポットには物語が付随している。
昨日ちょうど、「美の巨人たち」で遠野を特集していて、カッパ伝説などに触れたばかりであり、楽しさ倍増。
背景はひどい物語ばかりなのだが、それを楽しく語らないとならない。
権之助師、師匠譲りの楽しい語り口。
婆さんの語り口もまた、古典落語では使わない技法。ちょっと違うが、志村けんのひとみ婆さんみたいなキャラ全開、誇張されたセリフ廻し。
ただし、師匠のものよりはあっさり目。婆さんはもの忘れが激しいらしく、繰り返し「あんた堀越村に行きなさるか」と尋ねるが、回数は少ない。

グロさを抜いて客に楽しく届けるためにはどうするか。主人公がどんどん恐怖に襲われていくその様子をカリカチュアして描くことが秘訣なのだろう。
たぶん、「怖くないように語ろう」としてもダメだろう。エピソード自体はしっかり語らないといけないが、客が引くよりも先に主人公が引き気味なら、客は客観的に観察できる。

なにごともなかったと思ったら、幽霊の辻で幽霊らしい女に脅かされ、道に迷って「絶対に本堂に向かってはならない」と婆さんに注意されたポックリ寺が目の前に見えてくる。
作られた恐怖がエスカレートしたところでサゲるので、スカッとする。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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