用賀・眞福寺落語会2(中・桂文治「水屋の富」)

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続いて文治師登場。坊主頭の権之助師と角刈りの文治師、シルエットがよく似ている。
この会は古いらしい。住職の跡継ぎが小さな頃から知っているが、もう大きくなった。
その跡継ぎが言う。この後3年の修行がキツいが、それが終わればこっちのもんだ。

8月で55歳になりました。いつもは東京で祝ってもらいますけど今回は宮崎で独演会がありました。
先ほど出た弟子の空治は、人たらしの素質があります。
宮崎へは空治と一緒に行きましたが、関係者のいる前で「宮崎と言ったら『百年の孤独』ですよね」と声に出すんです。プレミアム焼酎ですね。
落語会の主催者が、酒屋になかった百年の孤独をわざわざ持ってきてくださいました。なんでもヤクザを騙して持ってきたそうで、そういえばあの人最近姿を見ないんですけど無事を祈ります。
空治のおかげで、初めて百年の孤独を味わいました。
私は一度も結婚していなくて、55年の孤独です。

噺家の商売からいろんなご商売へ。
本編は水屋の富。また珍しい噺。
珍しい噺でも、どんな噺なのかというイメージは持っている。大金を隠し持つということの不安を描いた作品。
サゲは、昔ながらの分類では「逆さ落ち」となるだろう。価値観を裏返す見事なサゲ。

ストーリーは同じだが、この心理状況を徹底して掘り下げる文治師。
ちょっと驚いた。文治師がこのような、文学的領域にまで進むとは思っていなかった。
師に限らず、そういう領域に踏み込まずに大部分の古典落語は成り立っているのではないのか。文学的な落語があるとすると、だいたい新作である。
主人公が気の毒でも、そこは滑稽噺なんだし。
もっとも文学的と感じたのは客の私のほう。文治師のほうからすると、他のネタと地続きにあるのだろうけど。

水を売って歩く水屋はとにかく過酷な商売。リタイアを常に考えている熊さん。
ところがある日一番富が当たる。しめた、これで水屋が辞められる。
とはいえ水屋は江戸のライフラインを守る仕事であり、代わりを見つけないと辞められない。大金の隠し場所を心配しつつ、毎日仕事に出ねばならない。
この心理を文治師、徹底的に掘り下げる。

札の番号を見比べ、千両当たっているのに「惜しい惜しい」と繰り返すくだりは「宿屋の富」に似ている。
腰が抜けて立てないので、大勢寄ってたかって寺務所に運んでもらうのは「御慶」に。

大金800両を床下に隠し、これが盗まれていないか一日何度も確認せずにはいられない熊さん。
確認の仕方が面白い。竿を突っ込んで叩くのだが、その際のリズムが3拍子で「はっ・ぴゃく・りょう」。
これが無限に繰り返される。
なにしろ熊さん、今まで気にならなかった大家や稽古どころのお師匠さんにまで、疑いの目を向ける。
仕事に出る際にこの人たちに会うと、戻って床下を確認せざるを得ない。
仕事に遅れるので、水を待っている人たちにペコペコ。

そして毎日悪夢を見る。強盗に押し入られたり、大家が巨額の損失を出して追い出させる長屋の住人から、この長屋を買ってくれと頼まれたり。
悪夢の数々が真に迫っているため、これを観ている客に、熊さんの追い詰められた心理が流れ込んでくる。
地蔵の首が飛んでカプッと頭にかじりつく夢までアドリブで見る。これは先の「幽霊の辻」のくだり。

サゲは時間を掛けてたっぷり。
800両盗まれてしまい、しばしの間悲嘆に暮れる熊さん、ようやく顔を上げてから「これでよく寝られらあ」。
ここはサっとサゲるイメージなのだが、時間を掛けたやり方もわかる気がする。文学的だ。

細部が丁寧なのでいろんなことを考えさせられる。
千両富の当たった熊さん、短慮なので、即金で800両持って帰る。2割手数料を取られるこのくだりは、御慶でもおなじみ。
そもそも千両置いて帰れば、数か月後に全額もらえるし、そもそも金のしまい場所の心配しなくてよかったのに。
持って帰るにしても、大家に相談するとかすれば。
商売を継いでくれる人を安心してゆっくり探し、大金は両替所に預けておけば悠々自適だ。
もしかするとこの噺、もともと富くじ主催側のPRでできた噺なんではないかと思った。
短慮な人間が金を持つ大変さも物語っている、深い噺だったのだ。
カネの心配しすぎて、それを不審に感じた泥棒に持っていかれてしまう展開も、どことなく教訓ぽいではないか。

続きます。

 
 

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作成者: でっち定吉

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