ざま昼席落語会2(上・林家正雀「紙入れ」)

本日土曜日は遠征だ。
1年半振り2度目の、ざま昼席落語会へ。
前回以降も、この会は何度も検討している。長講の聴ける贅沢な会は、遠征の価値あり。
当日千円と格安なのもいい。前売は900円だが、チケット取っておいてくれないから当日で。
座間はなかなか遠方だが、中央林間経由で行けば交通費は意外と安い。
昨年はなかった、中央林間駅のレンタサイクルを使おうかと思ったが、これは案外高くてやめる。
中央林間に着いたのが開場の1時間前。ちょうどいいタイミングなので、天気もいいしここから歩いてしまう。
前回の記憶だけを頼りに。住宅地から工場と倉庫、そして農地、最後は巨大な谷を大きな橋で渡る。
ここはやたらと起伏の激しい土地だ。基本平地なのだが、穴ぼこが開いている。
大和も座間も地方都市の趣で、歩いている人など不審者レベルに少ない。 歩道も整備されていないところが多く、歩きづらい。
徒歩59分の道を50分程度で到着。万歩計だと8,000歩。
疲れて寝ないようにしたいものだ。

今回は五街道雲助、林家正雀の両師匠。
ちなみにスマホでは「誤解道工も輔」って変換された。
雲助師匠、久々だなと思ったら3年振りだ。ずいぶん空いた。

前回来たときと異なり、本来の小ホール。まあまあ埋まっている。

鷺とり 貫いち
紙入れ 正雀
夢金 雲助
(仲入り)
身投げ屋 雲助
万両婿 正雀

前座は一之輔師の四番弟子、春風亭貫いちさん。
正雀師のほうの一門から連れてきたわけだ。

貫いちさんは二度目。
前回も思ったが、この人は上手い。
一之輔門下で一番上手い。あくまでも前座時代での比較ですが。
朴訥に喋る時代をとうに抜けて、すでにプロっぽい高座である。
常に7割の力で務める一席は、とても聴きやすい。

八っつぁんが隠居を訪ねてくる。
前座にはやや珍しめの、鷺とりだった。寄席ではやらないと思う。
「お前さん今なにをしてるんだ」から始まる珍問答が、実にナチュラル。
いや、本来噛み合わない会話なんだからナチュラルのわけないのに。

雀とりもカッパ釣りもない鷺とり。これはこれで珍しい気がする。
10分しか時間を使っていなかった。落語会なんだから20分ぐらい務めてもよさそうだが。
外観はコンパクトだが、中身はしっかり詰まっている。

鷺とりという噺、実に面白いのだが、納得がいかない箇所がある。
鷺を捕まえるシーンから、世界観がちょっと変わるのがやや変。
雀とりのシーンでは、雀が喋るシーンは八っつぁんの妄想である。
だが、鷺のシーンで実際に鷺が会話をし出す。ここで世界観が変わってしまうのだ。
だが、雀がないぶん、貫いちさんの噺はスムーズ。
遠くから呼ばれていると思って油断するまでの鷺の思考は妄想なのだが、そこから自然につながった。
それで雀をやらない? ならすごいプロデュース力だが。

空飛ぶあたりでちょっとウトウトした。
サゲは、「ウソのような、ウソ丸出しの噺です」。
これ、やはり一門の圓太郎師が「黄金餅」で、「ウソに決まってる噺です」とサゲていたのを思い出した。

続いては正雀師。
これで、トリも正雀師だということが確定。
正雀師、今日は雲助師匠とのふたり会です、楽しんでいってくださいと挨拶して、すぐ噺付随のマクラに入る。
間男の噺。
さむらいが間男された場合、表からは出ていかない。裏から出ていってかみさんと間男を捕まえ、重ねて4つ、8つにする。
それから豆腐家のかみさんの間男。相手はたてはん。
こうなると本編は紙入れかなと。
知らぬは亭主ばかりなり。豆腐屋に、かみさんが間男しているのを伝えにいくのは与太郎。
よく聴くのだと、与太郎がバカで、誰かに間男の話を言いたくて仕方ない。それで相手を確かめずに伝える。
今日聴いたものは、与太郎、豆腐屋本人に伝えることは認識していた。ただやっぱりバカで、「よそに言わないでよ」。

さて、色っぽい噺の好きな私だが、紙入れだけはあまり好きじゃない。
最近流行ってるのも、若手がやりたがるのもよくわからない。
間男というテーマには別に不快感はない。先代文治が弟子たちに「あんな客の気分を悪くする噺はないんだから」とやるのを禁じたような理由で嫌いなわけではない。
ただ、なんだか妙にねばねばした噺だなという印象だ。

だが、正雀師の紙入れ、実によかった。
20分とコンパクトな一席。
正雀師の乾いた口調が実にこの噺に合うことを発見。
間男の新吉も、怖いかみさんも、おめでたい亭主もみな乾いている。

そして「見ましたか」「読みましたか」がウケるんだ。
噺家さんはここでウケたがるけど、客は笑わないというのをよく経験する気がする。
正雀師の語りだと、真に楽しいのである。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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