ざま昼席落語会2(中・五街道雲助「夢金」)

今日はお詫びから。
前座さんの名は「貫一」ではなく「貫いち」でした。
前回末広亭で聴いて以来、1年半にわたって当ブログで、名前間違えたままでした。
当ブログ内で、「前座」検索を掛けていく人がいる。前座マニアなのか。
その人たちなら気づいてたかもしれませんけど。
いずれにしても名前を間違えるのは失礼極まりない。
有望な前座貫いちさん、ごめんなさい。過去分含めて修正しました。

正雀師の紙入れにちょっと戻る。
師の固い語り口が実に合う噺である。そして、面白い。
「面白い紙入れ」を聴けて私は感動したのです。
そして、紙入れという噺の隠された構造にも改めて気づいた。
紙入れは、客を共犯にする噺だ。
客は間男の一部始終を知っているから、知らない亭主の前で共犯の心境になるのである。
その点が楽しくもあり、そして嫌な気にもさせるらしい。
共犯にさせられている以上、そこに湧き出る登場人物の感情は、極力乾いていたほうがいい。
シチュエーションが純化されて、楽しさのほうに行きたくなるのである。
なるほど、正雀師の語り口のよさがよくわかる。

ちなみにだが、「客から見て、間男が実に羨ましい紙入れ」も作れるかもな。
あまりにもいい思いをしたので、江戸にいられなくなるかもしれないが、まあいいやという噺、若手のみなさん、どうですチャレンジしてみては。
ちゃんと「倫理」の蓋で覆っておけば、現代社会でも非難はされるまい。

そういえば、この会の客は基本いいのだが、一席目で携帯鳴っていた。

さて今度は五街道雲助師。
正雀師が軽くやったので、次は大ネタが出るところ。
雲助師、この会は246回目だそうです。始まったのが平成8年だそうで、もう26年の歴史があります。
まだまだ続いて欲しいものですが、私のほうが体が持つかなと。
そんな師匠、若々しいが74歳。

早々と本編へ。独演会だと私生活のマクラを振る師匠だが、二人会でもそれはやらないんだなと思う。
強欲について。
「欲深き人の心と降る雪は積もるにつれて道を忘るる」とくれば、夢金。
そんな季節だなあ。
夏は船徳(小遊三師で聴いた)、冬は夢金。1年で裏表聴けて嬉しい。
もっとも夢金、現場ではもう5年前に初音家左橋師のものを聴いただけだ。大ネタだからそんなもの。
古今亭の夢金、テレビではつい最近、BS松竹東急でやっていた菊之丞師のものを聴いたばかり。

久々に雲助師をお見かけして改めて思うのは、なんとまあ、正面の切れる人だなあと。
登場人物のセリフに入る前に、客席の正面を向いてずっと語っている。意外とこんな人はいない。
そして目が合う(実際には合ってるように見えるだけだと思う)客に、余計な圧が来たりはしない。
この時間帯に、客は雲助マジックに掛けられているのである。

夢金の世界は独特だ。
寝言で「100両欲しーイ」と叫ぶ欲深船頭の熊さん。「そんなヤツいねえよ」から物語が始まっている。
だからこの世界ではなにをしても自由。
娘をかどわかし、懐の大金を奪ってやろうとする侍が、容易に現実に飛び込んでくる。
そして架空の世界の中に、リアリティが次々湧いてくる。実に落語らしい噺。

寝言の熊さん、「200両欲しい」とせり上げた後、「50両でもいい」とマケている。
ここ、「150両でもいい」が普通の認識でいたが、なるほど、マケるなら100両より下げたほうが理にかなっている。
意外と理屈ができている。

雲助師の落語の主人公は、だいたい世の中を軽くナメている。
軽くなので、世間から拒絶されるほどではないのがポイント。そして、本当にふざけていたら侍にたちまち斬られるだろうし、客も不快にする。だがそこまではいかない。
この絶妙なバランス。

それにしても、雲助師が寝床の熊さんを語ると、あたりに静寂が訪れる。
雲助師の描く熊さんひとりが、沈黙の世界で語っている。
まさに雪の情景。
これ、どういう技術なんだろう。
もちろん、客が勝手に錯覚しているのだが、その錯覚をいかに喚起させるかが技術のたまものだ。
演者が雪の中を意識して語っていると、伝わるのかもしれない。

屋根船なんて乗ったことはないが、そんな客に対しても説明が細かい(といって、最小限だ)ので、どこからどう乗って今どこにいるか、実によくわかる。
舳先で船を操る熊さんが、侍に呼ばれて船を止め、屋根の下に入ってくる。ここで羽織を脱いで、雪を払う。
いかにも寒そう。火がありがたい。

芝居だなあと。
落語はひとり芝居でもあるから、当然芝居の要素はたっぷり入っている。
その中でも雲助師の高座は、最も芝居寄りである。はっきり芝居の仕草を見せるやり方。

命を懸けた緊迫シーンから一気に話は大団円へ。
娘を助けてもらった二百両、はしたなくも、包みを解いて握り締め「ありがてえ」と熊さん。
これ、ネタバレっぽくて書くのをやや躊躇するのだが、古典落語なんでいいでしょう。
カネを握りしめたまま、しゅるしゅるしゅると冒頭の、夢見る熊さんに戻っていく。
夢金のキンは出ない。今はもう、キンを掴んでいたてえのはないかな。

いやはや、しびれました。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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