神田連雀亭ワンコイン寄席44(中・入船亭遊京「時そば」)

昨日は忘れていた萬丸さんのマクラを急に思い出した。
テレビを持たない萬丸さん宅にやってきた、NHK受信料の集金について。

2番手は入船亭遊京さん。
結果的に半年振りなのだが、スケジュールは常に追いかけている。いつも聴いていたい人。
受賞歴はないが、本格派のこの人はもっともっと評価されなくてはならない。
本格派だが固くはない。遊び心豊富な面白い高座である。でも決して面白古典落語路線ではないという。
ツーシームとスライダー主体の右の本格派と思えばいいか。スプリットやカットボールは投げない。
ツーシーム寄りの高座と、スライダー寄りの高座がある。今日の時そばはその中間、マッスラ。
さりげなく打者の軌道を外してみせる。

学校寄席のマクラ。
学校寄席の話は、噺家の共通財産であり、多くの人から同じ話を聴くものだ。
そして大多数は「学校寄席のご難」について語る。教師がわけわからない指示を子供たちに出すという。
だが、遊京さんは同じスタイルをひとひねりしている。
冷静に考えればご難なのだが、孫正義と橋本カンナが出たこの福岡の学校にはまた行きたいんだって。
自分のメモとして書いておくと、「子ほめのサゲ」である。

高座では言わないけど、学校寄席行ったら当然、先生から学歴の話は出るんでしょうね。
ちなみに落語界、京大出は西に2人、東に2人。

マクラのどこかで、接続詞の「が」が明確な鼻濁音だったので驚いた。
松山出身、西日本で育った人なのに立派だ。鼻濁音が使えたら即立派なんてことじゃないですよ。
私は東京出身だが使えない。それでも、噺家さんの鼻濁音にはだいぶ気付くようにはなってきた。

そばうーいと時そばへ。
落語協会では、季節ものの扱い。そろそろ時そばシーズンである。
ちなみに芸協では、寒さの描写をとっぱらって年中出している。
落語協会でも芸術協会でも、東京ではわりと格の高い噺だ。

時そばもずいぶんバリエーションがあるが、遊京さんのはこんなもの。

  • 一見、スタンダード(クスグリ少なめ)
  • 最初のそば屋を、笑いなく堂々乗り切る
  • 二番目のそば屋が、無愛想ではなく、別種のタチの悪さ
  • 二番目のそばの汁は、つけ汁
  • 「二番目のそば屋が儲かって仕方ない」という謎を解決している
  • サゲを改変(追加)しているが、さりげなく出す

時そばという演目、若手にとっては実に危険な演目の気がする。
前座のころはそうそうできない。二ツ目になったらあそこを変えたい、ここを変えたいと意欲満々なのではないか。
劇的に改変して楽しくなりそうな要素に溢れた噺である。触るな危険。

だが遊京さんのアプローチは違う。
本寸法っぽい。
だが実は、文蔵、一之輔といった爆笑時そばから、クスグリを抜きに抜きまくって作り上げたのではないか、そんな気がしてならない。
どういうことか。爆笑時そばをベースにおき、まずここを抜く、まだ面白い。まだまだ抜く。まだ面白い。そうやって作っていったのでは。
その結果、ふざけた空気だけが終始漂う、実に楽しい世界ができあがる。クスグリが邪魔をすることがない。
引き算だが、引きっぱなしではなく、独自のクスグリを加える。やはりさりげなく。
「風邪引いちゃった」というウソを伏線として活用するとか。

そして時そば、面白落語にすればするほどしっくりこない点がある。
びっくりするほどまずい二番目のそば屋は、なぜ景気がいいのか。そして、いったいどうやったらそこまでまずいそばが作れるのか。
たとえば萬橘師は、「本業が儲かっていて、趣味でやってる」ことにしていた。これも爆笑だったが、整合性はない。
だが遊京さん、昔から楽屋で正解の出ない話題について、完全な正解を与えてしまうのだ。
さすがだな。インテリ時そば。
高学歴の噺家も多いが、せっかくの高い知性は、すべからくこうした方面に向けて欲しいものだ。

インテリの作り上げたそば汁は、なんとつけ汁だった。こんな濃い汁ではかけそばはたぐれない。
儲かる秘訣のほうも、書かないけど見事な解決策。

サゲを改変し、追加していた。結構な改変で、「どうだ!」と威張って出しそうな内容だが、実にさりげない。
先人もやってましたよ風。絶対やってないけど。
ちょっと書きづらいので、ヒントだけ。失敗して多く払い過ぎたので、返してくれるというのがテーマ。

今日は内容、伏せてばかりですみません。
高座の模様をやたら書いてる私だが、露骨な営業妨害をよしとしてるわけじゃないので。

一花さん目当てのおじさんたちを、見事に満足させた絶品時そばでありました。
たぶん、同業者が一目置くに違いない、そんなタイプ。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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