続いて正蔵師。近年は充実一途である。
市馬師が勇退したあとの落語協会で、会長職が十分務まるであろう。
個人的にはたい平推しだが、別に正蔵師でもいい気がしてきた。落語は正蔵師のほうが上手いと思う。
正蔵会長即位の際は、喬太郎師が副会長と見る。ただし柳家支配が続きすぎた以上、会長が回ってくるかどうかはなんとも。
喬太郎師のマクラを受けて、オーラがなくてすみません(どーもスイマセンの所作付き)。
喬太郎さんとは気が合うんです。東京出身の人ならではの共通の感覚があるんです。
そしてガラケー仲間でもあるんですが、私のガラケーついに壊れました。
落語協会のそば、上野広小路のドコモに行ってみました。
娘にはiPhoneがいいよと言われましたが、ドコモに行くとらくらくスマホを勧められました。
なにしろショップ店員に、使っていたガラケーの古さに驚かれまして。
まあ確かに私も還暦のお爺さんですし、いいかなとそれにしました。
スマホでは、Googleがいろんな情報を出してくれます。
私は弟が笑点を降板したのを初めて知りました。本人からはなにも聞いてないので。
Googleが落語の変な情報を出してくれたというのだが、肝心のオチが思い出せない。
あるとき、東京の土産っていったいなんだろうとスマホで調べる師匠。
1位は東京ばな奈。美味しいらしいけど、これが東京土産の代表かと。
なおこれは内緒だが、志ん朝師匠は東京ばな奈大好きだったんですとのこと。
2位がねんりん家のバームクーヘン。確かに昔の、口中の水分を全部吸い取られるものと異なる軽いバームクーヘンは美味しいけど、でも元がドイツのもんだし。
そして3位が木久蔵ラーメン(客爆笑)。
あのラーメンは私もたまにいただきます。決してまずいものじゃありません。ただ別に旨くもないという。
ここから江戸名物へ。
武士鰹大名小路広小路茶店紫火消し錦絵火事に喧嘩に中っ腹伊勢屋稲荷に犬の糞とくれば、続いて京名物、奈良名物と来て鹿政談。
広小路を「生鰯」でやるのもあるのだが、私でっち定吉は「広小路」が好きです。
鹿の餌料の大金の話を詳しく振ってから。
結構な一席だった。そして、実に丁寧。
正直者の豆腐屋が、いかにして「きらず」をムシャムシャやっている鹿を打ち殺す羽目になったか、入念に描写する。
お奉行の前で芝居っ気たっぷりに再現。
こういうストーリーを語りこむ噺は正蔵師は実に上手い。決してダレないから。
鹿の守役塚原出雲は、最初から怖い顔で登場。こんなベタな演出もまた、効果的だ。
人情噺にも振れ過ぎず、滑稽噺としてもかろうじて成り立つ。
つまり、いい感じなんである。
ところで最近、鼻濁音の強い若手をよく見かけるようになった。
後天的に身に着けたのだろうから、それは偉いこと。
だが、江戸っ子の正蔵師、決してそんなに鼻濁音は強くないななんて思った。
若手はちょっとやりすぎかもしれないな。マスターしたら使いたくなるのはわかるし、客が喜ぶならそれでいいかもしれないけど。
仲入り休憩後は再び正蔵師。
出囃子は「梅は咲いたか」だった。小菊師匠が冒頭で弾いている「吉原へご案内」である。
浅草の最前列にいたカップルが、同じペットボトルを飲み回していた。微笑ましいが、高座から気になって仕方ない。
正蔵師、おかみさんに仕掛けてみて、叱られる。短命のやり取りみたいだった。
江戸時代の商家の仲良し夫婦。かみさんがふとしたことで病床につき、後のことを心配しながら死んでいく。
あれ、三年目?
ではない。化けて出る相談なんてしない。なんの噺?
だが、後添えの名を聴いてわかった。後妻は女中あがりの「おすわ」。
つまり、おすわどんだ。
歌丸師がよく掛けていた噺だが、正蔵師はどこから教わったのか。歌丸師からもらうイメージはない。
故・喜多八かな。
おすわが後添えになってから、日夜店の外で「おすわどーん」とおすわを呼ぶ声が聞こえる。
亭主は気になるし、当のおすわは前妻が迎えに来たと寝込んでしまう。おすわは前妻にも気に入られていた女中なのに、どうしてそんなことになるのか。
長屋に住む肝っ玉の太い浪人のおかげで、無事声の正体はわかる。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
なあんだという噺なのだが、この噺をしっかり語りこむ正蔵師。
やはり、怪談噺のほうにも振れず、人情にも振れすぎず。
いい感じなのである。
落語にはいろいろな噺があるけども、なかなかいい感じに語れる人は多くない。
「こぶ平ヘタクソ」といまだに言う人は、この「ちょうどいい感じ」が理解できないのだと思う。
でも、人間の感情、わかりやすいのが上等ということはないと思うのだ。
はっきりしないところに宝の山がある。