トリは立川笑二さん。この日の目当てである。
今年は夏に、独演会にも参加することができた。
兄弟子の吉笑さんがNHK受賞でブレイクしたが、笑二さんも負けていない才人。
決してマニア向け、人を選ぶ芸風というわけではないと思うのだが、結果的にマニアっぽい人がファンにつくみたい。
もっとも、この日の「あたま山」を聴く限りは、マニアウケするのも感覚的によくわかる。
もっと一般ウケすればたちどころにブレイクしそうなんだけど。
地元沖縄に仕事で帰った際、ローソンに寄ると笑二さんを「マッキー」と呼ぶ声がする。
顔がなんとなく槇原敬之に似ていることでそう呼ぶのは、笑二さんがソフトボール部の1年生だったときの3年だけ。とても悪い先輩たち。
ちなみに当時の2年生たちは、笑二さんの年子の兄の名で笑二さんを呼ぶ。
しまったと思った笑二さん、無視することに決めた。
しかし相手はしつこい。マッキーマッキーと、なおも呼び続け、無視し続ける笑二さんを店の出口で待ち構えている。
地味なスリルに満ち、よくできたリアル小噺なのでオチは省略します。
季節違いの噺をやります。桜の時季の噺ですと。
また花見の仇討かと思う。この噺も昨年、季節違いと断られたうえ、6月に聴いたのだった。
その花見の仇討は実によかったが、なにしろ季節が違いすぎる今、聴きたいモードにはなってこない。
しかしなんだか、冒頭部分が違う。
松と竹のふたりが、見事な桜を眺めている。
竹が松に言う。梅の野郎どうしたか知ってるかと。
ふたりの共通の友達梅吉は、岡山に引っ込んでしまった。最初は手紙のやり取りをしていたのだが、梅の野郎、「さくらんぼおいしいよ。最近は種まで食べてるよ」しか送ってこないので、松も呆れて返さなくなった。
竹も同じ手紙をもらっていたが、「さくらんぼの種食ったら、頭から桜の木が生えてくるからやめろ」と返信した。
しかし手遅れで、本当に梅の頭から芽が生えてきた。
ええ、びっくり。
あたま山だ(ボードには「頭山」と書かれていたが、一般的な表記にしました)。
しかも聴いたことのないスタイル。
頭の上の桜の木という素材を換骨奪胎し、自分で全体を作っていることが明らか。
あたま山は幻の噺というところがある。やっと聴けたと思うと、別にそんなに面白いわけでもないという。
もともと地噺だからやたら難しいのを、完全にそこから脱却し、セリフのやり取りで進める笑二ワールド。
9割方新作落語と言っていいのだが、やっぱりあたま山なので、創作力の評価を受ける点で損な気もする。
タイトルを「あたまヶ池」とかに変えれば、古典を題材にした新作扱いになるなあと思う。ただ、あたま山だからびっくりするわけだが。
とにかくすごい創作。来年のNHK新人落語大賞が獲れるスケールだと思った。
私は歴史的な一席に遭遇したかもしれないな。
惜しいことに、「(頭に水が溜まったため)水に潜っているような声を出す」というくだりだけ、兄弟子の「ぷるぷる」と被っているのだが。
アイディアは兄弟子より先だったかもしれないけれど。
こんなところに桜の木があったっけとつぶやく松だが、実はこれこそ梅の頭の上だった。
あたま山は古典落語随一のシュールな噺であるが、そのシュールさはちゃんと残しつつ、もう少しわかりやすくしてある。
設定がユニークなだけの噺でなく、さまざまな仕掛けを施している。
梅のキャラは与太郎っぽい。そして頭の上の桜の木の描写を手を広げて描く。
梅の頼みで桜の木を引き抜く松と竹。散々苦労したが、スポンと抜ける。
引き抜いたら梅の性格もちょっと変わる。抜かれたほうが本体になってたんじゃないかと松。
今度は頭の穴ぼこに水が溜まって池ができる。
自分の頭の池に手を突っ込み、フナを取り出して「食べる?」と訊く梅。
サゲは変えていないが、客としてはこれが真のサゲが信用できず、手を叩けない。
なので、元気よく「おしまい!」。
サゲ変えるよりこっちのほうが面白い。
調べると吉笑さんもあたま山やっているようだが、中身は全然違う。
ぷるぷるもここ連雀亭で二度聴いたのだが、笑二さんも恐らく、あたま山を積極的に掛けていくと思われる。
笑二さんの噺の共通項がひとつわかった。
「暴力」である。
笑二さんは、暴力のもたらす面白さに鋭敏な人である。ただのバイオレンス好きではなくて。
当ブログにもたびたび、暴力が不得手なことを書いている私がなぜそんな噺家に惹かれるのかというと、暴力をソフィスティケートして笑いに変える努力にたまらない面白さを感じているかららしい。
今回のあたま山に関して言えば、「梅の頭の桜を引っこ抜く」ことと、梅が最後身投げしてしまう原因が松にあることである。
木を無理やり引っこ抜くこと自体に、暴力要素を感じるわけだ。
ところで今日はM-1グランプリですね。なにかしら記事ができたら、日付の変わった午前0時に出しますよ。
もともとシュールな世界の「あたま山」は大好きなネタではあるのですが、笑ニさんのはシュールさが重層化してるというか…変な世界に連れていかれました。
もっと売れていい人だと思うのですが笑ニさんの「反魂香」を聴くとやっぱりマニアウケにならざるを得ないというか…。本人がああいうテイストが大好きなんだと思うんですよね。
あのテイストが好きな(または許容できる)マニアックな人に彼を見つけてもらってファンを増やしてほしいと思っています。
いらっしゃいませ。
ぴーたんさんのご意見は、「でっち定吉が想像する笑二ファン像」そのものです。
売れて欲しいし、売れる資格もある。そして、売れる観点から眺めてもやっぱり面白いのに、売りづらい方向に進んでしまうという。
ご本人にマイナス要素は少ないと思うのですけども。愛想が悪いわけでもなく。
ともかく私も、改めて売れるべき人だなと、そう思いました。