三遊亭兼好「桃太郎」

NHKで朝やってる「演芸図鑑」、録りっぱなしにしていたのを整理したら、三遊亭兼好師匠の「桃太郎」があった。つい最近のものですが。
前も書いたが、この番組の9~12分程度の落語、結構貴重だと思っている。放映しているもののレベルを見るに、お蔵入りのVTRも結構あるのではないか。

「桃太郎」、そんなに好きな噺ではない。どっちかというと嫌い。
今まで聴いたものでは、乱暴な橘家文左衛門師(明後日から三代目文蔵だ)のが一番面白かったが、噺自体が大したものだと思えない。
生意気小僧の噺なら、「真田小僧」や「雛鍔」、「佐々木政談」などのほうがずっと好きだ。特に上方で、丁稚がいい噺もたくさんある。
「桃太郎」の金坊は、知恵でなく理屈が発達しているだけなので、大人をやり込める爽快感に欠けるということかな。
そして、現実に照らしてリアリティのある子供ではないので、「あるあるネタ」が共感をよぶということもない。
だから、何の期待もなく聴き始めたのだが、これが絶品でした。
ちょっと感動した。

兼好師、円楽党なので、寄席をメインに聴いている私はTVでしかお目にかかったことがない。偉そうなことはあまり書けない。
それでも、期待のホープを取り上げる企画ものでは必ず選ばれている人なので、録画は結構持っている。
以前から、声のハリがよく、聴きやすくて気持ちのいい人だとは思っていたのだが、最近はさらに高いステージに上がったようである。
チケットの取れない噺家さんになる前に、聴きに行かなきゃと決意しました。

なにがよかったのか。
「桃太郎」には、結構ダレ場がある。親父が、みんな知ってる昔話を二回も説明する部分、ダレないほうが不思議。
金坊の昔話解説もまた、十分にダレ場になる。それがどうした、と。
兼好師、このダレ場をなんなく乗り切るにとどまらず、客を引き付けている。これは凄い。
声がよく、表情が豊かで、リズムがいいから、聴き惚れてしまうのだ。ダレ場を堂々乗り切ってやるぞという、ブレないマインド、強いハートを感じる。
金坊の昔話解説なんて、もっともらしいだけのもので、本当は中身なんてない。
しかし、兼好師の強い喋りには、大変な説得力がある。要は、客が集団催眠に掛けられているのだ。
兼好師が秋葉原で実演販売をやれば、みんな買わされてしまうであろう。
聴いたことはないが、「ガマの油」は持っているに違いない。あの声で「お立会い」とやられたらしびれますな。

金坊に「むかしむかしっていつの時代」と聴かれた親父が、「鎌倉とかのあとの、えーと熱海」というギャグは面白かったが、ギャグはこれくらい。
噺そのもので人を騙くらかすというのは、噺家の本望ではないかしら。

作成者: でっち定吉

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