落語界・団体の統一はないだろう(落語芸術協会の躍進)

明けましておめでとうございます。
2023年もでっち定吉らくご日常&非日常、ご贔屓のほどを。
原則は毎日更新なのですが、無理せずやります。

2022年には三遊亭円楽師が亡くなった。
円楽師が常日頃から語っていたのが、業界団体統一の野望である。
亡くなった際に改めてこのテーマが着目され、笑点しか観ない人にまで知られるようになった。

といって、円楽師の夢に具体的に賛同していた噺家など、まったく知らないのであるが。
博多の落語まつりに様々な団体から集結したところで、これは業界統一に直接繋がる話ではない。

団体統一の柱となるのは、東京の二大団体である落語協会と落語芸術協会ということになる。
しかし、コロナ禍におけるクラウドファンディングなどで、最大限に歩調を合わせていた両協会の会長(柳亭市馬、春風亭昇太)は、一緒になる気のないことを公言している。
東京かわら版の対談と、昇太師のラジオに市馬師が招かれた際もそう語っていた。
一緒になる検討すらしないということだ。
私には、統一の理念ばかり説く円楽師への牽制に思えた。

無責任な世間の中には、「もともとひとつだった協会が分裂したのだから、一緒になるのは自然」だと勘違いしている人もいるであろう。
まあ、講談協会と日本講談協会の場合はそうなのだが、落語は違う。
落語の場合、最初からふたつに収斂されて今に至ると考えたほうがいい。
落語協会から分裂したのは円楽党と立川流であって、芸協は別に関係ない。古く圓生が協会を出ていった際は、とばっちり(寄席の割当が減る)を警戒した芸協は戦々恐々としていたようだ。
とはいえ、この際も別に落語協会と闘ったわけではない。
鈴本から撤退した際も同様。鈴本とは闘ったが、落語協会とは闘っていない。
業界統一の野望について、同調に至る前の段階でとどまりやすい。

ファンの立場からすると、業界団体が統一すると、面白い顔付けの寄席ができるかもしれないと思う。
まあ、私もそんな妄想をよくする。
特に、数年前まで芸協の寄席は確かに層が薄かった。同じメンバーで廻していないで、精鋭を集めればすごいのにと。
たまには芸協の寄席に、と思っていても顔付けを見てやめてしまうことが私も多かった。

今でも落語協会を中心に据える発想は、至るところにある。TBS落語研究会なんてまさにこれ。
古いファンにも、寄席は落語協会しか行かない人も多い。こういうファンからすると、最大の団体である落語協会主導で他を吸収してしまえばいいのになんて。

ところが風向きが変わってきた。
芸術協会は最近、実に元気である。それに連れて、私も芸協に行く回数が増えた。
ちなみにだが、半々にはならない。もともと落語協会と芸術協会の寄席定席の比率が、おおむね2対1だからだ。
仮に半々にしているファンがいたら、相当に芸協寄りである。

芸協の勢いは極めて急速である。元々芸協嫌いだった広瀬和生氏が修正しつつも追いつかないぐらい速い。
まあ、わかりやすいのは成金の力だ。
集団の力が個人の力量を上げていく。

春風亭昇也師が、まだ真打に成り立てなのに早くも芸術祭優秀賞を獲って驚いているが、まあこういうことになるのだ。
ちなみに落語協会のほうで林家はな平師も同じく優秀賞を獲った。これもびっくりだが。

成金メンバーは芸協の寄席でも出突っ張りである。
この人たちが寄席香盤を塗り替えたので、数年前と比較すると劇的に顔付けがよくなった。
成金だけではない。その上の若手真打層にも波及が見られる気がする。
こちらはややゆっくりではあるが。小助六、夢丸、可風といった師匠のあたり。
色物の強化も貢献している。

で、どういうことになったか。
寄席の番組を組む上においては、団体統一の必要などまったくなくなってきたのである。
それどころか、末広亭の立川流交互なんて不要になってしまうかもしれないぐらい。
円楽党交互は当面大丈夫だろう。

芸協が強くなってきたのが本当としても、だとしても数年前の状況を思い起こせば、やっぱり業界統一には意味がある。
そう考える人に反論する気はない。一理はある。
だがいっぽう、ライバル落語協会の存在あってここまで伸びたのではないかという思いもあるのだ。
どんな業界にも競争は必要なわけで。

落語協会のパワハラ事件を見るたびに、芸協ではあり得なさそうだといつも感じる。
落語協会も、芸協の明るさをこれから見習わなくてはならない。

そもそも、落語協会の再分裂すらありそうに思っているのだが。
具体的な根拠を持っているわけではない。ただ、長年の柳家支配に不満を持つ人も多いわけだ。
このあと正蔵会長になったとして、今度は海老名支配かと思われたりして。
そんなときに一門の総帥がパワハラ、というか傷害罪だもの。そして指導部は無力。
分裂の引き金になったっておかしくない。

寄席の重要性が高まりつつあるいっぽうで、小さな小屋も増えてきた。
そうすると、そちらをホームグラウンドにして活動することも可能である。
協会分裂まで行かなくても、今後小さな小屋を舞台にした協会内派閥が増えていきそう。
そして協会内派閥は、積極的に他団体と交流していく。

まあ、それもまた面白いかもなんて期待しております。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

6件のコメント

  1. 新年あけましておめでとうございます

    落語の団体統一、物理的に距離が離れている上方落語協会はさておいて仮に関東の4団体が一つになったらそれまで主要な4つの演芸場に出ることができなかった立川流と円楽一門にも出番が増えるという利点はあったかも知れません。

    ただ、おっしゃる通りその一つになった4団体を統率できる人望やカリスマ性がある人がさすがにいなかったことを考えたら統一は無謀でもあり今のままでもいいのかも知れませんね。ただ、円楽一門の芸術協会合流は少し見てみたかった気もしますが。

    最大手の落語協会にしても大所帯なので全ての落語家さんが主要4場の寄席に出演できるわけでもないですし横浜にぎわい寄席のような場所もあるので我々が思っているほど団体間の垣根は高くないのかも知れないですね。

    また、円楽師匠のお弟子さんの楽㐂さんが落語家を辞めるみたいですね。本来なら真打になるのが恩返しなのかも知れませんが他の一門弟子になってまで落語家を続けられないくらい師匠のことを慕っていたというところに円楽師匠の人望を感じましたね。

    長々と書いてしまいましたがいち読者としてブログを楽しみにしていますので無理のない範囲で更新頑張って下さい。

    1. 明けましておめでとうございます。
      いつもコメントありがとうございます。

      神田連雀亭や、スタジオフォーの巣ごもり寄席などに行くと、団体統一ってどこの世界の標語だろうなんて思います。
      にぎわい座もそうでしょうか。
      現状の枠組みのまま、それを溶かしていくのが一番面白いかなと思っています。
      「統一協会」に反対はしていません。苦労に見合ったメリットが感じられないなと思うだけです。
      そして、現状のメリットもあるなと。

      三遊亭楽㐂さんは明日以降取り上げるかもしれませんが、大きなニュースとは思っていません。
      理由はともかく二ツ目の廃業はあることなので。

  2. 明けましておめでとうございます。
    今年もこちらのブログを読ませていただきたく、よろしくお願い申し上げます。

    >落語協会のパワハラ事件を見るたびに、
    >芸協ではあり得なさそうだといつも感じる。

    同感です。(笑)
    前座の弟子が師匠をいい歳した「ひとり者」などとネタにした『桂文治こわい』を開口一番で話すなんて、芸協ならではと思います。
    パワハラや安易な破門といったことが、あまりにも異世界すぎてネタにできるのが芸協だから、移籍せざるを得なかった人たちに優しいのかもしれません。

    才能がありすぎて、所属する協会内では浮いたり警戒されても、もうひとつの協会所属会員が落語会などで使ってくれたり声をかけやすい、ということもあるでしょうから、僕も協会の統合はないほうがいいと思います。

    1. いらっしゃいませ。
      ご賛同いただけまして幸いです。
      むしろ統合どころか、落語協会が分裂して小さくなったほうが業界がよくなるんじゃないかなんて思うことがありますよ。
      さすがにそんな期待まではしませんけど。

  3. あけましておめでとうございます。
    今年も楽しみに拝見いたします。
    年末にまた元圓歌一門、現芸協の某噺家さんがなにかつぶやかれたようですが・・・そっち系のネタでなく楽しい落語噺を今年もよろしくお願い致します。

    1. 明けましておめでとうございます。

      しん華さん、ツイッター消してるのでよく知りませんが、今の私はトラブルがあったら芸協の味方をせざるを得ませんね~

コメントは受け付けていません。