柳家花緑弟子の会9(下・柳家圭花「鬼の面」)

続いて勧之助師。この師匠は年1回ペースだ。

師匠というものは、この世界で唯一噺家志願者が選べるものなんです。
ただ、兄弟弟子というのは選べません。
選べないんですけど、ご覧のとおり仲のいい一門です。一門によっては、楽屋で兄弟弟子どおし口も利かないなんてところもありますが。
まあ、仲よくていいことばかりでもないとは思うんですけどね。
私の上におさんという人がいます。一応一番弟子ということになってるんですが、全然一番弟子っぽくありません。
惣領らしいことを全然やらないんで。結局私が全部やるんです。
私だって、アニさんを立てないわけじゃないんですよ。だからよくおさんに働きかけてるんですけど、やっといてって返されるもんですから。

たまに入るおさん師のモノマネが最高。

落語協会のパワハラ事件について語る。
芸協では言いたい放題のようだが、協会内で語る人は珍しいのではないかな。
暴力はいけませんが、師匠というものは、多かれ少なかれ無茶なことを言うもんです。
花緑も、スピリチュアル好きなものでたまにわけわからないことを言います。
何年か前にありましたでしょ。マヤ暦というものがあって、これが2千何年かまでしかないので、世界が終わるという噂になったんですよ。
(※ 2012年12月21日に滅亡するという話があった)

花緑はこの方面の本をたくさん読みまして。そして結論づけたんです。
あるとき弟子みんなを呼びました。弟子は正座してかしこまっています。
師匠が言います。「残念だが、この世界は2012年に滅びます。残念ですが来世でまた皆さんに巡り会えたら。質問ありますか」。
誰かがなにか言わなきゃいけなかったので、私が言いました。
「師匠、ぼくもうすぐ真打ですが、これもなくなるんでしょうか」
「そうなるね。残念だけど。でも来世では真打になれるかも」

本編は一度聴いた寝床。
以前聴いた際は、どうにも納得のいかない一席だった。
「噺を改変すること」の妥当性についてまで考えさせられたものである。
だが、今回は実にスムーズに聴けた。構成はほぼ一緒なので不思議だが、演者の肚ができあがったということなのだろう。
面白いものだ。
ただそうすると、改変した内容はともかく通常の寝床に寄ってくるわけだ。奉公人一同が揃って稚内に脱出していたり、女中のお清が防空壕に隠れたりするギャグも、吸収されてしまうのだった。

勧之助師、メクリを「らくごカフェ」に戻して去っていく。
私服姿のままの緑也師が登場し、羽織代わりのカーディガンを脱いで笑いをさそう。
全然名乗らないので、わけのわからない人も数人いたはず。
おそばの食べ分けをやって去っていく。

最後が演歌歌手着物の圭花さん。
羽織を着ると若干マシですねとのこと。

神保町の人気店、いつも行列ができている丸香うどん。ここの話。
圭花さん、後輩に彼女いるのと訊いてみたら、今同棲してますとのこと。
へえいいね、どうやって知り合ったのと訊くと、なんと丸香うどんで。
行列に並んでいたところ、前に好みの女性がいたので、これは話しかけないといけないと思ったのだという。
へえと思った圭花さん。今日丸香うどんの前まで行ってみました。まあ、いい女性はいなかったので帰ってきましたが。
男前の後輩だから、うどん屋の行列でナンパなんかできるんでしょう。私のような演歌坊主が声かけてもダメですね。
春風亭与いちが羨ましいですだって。

圭花さんは珍品専門。
なのに本編に入ってすぐわかったが「鬼の面」。
かつて林家あんこさんから聴いた。
その後上方のラジオでも聴いたのだが、元はあんこさんの師匠、しん平師の作ったものらしい。
あんこさんの噺を聴いて新作と思い、ラジオを聴いて古典なんだと思ったのだが、結論としては新作なのだった。
擬古典落語ということになるか。
擬古典落語の多くと違い、この噺はとても古典っぽい。サゲに少々こしらえた感があるが、でも既存の古典にもそんなのはある。

子守奉公の女の子が、お面屋に来てはいつも長い時間お多福のお面を眺めている。
店主が不思議に思って訊くと、おっかさんによく似ているのだという。
ほだされてお面をくれてやる店主。
お店でもって、喜んでいつも眺めている。原典は松山鏡だろうか。
主人がこれを見ていたずら心を起こし、鬼の面と取り替えておく。驚かれたらすぐお多福の面を被って登場してやろうとしたのだが、店が忙しくすっかり忘れてしまう。

あんこさんから聴いたものでは、番頭が悪意で鬼の面と取り替えるのだった。
どうやら圭花さんが画期的な改良を施したらしい。
つまり、噺から悪役を一掃したのだ。悪役がいたほうが作りやすいと思うが、変えたい気持ちはわかるなあ。
圭花さんは人がいいのだろう。それもまた、この一門らしい。

楽しい会でした。
最後に、今回で下りるお旦の代表が客席後方から現れる。
「寝床」を紐解き、みなさんに主人の義太夫のごとく聴いてもらいますと詩吟を唸っていった。
花緑一門の噺家が、寝床詩吟に付き合うのはわかるけど、もう帰りたい客が付き合わなきゃいけないのはわからなかったぞ。
これまでずっとワンコインで聴かせてもらったのは、お旦のおかげには違いないけど。

来年から千円の会になる。
二人会で2席ずつになるから、誰のときに来るかは吟味させていただきます。
4人いる真打はいいけど、この一門、もう少し圭花さんはじめ二ツ目にも頑張ってもらいたいなと思う。

よいお年を。

 

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作成者: でっち定吉

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