「んでなし廻し」で2022年の落語界を振り返る

「みんなようさん集まったなあ。こんだけ集まんのも久方ぶりやな」

「そうでんな兄貴。コロナが落ち着いてよかったですわ。ところで今日はどないな趣向です」

「こんだけいてるさかい、ひとつ落語の『ん廻し』をやってみようやないか」

「はあはあ、『ん廻し』言いますと、『ん』のついた言葉を言う遊びですな。みかんきんかんわしゃ好かん、てなもんだ。上方落語では『田楽喰い』言いますな」

「せや。運が付くちゅうて縁起ええねやけど、現代人には簡単すぎる遊びやさかいにな。ちょっと捻ってみよやないか」

「はあ、捻る言いますと」

「逆に『ん』が付いたらあかん、『んでなし廻し』をしよと思うねや」

「はあはあ、しりとりとおんなじですか」

「しりとりはケツだけ『ん』を付けなんだらええけど、『んでなし廻し』はひとつも『ん』を付けたらアカンねや」

「なるほど。つまり『天満天神繁昌亭』は『ん』がようけ付いとるさかいアカンちゅうことですな。『喜楽館』もせやけど『動楽亭』ならええと。それから『落語芸術協会』はええけど『五代目圓楽一門会』はアカンと」

「飲み込み早いやないか。さらにもう一個縛りを設けよ。落語界の2022年を『んでなし廻し』で語るちゅうのはどないだ。こらなかなかムツカシイで」

「なかなか楽しおまんな。ところで田楽喰いやったら木の芽田楽もらえますけども、この遊びではなにがもらえます」

「551蓬莱の焼売と餃子や」

「551やったら普通、豚まんと違いますか」

「豚まんやと『ん』が付いとる。まあ、焼売も意外と旨いで。それからお菓子もあるで。おにぎりせんべいとカールうす味や」

「ああ、カールも最近はすっかり関西の土産になってしまいましたな。ん、せんべいのほうは『ん』が付いてまっけど」

「細かいな。ほたらおまはんからひとつ手本をやってみせてくれるか」

「それでは私が先達で。『世之介の廃業した弟子、乃ゝ香が佑輔になって落語協会二ツ目に復帰しました』」

「おう、初っ端から見事やないか。『金原亭』『古今亭』『志ん輔』のトラップを全部交わしよった。焼売とカール呼ばれや。次行こか」

「大師匠の国宝をしくじり、芸術協会で柳橋の弟子として再出発の元・柳家小かじ、かけ橋として二ツ目昇進。あ」

「惜しい、最後の『昇進』が余計やった。『昇格』ならよかったんや。そやけどしまいまで上手かったで。春風亭を避けて、それから『小三治』を人間国宝と言い換えてもまだ付いとるさかいに国宝にするところは見事や。次」

「名噺家次々と逝去。マクラの王様、先のゴールドホース、出っ歯、まるまど、そして腹黒」

「上手い! 全員名前に『ん』が付いとるもんな。ゴールデンホースとかゴールドオールドマンやったらアウトやったな。マクラの王様人間国宝は亡くなったの2021年やけどな。次いこか」

「戸越の有名落語家桂宮治、海老名泰助に代わって日テレ長寿テレビの回答席に座る。おざぶも10枚獲得」

「ああ、これは苦しみよった。座布団すらNGやさかい。三平は本名海老名泰助っちゅうのか、知らんかったわ。焼売持っていきいな」

「好一郎と一太郎も昇格。声優の一太郎、高座に上がらないままペーパー昇格。手拭い作らず」

「おう、最前の失敗を踏まえて昇格にしたか。上手いで。真打っちゅうのが使えないとなんのこっちゃわかれへんけどしゃあないな、次は」

「落語協会と芸術協会で昇格続々。一蔵、市弥、小辰、昇也に柳雀」

「おお、奇跡的に全員『ん』が入っとらん。亭号のほうは春風亭が3人いてるけどな。ただ、市弥と小辰は襲名してばっちり『ん』が付いとるけど。次」

「好楽弟子の元・末高斗夢、小朝が付けてくれた名前で抜擢昇格決定おったまげた」

「上手いうまい。ピン芸人時代の名前を引っ張り出して三遊亭を避けると。小朝が付けてくれた『錦笑亭満堂』はふたつも『ん』が付いとるさかいにな。次」

「末広亭寄付で命脈を保つ。大都会の一等地での寄席継続は難しいのか」

「ああ、クラウドファンディングが使えなんだか。新宿も付けられへんしな。ホンマに命脈保ったかどうかはわかれへんけど。次」

「時事ネタちゃいまっけどええですか。東京の寄席の案内ですねんけど」

「おお、おもろそうや。やっとくれ」

「東京の寄席は、上野、浅草、池袋、オカマの街にそれぞれあります。名称は上野広小路亭、東洋館、芸術劇場、道楽亭」

「オモロイやないかい。鈴本と見せかけて広小路亭か」

「ものいい。あんた、とうようかん、って『ん』付いてまっせ」

「しくじりよったな。次」

「プロ野球が終わったのにTBSラジオ寄席が始まらないまま終了。過去のライブラリーもお蔵入りか」

「残念やな、らんまんラジオ寄席。わしもradikoプレミアムで東京落語聴いとったさかい。焼売持ってけ。次」

「楽屋のいじめで芸術協会追放の立川幸弥、フリーで修業。梶原いろは亭で活躍中」

「うん。前座のワードが使えないのに頑張った。それにしてもこの人やけど、ずっとこのままの立場なんかいな。次は明るいニュースも欲しいところやな」

「立川吉笑NHK落語大賞ぷるぷるで優勝。松ヤニをなめて唇のくっついた男を描く落語」

「うーん、賞の名前から『新人』を抜いただけか、もうちょいがんばりいな。師匠は『ん』が付くから入れられへんけど、せめて『京都出身、真の名はひとらまさき。京都教育大学中退』ぐらいまで付けて欲しいところやな。おにぎりせんべいやるわ」

「はい、では落語界を激震させた事件がまだ出ておりませんので私が」

「あー、げきしん、じけん、でてませんって3つも」

「まだネタに入っとらんからええのんじゃ。始めます。『天つ歌、パワハラ師匠元歌之介を提訴して、おまけに刑事告訴でございます。クビなど怖くない、会長だって理事だって、上の噺家だって怖くない。廃業せず落語協会にとどまって中から古い体質をオレが変えてやるぜ。元兄弟子も喜ぶ、ありがとうって。元弟弟子も喜ぶ、しあわせって。残った弟弟子だけ涙の歌実』」

「また凝りに凝ったなあ。ほんまに今作ったんか。実は豚まんもちょっとだけあるさかい持ってけ。次あるか」

「次やる前に、兄貴。素朴な疑問ですねんけどなんで今回、上方落語なんでっしゃろ。東京にも『ん廻し』おますがな」

「なんでやろな。そのほうが作りええんとちゃうか。知らんけど。ケッタイな言葉使いがあったら堪忍やでえ」

「では。『でっち定吉、ツイッターで早稲田の学生落語家に誹謗中傷され、ブロックされる』」

「それは時事ネタかいな? 解説ないとわかりにくいわ。説明頼むわ」

「この『宴児家喧坊』という野郎の削除されたツイートが、『でっち定吉、マジで社会に必要ない』だったという話ですわ。ほんで自分で誹謗中傷しときながらブロックするという。こんな野郎でも関東落研連合の総長らしいんで」

「なあにい、やっちまったな。こんなやつが早稲田オチケンで白酒、甚語楼の後輩やっちゅうんかい。とにかくプロの噺家になるのだけは阻止せにゃならん」

「まあ、『宴児家喧坊』で検索すればはよから上位に定吉ブログも出ておます。これが抑止力になるんちゃいますか。デジタルタトゥーちゅうやつですわ」

「いささか私怨丸出し気味やったな」

「私怨がもうひとつありますねん。行かせてもらいます。『落語ツイッター界のエースごくらくらくご、でっち定吉ブログを落語界の作法に従っていないと指摘。落語の作法かくあるべしと言うも明確な理由は示さないまま。いや、示せるはずもない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか』」

「確かに、高座の様子を詳しく書いたらアカンちゅうルールを人さまに強制するなら、その根拠ぐらいいるやろ普通。高座の記憶力に絶大な自信のある定吉はさぞ腹を立てたやろな。とはいうものの、昨日出した枝太郎の高座はなんにも覚えとらんかったようやが」

「今日の『んでなし廻し』は、予告してた『落語界の困った人たち2022』を兼ねてたようですな」

「そやな。これで厄落としがでけた。来年もでっち定吉落語日常&非日常をよろしく頼んます」

「今たのんますって、『ん』が」

「もうええねん。最後は運付けておしまいや」

(2023/9/25追記)
いきなり「喜楽館」で「ん」を踏んでいましたので若干修正です。
それからご指摘いただいた「戸越銀座」を「戸越」に変えました。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

2件のコメント

  1. いつも楽しく読んでいます。
    落語会の一年を関西弁で「ん」無しで振り返り…見事でした。
    振り返ってみるとあっという間の一年のように感じます。
    来年も高座の空気を感じるブログを楽しみにしています。
    最後に、「戸越銀座」に「ん」を発見

コメントは受け付けていません。