浅草演芸ホール4 その6(柳家蝠丸「死ぬなら今」)

この夜席、振り返ると末広亭で出るような当たり前の古典落語がなかった。
面白いことである。
三笑亭可龍師もかなり珍しい「古着買い」。
一応知ってはいるが、聴いたことはないはず。
あまり掛からない理由はすぐわかる。啖呵が大工調べとかなり被ってるから。
それでも、こんなポジションでも掛けられる簡易大工調べという価値がありそうに思う。可龍師もそれで掛けてるのでは。
ちなみに、前半は「壺算」「人形買い」と似ている。人形買いと違い、季節は問わない。
ただし出てくるのは甚兵衛さんではなく、与太郎。ますます大工調べに近い。
非常識な与太郎だから、古着屋も怒るのだ。
珍品を粋に語って去っていく。

次の出番(ヒザ前)前に、入ってくるお客が数人。
前座さんがメクリの前で待機している。入ったばかりの前座さんでなく、この席の立前座を務めているであろう桂壱福さんだ。
芸協らしく、天然ぽいちょっと面白い人。すゑひろがりずの三島(ボケのほう)に顔が似ている。
しばらく待機していて、お客が落ち着いたのを見計らってサッとメクリを返す。その「サッ」がなんだかおかしい。

柳家蝠丸師登場。
ヒザ前だが、個人的にはこの日の目当てです。
中席の池袋昼が、毎年恒例のこの師匠の席だったが、結局行かなかったのでここで聴けて嬉しい限り。
ただ先月小金井で「浜野矩随」を聴いた。
蝠丸師、超ベテランなのに最近急速に売れてきた。日本の話芸に続き、落語研究会にも登場。
予想外ではない。世間がようやく気づいたのだし、師のほうも実はさらにウデを上げている。
秘訣は客との一体感。客と絶妙の距離を保つようになり、その結果客のほうが主体的に師のつくる楽しい世界を訪れるようになったのだ。
これは難易度が高い。鯉昇師もこのワザの使い手。
私の蝠丸師の記事が先日Googleポータルに掲載されていたのも、人気の現れでは。
ヒザ前はトリを立てるポジションだから、目当てにしていくと、意外と物足りなさを覚えることもある。だが、私はむしろそんなのが聴きたい。

蝠丸師、はとバスのお客様も来られたようでと。落語初めての方も多いんじゃないかと思いますが。
夜席の安い券での入場かと思ったら、はとバスか。
はとバス参加者、実は東京の人が多いという話も聞くが、いずれにしても寄席には不慣れなはずだ。

先日のお茶の間寄席でも、トリの柳家花緑師が、はとバスの客が来たことに触れたうえで、わかりやすい中村仲蔵を掛けていた。
実はこの浅草の連載を始める前、花緑師について1日書こうかと思い繰り返し録画を聴いていた。
初心者で、歌舞伎の知識もゼロの客の前で、入念に解説を入れつつの仲蔵にはいたく感心したが、でもよく考えたら無理に仲蔵出すこともなかったんじゃないかと。
天狗裁きあたりでよかったんじゃないか。
仲蔵やるんだったら、正々堂々と、初心者など意識せず圧倒させたらよかったんじゃないか。
で、取り上げるのはやめたのだが、そのことがよぎる。

落語というものにはオチがいろいろありますが、先にオチを喋る珍しい落語があるんです。
と、「死ぬなら今」に入る。死ぬなら今のフレーズを繰り返してから。
よく考えたら、私も現場で出くわすのは初めての噺。さすが蝠丸師で、当たり前の噺はしない。

ケチの人のエピソードとして、9代目文治を取り上げ、さらに師匠である10代目文治のケチエピソード。
そしてあかにし屋ケチ兵衛の死に際の場面。
地獄の沙汰も金次第。棺に300両入れてくれとケチ兵衛さん言い残したのに、遺族もケチで偽金を入れられてしまう。

三途の川を渡るやり取りなど、一部地獄巡りのネタが入っている。こんなのもあるんだ。
三途の川の船頭が、間に合ったケチ兵衛さんを乗せてくれない。もう8人乗ってるから次にしろと。
昔からこの船は8人乗りと決まってる。しにんが8。

閻魔大王に袖の下を渡して無事ケチ兵衛さんは極楽へ。
しかし偽金なので、使いまくった地獄の役人、みな逮捕。

軽いバカ噺はサイコーでした。

ヒザは最近よくお見かけする、ブリッコ魔女の瞳ナナさん。サンタコスプレ。
前日までどこだったかホテルのショーだったそうな。

時間が押しちゃってますと早めにマジック出して帰っていく。

トリは桂枝太郎師。
蝠丸師に集中してたもんで、トリなのに結構忘れちゃったよ。
いや、新作面白かったですよ。
でもマクラとか細かいところが抜けた。師匠歌丸マクラだったけども。
業界ものの「浅草の灯」。ポンコツ前座のはち水鯉が間違えて書くようになったせいで、ネタ帳には「浅草の灯火」と書かれてしまうとツイッターより。

主人公は前座の噺家。明らかに枝太郎師の分身。
新作を劇中劇として高座に出し、劇中の客に困惑されている。
その日、岩手から母ちゃんが楽屋を訪ねてくる。先輩の配慮で浅草見物をさせてやれと送り出してもらう。
そして人情噺。

噺の中で「師匠訴えるなよ」とギャグを入れてた。この使い方は世間一般の認識と違うからダメだろうよ。

この高座、オンエアされるのかな。
再度聴かないとなにも書けないです。

ともかく通しの浅草、楽しいものでした。
外に出たらまあ寒かった。

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作成者: でっち定吉

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