今日の顔付けは4人のうち芸協3人。
3番手が唯一落語協会の、柳家花飛さん。
私は好きで結構聴いている人。
私は代演なんですが、本来ここの出番だったのを風子さんに替わってもらって、今月すでに出ました。
そうしたら、辰乃助から電話が掛かってきて、今日またここに入りました。出番だけ入れ替わった状態です。
鷹治さんの夢のマクラ聴いてましたけど、私も夢をひとつ見たんです。
洗剤のCMに出てきそうなキラキラした光景です。そこに馬久と一花が登場して、ふたりニコニコしながらアリの巣に熱湯流し込んでるんです。
なんで見たのかわかりません。
本編は元犬。トリを立てるヒザの役割なのだろう。
しばしばつっかえていたので最近覚えたのだろうか? あるいは前座のころ掛けていたのを虫干ししてるのだろうか。
つっかえていても、実に抑制の利いたこの人らしい、いい高座。元犬はいちいちハネないほうが楽しいですね。
だが、ちょっと眠い。
3人の客のひとりが寝てはいられない。ちょっとしんどいが我慢。
トリは伸べえさん。
最近、「渋谷らくご 創作大賞2022」を受賞したという。
受賞しても、客は3人か。二ツ目さんは大変だ。
この人も、風子さんと同じく2018年以来。
もっとも、その後聴きたいと思ったことはなかった。この日やってくるにあたり、受賞はひとつのきっかけになった。
2018年のブログには、伸べえさんの高座(古典)を聴き、私はこう書いているのだ。
§
明らかにこの世の秩序からズレた芸なので、おかしいのだけど、秩序からズレたことによるおかしさなのでスムーズに笑えないのである。
伸べえさん、明らかに楽しい人だし、この個性が熱狂的に好きになるファンもきっといるだろう。
それはよくわかるし、認める。同業者に好かれる点も非常にわかる。
だが、今の私にはちょっとキツいなあ。いささか笑うに困る芸です。
常識からズレている今の姿ではなくて、ズレを自ら作り出して出し入れできるようになったら、聴き込んでみたいと思う。
§
これから4年強経って感じたのは、伸べえさんが「ズレを自ら作り出して出し入れできるように」なっていること。
武器としての天然の装いが巧み。
なのだが、それ以外の感想は、当時とまったく変わらないのであった。やはりちょっと苦手。
いっぽうで、大賞を獲った事実もよくわかる。
プロが認めるのもよくわかる。でも感性がついていかない。
昨年聴いた弟弟子の蝶の治さんと似たような感想になってしまった。
一門の個性なんだろうな。
必ずしも悪い意味で言うのではない。
中学生時代の噺をします。創作ですと伸べえさん。
クラスのマドンナに告白したい少年。マドンナは、腹筋割れてる男が好きなんだそうだ。
でもぼくは腹筋ぶよぶよだ。
同級生に相談すると、自分の部屋で100回腹筋するより、女の部屋で1回やるほうが効果がある。噺家の稽古と一緒だ。
3日間でバキバキの腹筋になれる。
アドバイスを受けて、女子高生のお姉ちゃんのいる友達に、お姉ちゃんの部屋に入らせてもらうことにする。
どんな新作落語でも、どこかに古典落語の要素を持ち合わせているのが普通だと思う。
林家きく麿、古今亭駒治といった、かなり飛躍した世界を描く人ですらそう。
だが伸べえさんのものは、ほぼお笑いである。コントなら、こんな無理な設定も許されないでもない。
その無理さがウケを呼ぶ。
さらにセリフ廻しが落語離れしている。
セリフが同じところをぐるぐる廻って、先に行かない。
セリフ廻し自体が、不条理漫才。同じところをぐるぐる廻ってウケを取るのは、コントというより漫才に近い。
昨年のM-1グランプリ本選に出ていた「キュウ」が好きな人ならきっとハマると思う。
要は、落語でなくお笑いから持ってきた要素をこれでもかと詰め込んだ一席。
お笑いマニアに喜ばれそうだ。
私はというと、コントも漫才も大好きなんだけど、落語がもっと好きなのだ。
面白いけど、ピタッとはハマらない。
「女の部屋に入る必要があるのでなんとかして入る」で一席作ってしまうとはなあ。
そんな馬鹿なというツッコミを拒絶する、孤高の落語。
まあ、ボケっぱなしの手法はすでに落語界で市民権を得ているので、よしとする。
サゲだけはかろうじて落語っぽい。
私自身はまだちょっと。
だが、お笑い好きには桂伸べえさん、むしろお勧めします。
聴いた甲斐はありました。
またチャレンジしてみます。