ギャラリーストーカーと落語ストーカー

弁護士ドットコムニュースや、まいどなニュースでも紹介されていたツイート。

真っ先に落語界を連想したのは私だけではあるまい。
世間の反応は、「コミケや演劇、演奏界隈でもある」ということだ。表現者のいるところ、ストーカーもついてまわるらしい。
ツイート内容を引用させてください。

  • 家族、友人でもないのに作家を呼び捨て、又はちゃん付けで呼ぶ。(ギャラリーで会ったことあるだけで友人とはいいません)
  • 長時間作家を独占して話し込む。
  • 作家のプライベートや連絡先などを聞く。
  • 作家とギャラリー以外で会うことを要求する。
  • SNS等でも作家に対する上記の行為はお止め下さい。

とのこと。
NG基準をはっきりさせておこうということ。
被害者である作家の性別を問わず、セクハラか、パワハラとなる。
特に、変になれなれしいファンの、親しみを込めたちゃん付けを否定した点はなかなか画期的。人を下に見る態度から、すべてが始まる。
ただ「警告」の効果はどうだろう。実在のギャラリーストーカーにとっては、他人事じゃないかな。
悪いことと知りつつ付きまとったりしないだろうし、よかれと思っての勝手なアドバイスもやめないと思う。

まいどなニュースの画廊への取材によると、作家にマウントを取りたがる人間もかなり厄介だそうで。
マウンティングは外形が明白でないから、警告からは抜いたのかもしれない。
素人なのに上目線で、作家に対してこうしたらいいよ、こうしなさいと押し付けてくる困った人のこと。

ニュースを見て私が最初に連想したのは、落語好きの年寄りであった。
落語の世界に限定するとストーカーは年寄りに限られるが、まあ本質的には年齢を問わない悪癖なんでしょう。
神田連雀亭に春風亭一花さんが出ると、こんな人がわらわらやってくる。
林家つる子さんはもっと早くからこう。
連雀亭ではトリの人が受付をしているのだが、コロナ禍なのに一花さんを捕まえて離さない年寄りの多いこと。
この間など、「あなたの旦那さん(一花さんが美人で)嬉しくって仕方ないね」みたいな声掛けをしていた爺さんもいた。
女流落語家は大変だねえとつくづく思う次第。
非常に人当たりのいい一花さんが助けを呼んでいると感じたわけではない。ただただ嫌なものを見たなということです。
蝶花楼桃花師もかつてストーカーに悩まされたそうだし。

今はまだ閉演時のお見送りが自粛になっているが、これがあった頃は、男の演者に対してもだが「捕まえて離さない」ファンが実に多かった。
黒門亭では、噺家と話をしたエピソードを上目線で語る常連もよく見た。

私は、こういう悪癖を「支配」というワードによって包括的に捉えております。
自分に自身がない人ほど、人を支配したがる。これはまあ、私の観察に基づく結論ではなく、一般論としてそういうことらしいよというウケウリ。

歪んだ好意を作家や噺家に寄せる前に、そもそもアーティストと仲良くしたいものなの?
仲良くしたいと特に思わない、私のほうがあるいは珍しいのだろうか?
落語会の打ち上げに参加したいと思うこともないし。

堀井憲一郎氏は、落語を聴いて衝撃を受けたとき、その本質は「嫉妬」にあると著書に書いていた。
嫉妬が変形すると、噺家と仲良くしたくなるんだそうだ。
私にはさっぱりわからなかった。堀井氏がデタラメ書いてるとは思っていないが、今でもよくわからない。
よくできた小説に対してなら、「ああこんなもの書けたらいいな」とまれに思わないでもない。
小説は書かないが、もの書きという薄い共通項ならあるから。
いっぽう落語はやる種目じゃないので、嫉妬心なんて最初から持ちようがなくて。
これは堀井氏の落語鑑賞に、演者目線があるからなのかもしれない。私には、どうやらこの目線はない。
ただ逆の事象はある。最近ブログが売れるにつれて、人さまから嫉妬されているのではないかとちょっと感じるようになった。
なに、定吉ブログぐらい誰でも書けますよ。たぶん。

ギャラリーストーカーも、アート鑑賞という高尚な趣味がある。
なのになぜか、嫉妬に基づく支配感情が生じるものか、作者に執着したがるらしい。
落語も高尚ということになってはいるが、まあファンがみなそうでないことは先刻理解している。

そういえば、私もブログコメントの上だけではあるが、距離感の変なメンヘラ女に悩まされたことがあったっけ。
結構身近にいろんな罠がある。

しかし仲良くなりたいまではまだいいとして、その相手の上に立とうなんて、とにかく醜い。
ツイートには、SNSでの付きまといもご遠慮願うと書いてある。
SNSで、演者に上目線で迫るのももちろんダメだ。
私もいっそう気をつけなければならない。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

6件のコメント

  1. 昨日の朝日夕刊に載った『寿限無さん』印鑑・・・つい注文してしまいました。ははは

  2. ハイ(笑)・・・ご理解いただける方に吹聴したくて。ははは 
    貴兄の評論も毎日拝読しております。月に、2,3度しか現場に行けないので、楽しく読ませてもらってます      

  3. 嫉妬ではないと思います。
    憧れの俳優さんに近い気持ち。

    仲良くなりたいという気持ちはすごくわかります。私も仲良くなりたい落語家さんはいます。落語家はTVに出てる俳優よりも距離が近いので、仲良くなれそうな気がしちゃうんですよね。
    ただ、そういう客は困りものだろうなあというのもわかるので、打ち上げがあれば普通にお話しするくらいで留めていますし、打ち上げなければ落語を聴くだけです。

    1. いらっしゃいませ。
      私なんか、好きな噺家さんの内面まで知りたくないななんて逆に思います。
      人柄がいいな、いい人柄で気持ちいい噺ができるんだなと思ったら、それ以上はもう知りたくないですね。

コメントは受け付けていません。