神田連雀亭昼席5(下・柳家小もん「真田小僧」遅刻でトリ)

連雀亭昼席に戻ります。

3番手に本来トリの春風一刀さん。
はるかぜいっとうと申します。名前が一刀なだけに、とイッチョウケンメイを引いた、定番の挨拶。

遅刻の小もんさんについて。
小もんさん、昨日飲み過ぎたみたいですね。
全然既読にならないんですよ。仕方ないから電話したら、20回ぐらい発信音が鳴ってから本人が出ました。向こうも驚いてました。
私今日、せっかくのトリで長講やろうと思ったのに。

すでに楽屋に小もんさんは到着済みだったみたいで。
一刀さんが面白がってペナルティとしてのトリを与えたみたいだ。
「遅刻した人はトリ」という変な不文律でもあるのだろうか。

泥棒の話。
「仁王」を堂々と振る。
つまらない小噺の筆頭であり、乾いた笑いが起こる。
あんまりウケないですね。これが今日の私のピークなんですよ、あと下がるだけなんですから。

本編は鈴ヶ森だった。
マクラの使い方もそうだが、明らかに兄弟子・一之輔師から来ているものである。
子分が親分にBL的感情をちょっと抱いている設定も同様。ただ、一之輔師と違い、親分は一部受け入れるわけではない。
一朝一門は、本格派志向と面白落語志向に綺麗に二分されているが、一刀さんは後者だ。
昔は前者の印象だったのだが、転向したのか。
鈴ヶ森は先人がたくさんクスグリを付け加えた噺。
それを、ことごとく膨らませ演じていく一刀さん。
なんだか前座が、子ほめや道灌をやるとき、編集力がないゆえにこんなことをするよねと思う。ただ、前座よりははるかに面白いけど。
たっぷり演じたいというより、普通の演者と、力を入れたいポイントがちょっと異なっているというイメージ。

たっぷり演ることのマイナスが。
もともと鈴ヶ森には、穴があるのだ。
最初から鈴ヶ森に追いはぎにいくつもりで家を出るのに、なんで犬にやる「しゅうと」(おむすび)を持っていくの?
これ、サラッとやってれば気にならないのだけど、親分がどうして舅なのか考えてから言葉を発するたっぷりさ。
そうなると穴がすごく気になる。

この後の小もんさんが、「クスグリが多いな」と思いながら聴いていたと後で語っていた。
後輩の見る目はなかなかシビアだ。
「クスグリ多すぎてぼくの美学には合わないです」という本音では。
もっとも、一刀さんがクスグリだけ減らしても、面白くはならないだろう。
自分の個性をなんとか出していく方法論が、クスグリ強化みたい。
泥棒の個性を強化する前に、まずクスグリから攻めていくのだ。演じ方がしつこくないのはいい。

面白いオリジナルクスグリもあった。
ふんどし締めてないのでケツまくってしゃがめない。締めないのは「主義」らしい。
主義なら仕方ないと親分。

クスグリ過剰落語は好きじゃないが、一刀さんに関しては、このスタイルでいいんじゃないですか。
面白かったです。

最後が遅刻の柳家小もんさん。

楽屋が針のむしろですよ。もう居心地悪いのなんの。
10時半に来なきゃいけないんです。
それでもこの通り間に合ったんですけど、一刀アニさんが嬉しそうにトリ取れというので。
アニさんも結局、たっぷりやってましたよね。

地元で一日署長を務めた噺。警察ではなく税務署。

群馬出身の落語家・柳谷小もんさんが一日税務署長 スマホでの確定申告呼びかけ(リンク切れ)

ニュースもあったが、見出しの「柳谷」はないだろ。
中身は正しく柳家になってるけど。
これをネタにすればいいのに。

高座を務めたが、やってきた聴衆に、確定申告自分でする人は2人しかいなかったとか。
年金生活の人ばっかりだったそうで。

学校寄席の話から、子供へ。
真田小僧だ。
軽いな。遠慮してるのかな。
でも薩摩に落ちたまでの通しだったし、見事な一席でした。それこそ「もう半分」に匹敵するぐらい見事な。

金坊が間違いなく生意気なのに、軽く飄々としている。
生意気だから面白い子供なのだが、度が過ぎて大人の客に不快感を与えたりしないのだ。
親父のほうも軽いからだろう。
おっかあの不倫現場を息子から聴かされ、しっかりとうろたえているのにも関わらず、とことん軽い。

おっかあが戻ってきてから後半に進む際に、展開の切れ目がどうしてもあるが、そこもスムーズに進む。

改めて、柳家はつくづく凄いなと。
小はぜ、小はだと並んで小もんさんは特筆すべき柳家の二ツ目。
そしてみな、地味な落語。それもまた柳家らしいのだけど。
いずれも職人芸であって、みんな揃ってたちまち売れはしないだろうけど。私にはもう、たまらない。
このスタイルを確立してから売れ出そうとすると、小三治スタイルしかないのかもしれない。
つまり、マクラみたいな、付加価値を付け加えることになる。
小もんさんの場合、先に副業のナレーションで売れるかもしれないが。

今回も楽しい連雀亭でした。
遅刻はいけませんが。

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作成者: でっち定吉

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