黒門亭13(柳家小ゑん「ぐるんぐるん」)

粋歌  / 寿玉すだれ
わさび / ぞろぞろ
一琴  / 義眼
(仲入り)
小平太  / 松曳き
小ゑん  / ぐるんぐるん(ネタ出し)
お年玉抽選会

今年の落語は1月3日、黒門亭の二部からスタートします。
初席や、やたら料金高い二之席が好きじゃないので、例年はスタートが遅いのである。だが、柳家小ゑん師の「ぐるんぐるん」ネタ出しが聴きたくて。
CDは持っているのだけど、「ぐるーんぐるーん」の所作が見たい。
2時半開演だが、いつから並んだらいいだろう。「とにかく早く行けばいい」というものではない気がする。なんだか早すぎると野暮な気がするのだ。
結局、万一入れないときの代案(落語以外)を作っておいた上で、午後1時前に並ぶことにした。
ほぼ、想定通りの並び状況。幸い、ほどなく整理券が配られた。配るのは三遊亭金八師匠。
2時15分までに戻ればよし。
お茶をしてから、鈴本演芸場に行ってみた。そうするとNHKの中継車が来ている。そうだった、3日は毎年恒例の中継がある。
カメラがセッティングに入っているので、もうじき誰か出てくるのかなと思っていたが、ここで時間切れ。
ちなみに、なぜか鈴本の前を着物姿で通過していく柳家三三師匠をお見かけした。東京かわら版を読むと、亀有で落語会があるので、湯島駅に向かったのか。
夜(第三部)はこちらでトリだ。
それから、鈴本の前に車で乗り付ける鈴々舎馬風師匠も。スーツ姿の孫弟子、柳家かゑるさんが付き添っていた。

黒門亭開演の前、鈴本演芸場の前でしばらく動静をうかがっていたのだが、後でTVの録画みたら、私の行く直前に文菊、こみちの両師が出ていたようだ。
末広亭の前と違って人がほとんどいなかったけど。
鈴本は初席、指定席なのでとりあえず行ってみる人が少ないのだろう。
ちなみに鈴本前を通行していた三三師は、落語協会事務所に用があったらしい。黒門亭の番頭、三遊亭金八師のツイッターに出ていた。

時間なので黒門亭に戻ります。すぐ入場開始。
メクリは「三遊亭粋歌」になっている。前座は出ないのだな。
その粋歌さんは、南京玉すだれで登場。手短かに、盛り上がりました。

柳家わさび「ぞろぞろ」

続いて柳家わさびさん。開口一番、今秋の真打昇進が決まりましたと言って拍手をもらう。いえいえ、年功序列ですと。
今日は小ゑん師匠のネタ「ぐるんぐるん」が出ている。ツかないようにしなければならないものの、この噺がよくわからない。ネットで調べると、「ぐつぐつ」に似た噺らしい。
前座の小ごとさんと市朗さんにも確認してみた。市朗さんによると「ぐつぐつに似た噺です」。お前も調べたなと。
わさびさん、ぐつぐつは小ゑん師匠に教わって持っているので、ぐつぐつをやらなければまあ、いいかと。
それと、初席のネタ。ご存じの通り初席は顔見世興行なので、時間が短い。近況を語り、小噺をやって高座を下りる。
だが、最後の小噺が不発のときがあり、そんなときはとても下りづらい。観察していたら、歌之介師がこれをやってしまったそうである。
そんなときにとっておきの秘訣があるのですとわさびさん。
一段声を張り上げて「本年もよろしくお願いします」と言えばとても下りやすいのだと。
楽しいマクラから、ぞろぞろへ。ぐるんぐるんと名前の雰囲気は似ていますが、名前だけですのでと。

非常に軽く、楽しいぞろぞろ。
特殊な演出が特にないのに、どうしてこんなに楽しいのだろう。
書くことあまりないのですけども、満足度は最高でした。
一箇所、仕込みを活かしたネタがあった。
ぞろぞろ本編のクスグリでウケない箇所があったのだが、すかさず「本年もよろしくお願いします」。
わさびさんは、ぐつぐつを持っているというのでホウと思ったが、この人「露出さん」も持ってるんだよな。東京かわら版12月号の百栄師特集より。

柳家一琴師「義眼」

続いては、柳家一琴師。黒紋付。
「ぞろぞろってあんな話だったんですね」。
一琴師もかつて黒門亭の企画で、「教科書に載る落語」特集ということでぞろぞろを掛けたそうだ。
ぞろぞろ、持っている人が少なくて、調べてお声が掛かったらしい。
誰に教わったかというと、下町ロケットでちょっといい人ぶっている立川談春師。談春師、競艇をちらちら見ながら稽古をつけてくれた。
なので、肝心のテープ録音に「イケー」という声が入っていて、後で抜くのが大変だったそうである。
しかもこのぞろぞろ、教えてくれる人が教える人だけに、登場人物がみな悪人。そんなこんなでお蔵入りだそうで。
そんな、ややマイナーの噺だと思うのだが、最近、妙にぞろぞろを聴く。特に円楽党で。
長らくすたれていた「野ざらし」が流行っているのは、落語心中を別にしても感覚的にわかる。同じ爆裂妄想噺の「だくだく」をよく聴くのもこれと同じ理由だろう。
だが、ぞろぞろがちょっと流行っているのだとしても、理由はよくわからない。

ちなみに一琴師の高座、弟子の前座、小ごとさんが高座に妙なものを置いている。膝の悪い師のための、改良あいびきらしい。踏み台の上に小さな座布団を結び付けたもの。
先月六郷土手で聴いた高座では椅子に腰掛けていたけども。
一琴師、これに触れて、太ももが太くて市販のあいびきだと尻が付かないので作りましたと。踏み台はダイソーで200円だそうで。
膝は半月板が悪いのだが、医者には痩せたら治ると言われている。これでもダイエットに励んでいるのですと一琴師。100キロあったのだが94まで落とした。
だが弟弟子の、「性格悪いが落語は認められている」三三が、嫌なことを言う。「アニさん、100本あるつまようじから、6本抜いても変わらないっすよ」。
そこから、先日も聴いたが大腸ポリープ検査の話。しかも最新版。
ところが、今回は単なるマクラではないのだ。ちゃんと噺の伏線になっている。本編でも肛門からレンズを突っ込んで検査するのである。
本編は「義眼」。私も初めて聴いた。廓噺でもある。
先代桂文治が、時間のないときよく掛けていたということだけ知っている。
まあ、そういう軽く楽しい噺。初席やっている寄席とは違うけど、でもどことなく、軽さが正月っぽいですな。

柳家小平太「松曳き」

仲入り後は、昨年昇進、新真打の柳家小平太師。あまり気にしなかったけど、今日はみな柳家だ。
この人も正月らしく黒紋付。
マクラは、楽屋で話したという柳家わさびさんについて。
わさびさんは、昇進にあたり、小平太師が作った扇子の量の、4倍こしらえたそうである。
昇進パーティは開かず、大ホールにお客さんを集めて配るそうだ。一般ファンも参加できるのかもしれないが、祝儀は持っていかないといけないのでしょうな。
わさびさんが扇子を作り過ぎたというのを粗忽に結び付けて、本編は松曳き。

小平太師は、松曳き。粗忽噺の中で、もっとも難しいとされる。「粗忽長屋」とこれが筆頭。
「五代目小さん芸語録」より。
なにしろ登場人物がみな粗忽で、まともなツッコミ役が非常に少ないという稀有な噺。
今は白酒師や、馬石師など、柳家以外の人が多く掛けている気がする。
小平太師は、市馬師にでも教わったのだろうか?
小平太師、新真打5人の中では、腕があるのは知っているが決して印象の強いほうではなかった。でも、今日の「松曳き」は素晴らしいものでした。
黒門亭で上手い人は、真に上手い人。これ定説。
白酒師のような面白古典落語とは違い、きっちり演じて噺自体の面白さをにじみ出させる芸。
殿さまと三太夫さんが揃って粗忽なミラクルワールド。だが、粗忽なのにちゃんとさむらいの威厳を維持しているところがさん喬門下っぽい。
さん喬師に一番似ている弟子だが、師匠のやらないこの噺については、まったく独自の個性を発揮している。
三太夫が、ボケをかました後、自分で気づいて毎回「ハッ」とする仕草がユニークだ。
粗忽なお武家さまたちでも、命は惜しい。切腹を命じられた三太夫さんだが、最後命が助かってなんとなくほっとすらするではないか。
先代小さんは、八代目桂文治(山路の文治)の松曳きがよかったと言ったそうな。三太夫がすごすご下がるシーンの情景が浮かんでくるからだと。
この点、小平太師にも恐らく同じ雰囲気がある。

柳家小ゑん「ぐるんぐるん」

正月の黒門亭、この3日の2部がすべてではないけれど、ツイッターにはやたらこの席の情報ばかりアップされている。
やはり、黒門亭といえば小ゑん師なのでしょうか?
お待ちかねの柳家小ゑん師。正月らしく師匠も袴姿。ただし黒紋付ではない。
初席についてひとくさり。お陰でどこの寄席も混んでいるが、初席に来る人は、初席にしか来ないのではないか。
一度、ちゃんと戻ってくるかどうか調査しなければならない。サケみたいに、初席に来る客にICチップを埋め込むとかして。

ネタ出しやめておけばよかったなと。CDでも喋っているが、ぐるんぐるんはパクリですと。他人様のパクリではなく、自分の作品のパクリ。
普段はめったにやらない噺なので、通の揃う黒門亭ではあるが、知らない人が多かったのではないかな。
といって、内容を知っていても、まったく問題なく楽しい噺。
ぐつぐつとそっくりの噺。なかなか食べてもらえないネタの悲哀に、「あたしってお金のかかる女なのね」というキャラクターが出るのも一緒。サゲもほぼ一緒。
なのにもう、本当に来てよかったと思う。もともと、ストーリーに価値がある噺ではないということ。
回転寿司の世界と、現実の寿司を食べにくるファミリーを交互に照らし出す。この雰囲気がもう、たまんねえっすな。
一家で寿司を食べにくるお父さんは、「長い夜」において、北千住のデニーズで一家食事をしている人と同一人物であろうか。

名作・ぐつぐつと同じく、キャラクターがボケをかますたびに「ぐるーんぐるーん」のジングルが入る。
ツッコミはない。直前のギャグがウケたかどうか、まったく問わない点がすばらしい。面白かったら笑えばいいし、つまらなくてもただちにスベリウケになるのである。
構造は小ゑん落語なのに、古典落語の雰囲気がどこかに漂うというのがこの人らしい。
そして小ゑん師、どの噺でもそうなのだが、表情がたまらない。
直前のギャグに対して自ら呆れるがごとく、険しい顔で「ぐるーんぐるーん」とやる。
ついに見られた「ぐるーんぐるーん」の所作。腰を大きく振って回転寿司のコンベアを表す。

ぐつぐつの主人公、イカ巻きに該当するのは、チリ産のまぐろ。実はトロである。
寿司の王様のはずなのに、江戸前寿司「浪花屋」のレーンを廻っているのは、エビフライ握りや、ドイツなまりのソーセージ握り、ぷるんぷるん震えるプリンなどばかり。
誰もまぐろには手を付けない。

小ゑん師匠は、近年寄席のトリも増えてますます昇り調子である。単に面白い新作落語をするというレベルではなく、風格がそなわっている点がすばらしい。
ちなみに「ぐるんぐるん」の前に、本格寿司屋のネタケースを舞台にした「しんしん」という落語があった。子供の頃ラジオや笑点で聴いたのを思い出す。

抽選会も盛り上がり、大満足の黒門亭でした。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。