「小ふねのみなと」(中・春風亭いっ休「百歳万歳」)

牛ほめのマクラとして、小ふねさん自身の経歴も入っていた。
東北学院大学出身です。
隣に東北大学という、優秀な国立大学があります。
東北学院大学の入試問題の英語の1問目は、「I’m pen」を訳せでした。
それでも、東北学院大学のオチケンはすごいんですよ。山寺宏一さんがOBなんです。
山寺さん、よくOB会に出席して、一席披露したりしてるんです。
ただ、私はオチケンじゃなかったんですけど。
私はUFO研究会に入って、2日で辞めました。山に登ってUFOを見つけるやばいサークルだったんで。

前座のり助時代に私が聴いた演目は、「桃太郎」「寿限無」「子ほめ」とみな前座噺。
今回の「牛ほめ」も含め、いずれもそのクスグリに爆笑したのである。
いずれも、世界をひっくり返して客の度肝を抜くような作りではない。ジワジワくるものばかり。
だが、ジャブの数により、かなりの破壊力。
そして質のほうにも、なかなかパワーを秘めたものもある。
この与太郎、とにかくカネへの執着が強い。カネを求めて、家から庭、柱から牛と、手早く褒めていくのだった。
作りにムダがない。
そういえば、やはり軽く出していたが「佐兵衛のカカアは追い剥ぎだ」に感心。「ひきずり」はわからないからなあ。

小ふねさんに多少なりともスタイルの近い噺家がいるか考えてみた。
昔昔亭桃太郎師じゃないのかな。
会話だけでウケてしまうという本質において。
弟子も含め誰もやれない桃ちゃん新作、小ふねさんなら語れると思う。

メクリを「開口一番」に替えて去っていく小ふねさん。
誰に言うともなく、「開口一番じゃないんですけどいっ休さんが出ますので」と。

ボールドヘッドのいっ休さん登場。
メガネをしていない。このほうが目つきが柔らかくていいですね。
この人には、二度出くわしている。
「かなり意識的に、前座らしい落語を心掛けている」人と理解していた。昨秋聴いた道灌なんて、存在するすべてのクスグリを入念に入れる感じ。
噺家としては、まだ評価しようのないイメージだった。学歴がキャラになるにせよ。
意図的に前座の皮を被っているので、今後が予想できないという印象。
いっ休さんは一之輔師の3番弟子だが、私のイチオシは4番弟子の貫いちさんのほう。

だが、小ふねパワーが流れ込んできたのか、すごい一席。なんと新作。
前座さんは寄席だけではわからないね。
前座は寄席では新作はご法度。だからそうそう聴く機会はない。
数少ない機会でよかったのは、三遊亭ごはんつぶさんと、林家きよ彦さん。
いっ休さんは、この人たちのような新作派になるつもりなのかは知らないが、匹敵する一席だった。
いつも新作落語の創作力において、私が重要な判断基準にしている「飛躍」が見事な作品。
師匠に書けと言われて書いた自作なんでしょうね。

最初に小ふねさんをいじる。
楽屋では、ひとり会イヤだなあとずっとつぶやいてます。
小ふねアニさんは一緒に前座修行した仲間です。
今日、ご両親も予約してたそうなんですよ。この中にいらっしゃるかどうかはわかりませんが。
本名だとバレるんで、名字をひと文字替えてたそうです。

今、自分の師匠周辺がアツいところなのに、一切喋らない。
偉い。
師匠をネタにしないのが偉いわけじゃなくて、無闇に頼らないところが。

100歳の老人が、生前葬を執り行っている。
5歳のひ孫が、「ひいおじいちゃん、死んじゃうの」と声を掛ける。
大丈夫。いつまで生きるかわからないけど、元気だからまだ死なないよ。

・・・ということが、100年前にあったが、まだ本当に生きているとは。
シーンが代わって、105歳のひ孫と200歳のひいおじいちゃんが語りあっている。

ひいおじいちゃんは、2位以下をぶっちぎりで引き離してギネス1位の長寿。
人生こんなに長いのに、ペース配分を誤ってしまったと後悔するひいおじいちゃん。
特に、盆栽なんかやるもんじゃない。あれは、あらゆる趣味に飽きた人が最後に手を出すものなのに、わしはそれにも飽きてしまった。

100歳の生前葬までは現実世界の話。
ここにいきなり200歳の老人を登場させるのが、新作落語の「飛躍」である。
軽々と飛躍を入れ込む創造力、すばらしいではないですか。
この落語は「飛躍のある世界を不思議がらない」性質。
実際に200歳になってしまった人のリアル(そんなもんあるか)を描く。

さらにもう一弾ギアを上げてきたのでもう、ノックアウトだ。
書かないけど。
東京の新作落語の伝統にのっとった見事な一品。

これだけの新作が書けるなら、いっ休さん、新作派としてやっていけるが、どうなんだろう。
しびれました。
一朝一門ほど目立たないと思っていた一之輔一門、恐るべし。

小ふねさんのあと二席に続きます

 
 

作成者: でっち定吉

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