柳家小ふね独演会「小ふねのみなと」(上・牛ほめ)

薬が効いて帯状疱疹が急速に収まり、そして発作的なくしゃみも出なくなった。
冒頭に広告張った「井関食品」の辛口のど飴のおかげは大きい。
これで鼻が通ります。カルディで買った。

昨日のブログを当日更新したのち、出かけるかと決意して、東京かわら版を見返す。
さすが日曜、いろいろある。
いつも円楽党の寄席を聴いている亀戸梅屋敷では、瀧川鯉八独演会だって。しかし正午スタートでは間に合わぬ。
梅屋敷は面白いことに、そのあとで春風亭百栄独演会もある。こっちなら間に合うが。
梅屋敷も、いよいよ落語会を強化するようになったのだな。どちらも料金は3,000円。
あと、馬石師と小痴楽師が出る渋谷らくごとか、桂扇生師の会とか、「稲荷町の決闘」とか。

しかし数多い中私の目を射抜いたのは、「柳家小ふね独演会・小ふねのみなと」。
柳家小ふねさんは、昨年5月に二ツ目昇進。前座時代は「り助」。
前座の中でも特に注目していた、非常にユニークな人。昇進してからは未聴。
当日だが予約フォームが使えたので、予約してから出掛ける。のど飴持って。
会場は、「四の日寄席」や「巣ごもり寄席」でお世話になっている巣鴨スタジオフォー。

いつもと気分を変えて、大塚駅から歩いてみた。折戸通りには、面白いことはなにもなかった。
表で入場を待っていると、主役の小ふねさん、それから春風亭いっ休さんが外階段を上り下りしている。
前座はいっ休さんか。話題の一之輔師の3番弟子。京大卒。

ぎゅうぎゅうに詰め込んで50人程度。
まあ、詰め込めるようになったことを喜びたい。
今日は貸席のため、PayPayで払えなかった。

牛ほめ 小ふね
百歳万歳 いっ休
らくだ(ネタ出し) 小ふね
(仲入り)
粗忽長屋 小ふね

いや、実に面白かった。本当によかった。

最初に、柳家小ふねさんの落語がどういうものかを説明してから始めます。

一般論として、私は「クスグリ過剰落語」が嫌いだ。
落語に革新的な改革を施そうとしてギャグを詰め込むと、だいたい噺は死ぬ。
ひどい場合には演者だけ面白がっていたりして。
だが、小ふねさんの面白さは、ほぼクスグリの中にある。
私が最も嫌いなスタイルを、最も楽しく提供してくれる人。
なぜそんなことが可能か。非常に面白いクスグリが、極めて軽いから。
クスグリ重要な噺ばかりなのに、おまけのようなフリをして、本筋を語っていくのだった。

もしこのスタイルがマネできたら、誰でも小ふねさんぐらい面白くなれそう。
でも、小ふねになるためには実にこれだけハードルがある。

  1. 面白いギャグを作る
  2. それもできる限り、使い古された古典落語のストーリーから、新鮮なクスグリを作る
  3. ギャグを、絶対に力を入れて語らない
  4. 力は入れないが、客にちゃんと届くようにしっかり語る
  5. 演者がギャグがウケたことに調子に乗らない
  6. 先を急がず、フリを再度繰り返したりするが、やはり出し方はアッサリと

3は難しい。せっかく思いついたのだから、届けたいじゃない?
でも、やればやるほどケガをする。
そして小ふねさんみたいに、客の反応を一切気にしないというのも至難のワザ。
そもそもウケたいから考えてギャグ入れてるんでしょ?

考えれば考えるほど奇跡に近い高座である。
この奇跡的なスタイル、「従来のウケない小噺」を振るときにとても効果的である。
トリの粗忽長屋の前に振ってた「お前の親父だ」とか、牛ほめの前に振ってた「親子のバカ」。
ウケるわけがないのだが、ウケるクスグリとなんら変わらず喋り切る。
客は仕事として振られるクスグリはスルーしていいので、辛くなったりしない。
演者も「私の実力はこんなもんです」と自虐に走ってウケる必要もない。
ちなみに、親父じゃなくて兄貴だったけど。

狭い意味でのクスグリから外れるワザも持っている。
「そう来るか」と「繰り返し」。
人どうしのやり取りが、筋は通っているのに微妙にヘンなんである。

前座のいっ休さんの前に、一席やる小ふねさん。
前座のときはボウズだったが、髪を伸ばしている。
なーんとなくだが、長井秀和っぽい風貌。
なので角刈りのほうがいいと思うのです。間違いない。

拍手は袖から鳴りやまない。
日頃ここでやってる寄席と作法が違う。客層が違うみたいだ。ハコでなくて演者に付いたファンみたい。

「今年は柳家に帰りたい」と口を開き、大ウケしてスタート。
自分の同窓会のマクラ。
3年前の同窓会に出て、東京で警察やってるんだとウソをつく、前座時代の小ふねさん。
いろいろ訊かれるが、平気でウソをつく。
そうしたら、また今年になって同窓会の通知が来た。
見事なオチが付いていた。

そして与太郎を振って牛ほめへ。
ストーリーは全く通常の牛ほめである。だがあらゆる箇所にクスグリをブッ込む。

冒頭で親父が与太郎を叱っている。
お前がバカなおかげで、世間でおとっつぁん立場がないのだよ。
本当に、「ないのだよ」って喋るのである。ウケてたわけじゃないんだけど、このジャブでもうやられた。
こういうジャブを振っておくと、「(伯父さんに)100円もらえるなら1日3回伯父さん家に行く」という右ストレートは効果てきめん。

覚えているクスグリを逐一書くのも無粋だ。
間違いなく面白いこの人の魅力、どうやったら世間に伝わるだろうか。
小ふねさんの場合、下手すると客のほうも、会場を出た瞬間「なんで笑ったんだっけ」と悩んでしまうかもしれない。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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