上方落語をきく会2023(上)

一時期やめていた、radikoプレミアムを12月から再開している。
期待していた年末年始のMBS特番は、私の調べた限り、なかった気がするのだが。
らんまんラジオ寄席が終わってしまったので、日ごろのラジオでは「なみはや亭」と「ラジ関寄席」を聴いている。上方落語。
日曜の「なみはや亭」を水曜になって聴いてみる。たまに配信が翌日までなんてときもあるので、できるだけ早く聴かないと。

今回のなみはや亭は昔の音源で、桂文團治の「帯久」。
放送時間がたっぷり余るぐらいコンパクトだが、ダイジェスト感などまるでない、見事な一席。
現代でも、つい噺が長くなってしまう噺家は、たまにこういう先人の逸品を振り返るとよろしい。余計なお世話か。

その後の、伊藤史隆、三代澤康司両アナのトークコーナーで、「上方落語をきく会」があることを知る。
というか、もう日曜日にロング生放送があり、終わっていたではないか。
昨年は生で聴いたのだけど。
リアルタイムでなくても構わないが、配信期限が明朝までだ。
危ないところだった。この番組のためにradikoプレミアムを復活させたようなものなのに。
まあ待っていれば、なみはや亭で同じものが流れるけれど。
いちいち録音したりはしない。

とにかく、仲入り休憩中の袖のトークコーナーはやむなくはしょり、長時間放送に付き合うことにする。
聴きながら今日のブログを書きます。

桂三実さんの新作落語は面白かった。
天王寺から池田の実家まで、小学生の男の子がひとりで電車に乗って遊びにいく。
たまたま池田の病院にひとりで見舞いに行く同級生のユキちゃんと一緒になり、車内で漫才を(もののたとえです)繰り広げる。
初めての旅だが、柳家喬太郎「八月下旬」のような冒険とはまるで違うのが、上方の新作っぽい。
東京の新作は設定や人物に「飛躍」を入れ込んでくるのだが、上方、特に文枝(三枝)系統は日常だけで作ってしまうのが得意である。
日曜の浅草お茶の間寄席(TVK)では、文枝作の「鯛」を柳家はん治師が掛けていたが、いけすの鯛を主役にしたこれなんか珍しいほうである。文枝新作をよく掛けるはん治師も、「妻の旅行」や「ぼやき酒屋」のような飛躍のない作品のほうが多いはず。

桂りょうばさんは「阿弥陀池」。
「タイ」を持ってくるのにカンボジアから攻める。
ただ全体的には、それほどクスグリは多くない。
先日広小路亭で桂優々さんからギャグたっぷりの阿弥陀池を聴いた。これはなかなかよかったのだが、ギャグを入れる誘惑に駆られがちな噺に、違う方法論で迫るのだなと。

笑福亭たま師が、東京の落語界のパワハラ事件をマクラのネタにしていた。
名前は出さないが元天歌さんが、師匠に辞めてしまえと言われて辞めることにする。
ところが師匠から、「2月中に謝りに来い」とメールが来る。もう辞めたんだから謝るわけがない。
そして3月になった。師匠からまたメールが来て、「2月は来年もある」。

たま師の解釈によると、現代社会は「いい」「悪い」の二つしかない時代。
芸人はかつて「いい」と「悪い」の間に存在したが、近年は「いい」のほうに来てしまった。
だから噺家の弟子も「いい弟子」「悪い弟子」しかいない。悪い弟子は破門されて残らない。
天歌事件は、師匠がこの間にあるグレーゾーンにいたまま、アップデートできてなかったのが原因だろうという。

分析は見事なのだが、語り口がまわりくどいのはいただけない。
私はこのインテリ噺家について、常に評価が行ったり来たりしている。
今日は分析力に感心し、同時に語り口に失望。
本編の「鼻ねじ」に入るとよかったのですが。
珍しいこの噺、つい先日東京の雷門小助六師から聴いたばかり。
偶然のようだが、花の季節が迫っているということである。
内容はほぼ同じだが、サゲを隠さずに、先に振ってしまうのがたま師のもの。
軽い噺なので、効果のほうはどちらでもいい感じだ。

桂南天師はちりとてちん。
メジャーな演目であるが、調子のいい男を調子のよさで笑わせ、嫌みな男は本当に嫌みという正攻法。
見事な一席でした。

笑福亭松喬師は「てれすこ」。
これも珍品だが、以前演芸図鑑で掛けていた。
今回はNHKと違い時間が長いので、地噺ならではの脱線ギャグもたっぷり。

トリが林家菊丸師で「吉野狐」。先代菊丸の書いた噺だそうで。
異形のものとの婚姻という、「猫の忠信」や「天神山」と同じテーマを扱った人情噺。
特に猫の忠信とは元ネタが一緒だ。
上方落語の中ではかなりあっさりしている菊丸師、東京落語好きにはぜひ聴いて欲しい人である。

夜の部「桂二葉しごきの会」に続きます

(2023/6/4追記)

笑福亭たま師の「鼻ねじ」は、ちょっと前のなみはや亭で流れていたので再度聴いた。
もう1回聴いたら、なんのスキもない見事な高座でした。
語り口も、二度目だとまるで気にならない。
不思議なものである。

 
 

作成者: でっち定吉

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