黒門亭22(上・柳亭市若「初天神」)

〆切りを終え、超久々の黒門亭へ。
前回はなんと3年前、2020年の正月だ。そんなに空いてるのか。
自分でも驚いた。
コロナに翻弄され続けた黒門亭、ようやく普通にオープンしている。別に電話予約もせず、当日行けばよし。

私は落語協会も芸術協会も好きだが、落語協会の噺家のほうが詳しい。
その理由の大部分が、ここ黒門亭にあると思う。

中央通りに警官がたくさん出ているのでなにかと思ったら、東京マラソンがあったのだな。

5日一部のトリは柳家さん遊師で、ネタ出しは「三人旅」。
この大好きな師匠も久々である。
柳家の精鋭揃いで、全員が目当てだ。

10枚たまった半券も、3年間持ったままだった。
今回ようやく一掃しました。なのでタダで入れる。
ちなみに、この日曜日は拝鈍亭の橘家圓太郎師の独演会とハシゴ予定。
圓太郎師から、東京マラソンの話が聴けるだろうかと思ったが、なかった。
3時間空いているので、落語協会そばのローソンでこの記事書いております。

客は20人ぐらい。

たらちめ辰ぢろ
初天神市若
長屋の花見甚語楼
(仲入り)
花見小僧おさん
三人旅(ネタ出し)さん遊

 

前座は入船亭辰ぢろさん。よく遭遇する人。
メクリの文字が「ぢ」「ろ」を似た字で書いていてオシャレだ。ただし「ろ」が「ら」にも見える。

入船亭のお家芸、たらちめ。
標準バージョンよりも長い言立てがある。
恐惶謹言で落とすのが、この一門のスタンダードみたい。
現扇橋の兄弟子、小辰さんはもっといろいろ足しこんでいたが、辰ぢろさんは隣の婆さんとか湯屋とか、チンチロリンのガンガラガンとか、このあたりみんなカット。

語りはごく穏やか。大家も八っつぁんもむやみにハネない。
いっぽうでいろいろ工夫をしている。
「身を固めないか」に「セメントで?」とは返さない。
「キズがあるんじゃねえすか」と言わず「どっか変わってるんじゃねえすか」
「兄弟同様の」ではなく「夫婦同様の」などなど。
シンプルだが、実に結構な一席。
大家と八っつぁんのナチュラル漫才がいい気持ち。

二ツ目が面白落語のホープ、柳亭市若さん。
そういえばこの愉快な人、前座時代ここで何度か聴いたものだ。
同時期の前座に、よく似た体型で落語が上手い柳家小ごとさんっていう人もいたんだけど・・・

ハイテンションでオリンピックのマクラ。
私こう見えて、スポーツは不得手ですとのこと。
2021年に、有償ボランティアとして参加したのだそうだ。たまたまなんだけども先日神田連雀亭で若手のバイト事情を聴いたところで、タイムリー。
誓約書に、「業務上知り得たことをSNSに上げない」と書かれていたそうだが、「高座で喋ってはいけない」という決まりはなかったんだそうだ。

例の廃棄されたお弁当の話。お弁当にはイオンリテールと書いてあったそうで。
観客誘導の仕事をしていた市若さん。無観客なのに。
パラリンピックになると、相変わらず無観客だが、小学生が競技を見にくる。
日野や町田の子はいいのだが、港区のガキはクソだったと。
SGD小学校のガキは最悪。コカ・コーラ製品以外の飲み物を持ち込んじゃいけないのに、ここのガキはペプシコーラを手に掲げて入ってきた。

子供の話をしますと初天神へ。
一度市若さんの初天神は神田連雀亭で聴いた。かなり衝撃を受けたものだ。
実に自然な子供を描く、市若さん。あくまでも、落語の中で自然ということだが、これは簡単なようで難しい。
連雀亭ではアメを抜いていたと書いている。そして団子を色付きにしていた。
この工夫は効果を感じなかったのか、一般的なものに戻していた。
でも、「ポチャン」でサゲるのは一緒。

導入がすでに親父と歩いているシーンで、金坊が「いきなり話に入るんだね」とツッコンでいる。

屋台をいちいち練り歩くが、お店が増えていた気がする。
中津唐揚げとザンギが隣同士だよとか。
大タコ焼きは、タコが大きいのか、タコ焼きが大きいのか、どっちだろうって。
飴屋が金坊に「いい腕してるね」。これは一之輔師にもらったクスグリか。

飴にツバ付けるシーンと、ポチャンでは、「スシロー事件があったばかりなのに」と金坊。

事件を、初天神に活かせるなと思ったのは市若さんだけではないだろう。
でも、時事ネタ入れてたちまち面白いものかというと、そんなことはなく。むしろ、もういいよなんて高座もたくさんある。
後で思ったのだが、結局市若さんの秘訣は、「客に向けて喋ってない」というところにあるのだろう。
時事ネタも、あくまでも親子の会話の一環なので、楽しく聴こえてくるわけだ。
面白派でも、やはり柳家なんだ。

楽しい一席。
続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. まだ連雀亭で30席ほど聞いただけの初心者ですが、聞いた中では市若さんが一番好きです。
    今年のさがみはらでは同ブロックで一番下だったので、見てないながら自分の感性がダメなのかと思ってましたが、でっち定吉さんが、褒められてるのを見てちょっと安心しました。
    まだ二つ目になって二年、試行錯誤の段階で、良いときと悪いときのムラがあるとかはあるのかも知れませんね。

    ちなみに連雀亭の中では、年齢上めと立川流の方に個人的に苦手意識があります。当てはまっていても良い方はいらっしゃるのですが。

    1. 30席聴いてる人は初心者じゃないですよ。

      市若さんはおもしろ路線なので、客へのアジャストが難しいのはあるかもしれません。
      私は一度だけハズレ高座に出くわしましたね。あとは感心してばかりです。

      年齢上の立川流。。。数人いますね。寸志さんは上手いですが。
      立川流は私も目当てにしていくとなると吉笑、笑二の兄弟弟子程度で、正直あまり知りませんけどね。
      聴いてハズレだった人はよく覚えておりますが。

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