芸術協会の新真打が発表されており、師匠に止められていた春雨や風子さんもようやく昇進とのこと。
これは追って取り上げます。今日のテーマにちょっとは関係するかもしれません。
春風亭一之輔師が笑点メンバーに選ばれた際も、思えばそうだった。
師を紹介するメディアでは「21人抜き」というフレーズがいちいち付きまとう。ついこないだのこと。
抜擢真打の人は人気実力だけでなく、抜いた人数まで一生ついて回る。
○人抜いた側からしか見なければ、非常にめでたいことに映る。
だが抜かれた側あっての抜擢だ。
抜かれた側には誰も着目しない。
光あるところに影がある。
影の側も気になる。
このたび林家つる子、三遊亭わん丈に抜かされていく落語協会の二ツ目たちは、どんな心境であろうか。
抜かれる側の心の傷は、顧みられない。
その後、抜擢組に負けずに奮起し成功する人もいるわけだが、果たしてそれで心の傷は癒えるだろうか。
圓生会長時代の落語協会のように、「選ばれたものだけ真打になる」時代においては、抜かれたと言ってもそれほど腐りはしなかったと思うのだ。
日ごろから高座で競っていれば、だいたい力関係ははっきりしてくる。
受賞と同様、わかりやすく実力で差がついたのなら、あきらめるしかない。
「俺のほうが上手いのに」という怒りを持つ場合もあるかもしれないが、こんなのは初歩的な勘違い。
同格だと思ったら向こうが絶対上手い、向こうが上手いと思ったら実力は段違い。落語界にはこんな格言も古くからあるので、著しい勘違いはしづらいだろう。
いっぽう、抜擢というものは、義務的に行われるものではない。
基本的に年功序列で真打になるルールが確立されている中、臨時にそれをわざわざ打ち破っていくのだ。
これはもう、後輩が賞を獲ったというレベルでは済まないショックではなかろうか。
立川談志は後輩の志ん朝に抜かれたのがずっとショックで、心に傷を負ったという。
談志の弟子の談四楼師も、小朝に抜かれてずっと卑屈になっていたと。
この人が真打昇進試験に落ちたことが、立川流ができたきっかけ。
年功序列真打の制度は、協会を割った争いなど過去に踏まえたうえででき上ってきたもの。
この基本的方針に文句を言うのは違うと思う。落語を知らない人には多いけど。
そもそも大会ならともかく、審査員がいない状態で実力を判断するというのは極めて難しいのだ。
難しい前提の下では、思わぬ情実が絡んだりなんかして。
私は個人的には、決して抜擢推奨派ではない。
今度の抜擢真打に別段異論がない、というだけで、抜擢を本質的によしとする気にはなかなかなれない。
月曜日に聴いたばかりの林家はな平師が、今回の抜擢に関してnoteに書いている。
ちなみにつる子さんの兄弟子である。
成田悠輔を引用していたのだけ、どうかと思った。
「年寄りは集団自決しろ」と言い放った人のワードを引用するのは、若手真打としては穏やかでない。
それはともかく。
はな平師は抜かれた経験はない人。にもかかわらず、二ツ目時代を振り返り、抜かれる心境がありありとわかるのだという。
そして、賞を後輩が獲るよりずっと悔しいだろうと。
なかなか、こういう立場を代弁するプロはいない。当たり前で、代弁する立場に一生ならないからだ。
幸い、はな平師は自分でも書く通りの地味な芸風だったが、ここに来て躍進中。芸術祭の優秀賞を獲ったのはかなり大きなこと。
ご本人も東京かわら版に受賞のコメントを寄せていたのだが、「私のような芸風は見つかりにくい」と述べていた。
なおかわら版を見返しているのだが、このコメントが見つからない。大きく違うことはないと思いますが念のため。
私も、はな平師を見つけた芸術祭の審査員はすごいなと思う。
はな平師は鈴本のトリも取り、今後ますます伸びていくであろう。
ところで今の時点、あるいはもう数年経った時点から過去を振り返ると、こうなるか。
「はな平は目立たなかったが、いつも一生懸命やっていた」。
いや、プロすらこんなことを言いそうだが、本当は違うと思うのだ。
実際には、目立たないスタートから出世した人も、「自分の追求する落語と世間が合わない」とずっと思い続けていたのではないだろうか。
本当にただのヘタクソが、富士のお山のごとく一夜で化けることはないと思う。淀五郎だって決してそうじゃない。
つまり、素質は最初から持っていた。
ただ、もがき苦しむ二ツ目時代に、素質があるかどうかも、本人にとってわからなかった。わからないから自分を信じることもできないでいた。
そういうことだと思う。
ちなみに落語ブログ界も素質があればですが、伸びます。伸びるかもしれない。
1日800アクセス、月間PV5万超を誇る当ブログも、始めた頃から結構面白かったのだと自負している。世間にはしばらく気づかれなかったけど。
ちなみにこの業界、途中廃業者が多いですね。そんなブログをたくさん見てまいりました。
噺家と違って新規参入のハードルはかなり低いです。
春雨や風子さん、ようやく真打昇進、よかったです。止められていた事情は詳しく知りませんが、真打ちになってなんぼの世界ですからね。
ナイツのライブで顔付けされてい太時に見たことがありますが、この人の宝塚の物まねが面白かったです。今は廃業した林家扇も出てました。事情はあったのでしょうが、真打直前の廃業は、早すぎたのではないかと。
風子さん、落語上手いですから不可解ですね。
余芸に精を出すのが師匠として許せなかったのか、よくわかりませんが。