抜擢で香盤抜かれても腐っちゃいけない(下)

昨日の「上」は間違えて午前0時にアップしてしまった。
アクセス増えたので結果オーライで。今日の「下」も時間合わせます。

抜いた人数でもって抜擢真打ランキング作る文化にも違和感が大きい。
古今亭文菊師は28人抜きだが、21人抜きの一之輔師より決して上に見てはもらえない。
当たり前で、一之輔師は単独であり、文菊師は半年後に古今亭志ん陽師と一緒だったからだ。
同じ抜擢組でも、永久に差を付けられている。
将来の可能性はもちろん自分次第ですが。

抜擢は必ず偉いかというと、文菊師と一緒に昇進した古今亭志ん陽師は、昇進以来一度も脚光を浴びたことがない。
本人も辛いんじゃないか。小三治抜擢は、光の中に影を生み出したのだった。
だいたい、受賞歴のないこの人を抜擢するとなると、小三治基準以外にない。その基準は合ってたのか?
ちなみに志ん陽師は抜いた側だが、一之輔師に抜かされた立場でもある。

さて、「あの人もこの人も抜かされた」が今日のテーマ。
本当に、腐っちゃダメなんだ。あきらめないで欲しい。

春風亭一朝師は、抜擢でスターダムに輝いた小朝師の兄弟子。
しかし、現在の落語界の地位では、弟弟子を抜いたと思う。なによりも、一門が大きく伸びている。
直弟子が、一之輔を含む10人。そして孫弟子も4人。
一朝師は芸術祭優秀賞以外に、芸術選奨を獲っている。これも弟弟子に並んだ実績。

一朝師に触れたので先に書いてしまおう。
落語協会でこの次の抜擢があるとしたら、末弟の朝枝さんだと思う。
二ツ目香盤を見ていくと、面白い人も、私の好きな人もいるのだが、客観的評価としてはこの人まで開くなと。
朝枝さんはもちろん上手いが、さらに抜擢向けの要素がある。
「大物っぽい」のである。
落語協会において、大物として扱われがちな風格を感じるのである。
ただこの要素、芸術協会に行くとまるで用事がない。昇太会長を見たらわかるでしょう。
朝枝さん、ネックがあるとするならスタイルがNHK新人落語大賞向きではない。あれを獲れば確実性が大いに高まるのだが。

姉弟子の一花さんは、すでにさがみはらの受賞歴があるから、NHK新人落語大賞を獲れたら可能性あるかもしれない。その場合、旦那(馬久)と同時に昇進したらどうでしょうか。

柳家喬太郎師は抜擢で、同じく抜擢の林家たい平師と同時昇進。
多くの先輩を抜いた。
喬太郎師は語らないが、さん喬の弟子のくせに変な新作するというので、楽屋で先輩にはいじめられたという。
抜かれた先輩のひとりである三遊亭白鳥師が語っている。
白鳥師も出世したが、他にも橘家文蔵、喬太郎と同期の入船亭扇辰など売れっ子が出ている。
喬太郎師は抜擢にあたり、扇辰師と、同じく同期の林家彦いち師に対しかなり気を遣ったそうだが、二人はまったく気にしていなかったという。
別格過ぎたのか、自分の道が他にあると思ったのか、痩せ我慢かそれはわからない。

一之輔師が抜いた中には、今のところ抜けた人は見当たらない。
一番売れてるのは三遊亭天どん師だろうか。
この人は抜かされただけでなく、小三治会長により昇進を待たされた。ちょっと粗末に扱われすぎである。
ただ、一之輔師に抜かれた古典派には、これから徐々に抜け出してきそうな人がいる。
噺家には輝く時期があるのだ。
たとえば桂やまと師。落語研究会にも呼ばれている。
それから、金原亭馬治、馬玉の二人。トリもたびたび取ってる人たちだが、いずれ寄席の常連になりそう。
文菊師に抜かれたが、頑張っているのが林家たけ平、台所おさん、春風亭三朝というあたり。
台所おさん師は個人的に本当に面白いと思うのだが、どうでしょうか。
春風亭三朝師はその後NHK新人落語大賞を獲った。そこに至るまでには屈折も数多くあったんじゃないかと想像する。兄弟子・一之輔とも折り合いがよくなかったはず。
NHK受賞で燃え尽きてないことを願う。
あとはトリもある柳家さん助師とか。

芸術協会に転じると、久々の抜擢だったのが桂宮治師。本人も、異種目とはいえ神田伯山に抜かれたひとり。
その前、柳亭小痴楽師も抜擢と言われていたが、香盤上では誰も抜いていない。
宮治師に抜かれたのが、三遊亭小笑、春風亭昇々、春風亭昇吉、笑福亭羽光の4人。
この組には、抜かれて悔しがった人はいないような気がする。成金仲間と、宇宙人ひとりだから。
宮治師は二ツ目昇進直後にNHK新人大賞を獲り、寄席からも抜擢が期待されていたが、当時の歌丸会長が抜擢を止めていたのである。
歌丸師が没したから実現した抜擢だ。こういうのは抜かれた側はあきらめは付きやすい。
それでも、抜かれたほうも順調に出世している。
小笑師だけは今後のトリもなさそうだが、他の3人はすでにトリを取っている。
羽光師は、二ツ目ギリギリでNHK新人落語大賞を受賞した。
昇々師には、抜かれた代償として「春風亭柳昇」の名跡が与えられるという私の読みは見事に外れた。
たぶん、今後もないと思う。昇太師の弟子の下のほうに売れっ子が出ればと思うが、それもなさそう。
昇々師は私の期待の人だが、先日浅草お茶の間寄席で出していた「会社を全裸で疾走したい」ネタはスベッてましたな。

そして本来この次の香盤だった春雨や風子さんもいよいよ真打昇進。
二度飛ばされたのだが、昇々師たちと一緒でもよかったので、実質三度ではないかな。
なんとなくだが、師匠との関係から亭号が「春雨や」でなくなる気がする。
雷門でもなくて、新亭号になるんじゃないか。落語協会の弁財亭和泉師のように。
不条理に待たされた風子さんだが、先日書いた通り芸協版の「桃組」が取り仕切れると思う。

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作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. 柳昇の名跡は~成金の最終兵器~昇也師が「狙っちゃおうかなぁ、でも昇吉兄さんとかマジで狙ってそうだしなぁ」とネタにしてましたw
    鯉昇一門からは出なそうだし、案外、昇也師は今後の売れ方次第ですがありかな?

    1. いらっしゃいませ。
      マジレスすると、新作派じゃないのでダメだと思います。
      柳昇系も、孫になるとすっかり古典落語メインになっちゃって。
      それがいけないというのではないですけど。

  2. 馬久さんと一花さんの同時真打昇進、後者が抜擢になりますが、じゅうぶんありそうです。
    ちなみに、抜擢昇進で待たされた人たちは、次回まとめてその下の人たちとまとめて8人昇進みたいに上がるのですか?

    1. まとめて昇進・・・あるかもですね。
      抜かされた人はどうしても十把一絡げになりがちですね。仕方ないんでしょうが。

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