神田連雀亭ワンコイン寄席48(上・立川志のぽん「権助魚」)

ちょっと出かけたいな、という際に神田連雀亭はぴったり。
前日に顔付けを確認してから。
3人とも目当てです。

権助魚 志のぽん
締め込み 竹千代
刀屋 小もん

客は7人。
ちなみに昼席の顔付けは確認していなかったが、現地でもって、春風亭一花さんと立川笑二さんが出ると知る。
一瞬、昼まで居続けようかと思ったが、やめる。
ワンコイン終了時、昼席を待っている客がいたので驚いた。

前説の竹千代さんは面白いことは一切言わない。なんだか意外な気もする。

トップバッターは立川志のぽんさん。昨年初めて遭遇し、気に入ったのだ。
今回はメガネを掛けているが、本編に入るときに外す萬橘方式。
円楽党よりも芸協で最近よく見るスタイルで、どうやらこの連雀亭から流行っているみたい。

八丈島に仕事で行ったそうで。
地元の人と、「八丈島と茨城はどっちが下か」を一生懸命自虐自慢し合う。
八丈島ではコンビニスイーツも気軽に楽しめないんですよ。いやいや、茨城なんて評価ワースト県ですよと。
しかし、八丈島の人はどこかに「東京都民だ」という誇りがうかがえるとのこと。

「田舎」というのがごく薄くつながるのか、あるいはまったくつなげる気がないのか、権助魚へ。
いきなり権助のセリフから始まるので驚いた。おかみさんに1円もらって、旦那の素行を探る依頼を受けたことを語る。
最近、創作力の高い人は古典落語のガワだけ使って、中身を自由に作れるんだなあと感じたものだ。
きっかけは、ラジオで聴いた桂南天師の「ちりとてちん」である。
いったんこの能力が気になると、意外と見つかるものだ。
古典落語ってのは自由だなと。アレンジでなくて、ガワを残して中身を創作してしまってもOK。
志のぽんさんの権助魚からは、この自由さを他にも結構感じた。
たとえば、旦那のお出かけを立ち聞きしている権助。立ち聞きではねえ、座って、湯呑みを壁に当てて残らず聞いてただ。

旦那のお供で出かける際、急に選挙のことを話し出す権助。
岸田さんの関係の人が勝ったのか負けたのか、こんな話は談四楼師匠に任せるだ。

ニシンにスケソウダラ、メザシにタコにかまぼこ買って、帰ってくる権助。
ちゃんと旦那の言いつけを復唱したし、網獲り魚も確認したし。なので自信満々。
権助の自信をしっかり描いているので、午後2時に出かけ、2時15分に帰ってきたくだりがちゃんとウケるのであった。
やはりこの噺、ここがウケないとだめだよね。

丁寧なところも。
旦那に、家に帰り、架空の遊びを話せと命じられる権助。
権助、ちゃんと復唱している。
それから魚屋に行く際、「おら山のもんで網獲り魚はわかんねえだな」とひとりつぶやかせている。
確かに現在、魚見てまるでわからないやつはいないからね。
あと、「この気持ち悪い魚がかまぼこ」とおかみさんに説明する権助だが、「魚のほうが気持ち悪くないかい」と返されている。
これは権助魚の歴史においてはエポックかもしれない。確かにそうだ。

志のぽんさんは、落語のセリフを流れるように喋る。これは明らかに、狙っているもの。
確かにどんどんいい気持ちになってくる。
ただ欠点がひとつあって、本当にセリフが流れてしまうことがある。
狙っているのだからいいようなものだが、流れるセリフまわしでも、語尾が明瞭であってほしいななんてちょっと思ったり。

もう18年活動しているこの人、春雨や風子さんが昇進したら、連雀亭で一番キャリアの長い二ツ目になるんじゃないでしょうか?
立川流というところは、自分で動かないと真打になれないそうだが(吉笑さんいわく)、動いているのかしら?
賞は獲ってなくても、面白い人です。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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