藤浪晋太郎叩きに林家三平を重ね合わせる

♪フジナミなのね あなたとっても
フジナミなのね 私はとりこ

「とってもフジナミ」という歌が頭にリフレインする。
そんな歌ありません。

オークランド・アスレチックスの藤浪晋太郎投手が批判の嵐である。
まあそりゃ、4度先発して、3度まともなピッチングができなかったのだから当たり前と言えば当たり前。
そして、もはやチャンスは与えられない様子。じきに下に落とされるだろうと。
メジャーに行った日本人、どんな状況か世間が気にするのはおかしなことではない。
しかし期待外れであれば、同胞叩きが始まることもある。
ただ今回は、「まあ当たり前だよね、だってフジナミだもん」。そういう感じ。「日本人として恥ずかしい」とか、そういう思いを発動せず、ただ批判する感じ。
珍しいことではある。

私はもともと、阪神にいた頃の藤浪晋太郎について多くを知るわけではない。
当初期待されていたしそこそこの実績もあったが、やがてパタッと使い物にならなくなったという、ごく一般的な知識を持っているだけ。格別関心を持ち続けていたわけでもない。
今回のメジャー移籍についても、上手くいったらいいね、ぐらいの興味。
蓋を開けてみれば、環境が変わって大活躍という望みも潰え、日本にいた頃とまったく同じなのであった。
打たれるなら打たれるでいいわけだ。通用しなかったねということになる。
だが、打たれる以前に自滅するという投手は、確かに例がないものではある。

まあ、活躍できないのは仕方ない。ただの結果。
なのだが、今回に関してはそれで終わらない。
今回は、「なぜ藤浪はダメなのか」というところまで、延々論じられるのである。
彼が、絶対通用するとでかい口を叩き、阪神タイガースに不義理を働き、後ろ足で砂を掛けてメジャーに行ったというならわかるのだが、そんな事実はなく。
「阪神は不良債権を多額で処理できてよかったね」という論調にして、みんなで喜んだっていいところなのに。

藤浪はイップスだなどと言われるが、もちろん「イップスだなんてかわいそう」という評価ではない。
世間の論調は、イップスも直せないでなにがメジャーだ、である。
そして、みんなして藤浪の性格・態度に失敗の原因を求める。
「オレ様だからいけない」「教えを乞わないからいけない」「人の話を聞かないからいけない」
こうなったのも当然だという意見のオンパレード。万人のサンドバッグだ。

これに不思議な既視感を覚えたわけである。
落語界における、林家三平とよく似ている。
笑点における林家三平は、ファンのマイナス評価が膨れ上がってついに臨界を迎え、ようやくクビになった。
「自主的降板」かクビか、この違いを誰も論じないのも、思えば珍しいことだ。
ほぼすべての人が、はじめから「実質クビ」と理解しているわけだ。

三平も、「どうして大喜利がヘタなままだったか」をいつまでも論じられている。
それどころか、仲間だったはずのメンバーがわざわざラジオで、公開処刑をしていく。もう辞めているのに。
これがご存じ円楽師であった。
もう済んだことをわざわざ世間に向けて発信する円楽師には、正直不快感を覚えてならなかった。今でもなお。

そのとき書いたもの。三遊亭円楽、三平へパワハラ発動

だが、円楽師がそうしたくなった気持ちぐらいは、今にしてわかる気もする。パワハラとの評価は撤回しないけど。
円楽師も、三平のダメさを、本人の態度に強く求めていた。
藤浪と同じく、「能力がなかった」で本来済んでいるはず。なのにわざわざ、できない理由を性格面に求めるのである。
能力は批判できなくても、性格と態度にすり替えれば、非難する理由が生じるわけである。

最近ナイツがラジオで三平をいじっていたという。聴いてないのだけど。
もともとねづっちがツイッターで、「なぞかけ考えてくれ」と頼んでくる業界人にうんざりしているとつぶやいていた。
それが実は三平であったという。しかも、マクラのために頼んだ当人は、ねづっちの怒りにまるで気づいていなかったそうで。
これについては明らかに「態度」が悪いのだから、非難されても確かに仕方ない。
だが、こういうのも全部、笑点での失敗から生じているのだ。「ちょっと厚かましい」で終わらなくなったのは、降板が遠因だろう。

さてここまで、世間の批判のありようを他人事のように眺めてきたが、そんなわけにはいかない。
私も、円楽師のパワハラ発動以前に、「林家三平はなにがダメだったのか」なんて記事を、3日に渡って書き連ねたわけだから。
検索に掛かるので今でもアクセス多い。

しかし私に違うところがあるとすれば、笑点での失敗を「性格」「態度」には求めていないつもりである。
本人なりには一生懸命やったのだけど、ピントがずれていたのだ。どんなに「上手いこと」言ってもダメだった。
もっとも三平はともかく、性格自体を批判した矛先も当ブログ、いるのは確かだが。

藤浪晋太郎についても、「ダメ」評価まではいいとして、円楽師みたいに本人の態度にまで原因を求めないで欲しいものだと思う。

今思うと、イチローは奇跡だった。
あれだけ傲慢だったのに、非難のスキを与えなかったのだから。

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. ナイツ塙の三平いじりは大いに笑いましたけどね。最初の暴露を聞きつけた三平にそんなこと言うなと怒られた話を更に翌日暴露して。
    定吉さんがピントのズレを指摘しているのと同じことかと思いますがいじられてもそれを笑いにするでもなく封じようとするし、海老名家の面々のことだって笑いに変えられるだろうにしようともせず。なんかズレてるんですよね。

    1. いらっしゃいませ。
      ズレを楽しむところで止まっていれば平和でいいなと思うんです。ナイツ塙はこのあたりの絶妙なイジリが上手いですね。
      最近、なんだか落語協会の同業者たちが安心して叩いている様子は、絶妙なラインを越えてしまっている気がするのです。

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