黒門亭23 その4(林家きく麿「ニコ上の先輩」)

きく麿師も柳枝師と同様、前日の大喜利に参加していた。
三遊亭ふう丈さんには、お約束のいじりができた。会う先輩がことごとく、「抜擢真打おめでとう」。
そのたびにふう丈さん(熊本出身)が「そらわん丈やって!」と絶叫する。
こんな話をしていたら袖からふう丈さんが出てきた。実際にポーズ付きで「そらわん丈やって!」を実演する。大盛り上がり。

ふう丈さんは袖で勉強させてもらってたようだ。
私もこのたびの抜擢で「抜かれた側」に注目しているのだが、やはりふう丈さんも辛かろうな。
早くから弟弟子(といってもほぼ同時入門)のわん丈さんは売れているから、あきらめは付くにしても。
でも、光のダークサイドを関係者がみな気にする中、ふう丈さんがそのモヤモヤを吸収しているのだ。偉い。
林家なな子さんは同じ役割は果たせないだろうし。

きく麿師は大喜利で圓歌師のモノマネをするのだが、時節柄お客さんにはとても評判悪いんだそうな。
どうやらそうみたいですね。このたび「浅草お茶の間寄席」で圓歌師の高座が流れたけども、お客がとても突き放して眺めている空気が画面からも感じられた。
なのできく麿師、手短にモノマネ披露。「パワハラはダメよ」と。

きく麿師、京都で落語会があった。ゲストに先輩の桂文鹿師を呼ぶと、二つ返事で出てくれる。
楽屋で話が弾み、一発キツい新作を披露してきますときく麿さん。文鹿師も「おおー、やったれ! 俺もさわやか暴走族やるわ!」
しかし先に出たきく麿師、だだスベリ。京都のお客は露骨に引かず、やんわり遠ざかる。
次に出ていった文鹿師、「鹿政談」を掛けていた。
(「さわやか暴走族」という噺は多分ないのだが、きく麿師の発言ママ)

文鹿師は東京の仕事も多い。先日浅草の木馬亭に出た際、近所で短刀を見つけて購入する。
ニイさんそれなにに使うんですかときく麿師が聴くと、文鹿師「背中に差しとんねや」。高座のデキが悪かったら腹斬る覚悟らしい。
この文鹿師、あるとき上方落語協会の会合でもって吠えた。
「繫昌亭に出してもらってるのをいいことに、いっつもおんなじマクラでおんなじ噺をやっとる奴らがおる!」
これを機に、協会を抜けてしまった。

きく麿師のマクラから、がぜん文鹿師に興味を持ってしまった。聴きたくなった。
協会を今どきおん出るなんて、偏屈でアナーキーな人なのかと思っていたのだが、結構ロックな人みたい。
先日しのばず寄席のねづっちの漫談で、時間を勘違いして早く下り(しかも続けて二度)、ねづっちを困らせた噺家の話題が出ていた。東京かわら版を調べて、犯人が文鹿師であると見抜いたところでもある。

野ざらしに被せ、マンタ倶楽部(協会の釣り団体)の話。
丈二師が抜けたいという。
かつてここ黒門亭で、丈二師からマンタ倶楽部の楽しい話を聴いたのを思い出す。
リーダーの白鳥師が、せっかくだから補充メンバーを探すと言う。なんと、先輩の柳家はん治師に声を掛けた。
はん治師(モノマネ)、「行ってみたいねえ」とノリノリ。
このはん治師、池袋でやってたきく麿師のロボットの噺を袖で聴いてくれていたらしい。
その日の鈴本の楽屋で、「ロボットがねえ、おもしろいんだよー」と熱く語っていたのを、後輩がきく麿師に教えてくれたという。
間接的に誉められると嬉しいですねときく麿師。

はん治師も面白いですね。
はん治師は新作派といっても自作ではないけども、その活動がリスペクトされているらしい。

盛り上がって本編「ニコ上の先輩」へ。
池袋の新作まつりでネタ出しされるということは落語協会の募集台本なのだと思うが、詳細はよくわからない。

二学年上の先輩に、いつまでも悩まされる男二人。
もう会社でもそこそこ偉くなっているのに、相変わらず先輩に呼び出される。
なにして生計を立てているのかもわからない先輩は、時間が止まったような人。

風刺の強い作品なのかと冒頭では思ったのだが、実は全然違った。
新作落語にたまにある、エピソードものというか、アンコ入りというか。
先輩のリクエストに応じて、「怖い話」をたくさんしなければならないのだが、後輩たちはちょっと捻って「怖い話かとおもいきや全然怖くない」話を次々披露する。
これが爆笑なのであった。ほとんど中身は忘れちゃったけど。

ずいぶん前にここ黒門亭で聴いた、柳家小ゑん師の「アセチレン」を思い出した。
他に例がありそうで、なかなか見当たらない。
古典の珍品「庚申待ち」(宿屋仇の別バージョン)ぐらい。

また聴きたい噺です。書けることがほとんどないのだけど。
ついでにアセチレンもまた聴きたくなった。

大満足の黒門亭でありました。
上中下3日のつもりだったが、中身が濃くて4日になってしまいました。

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作成者: でっち定吉

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